【研究成果のポイント】
・変形性膝関節症患者に対する、新しい治療であるモバイルヘルスの世界中のエビデンスを網羅的に検索し、要約しました。
・従来型の治療と同程度の有効性があることが示唆され、症状の自己管理にはアプリを活用することで医療費抑制にも役立つ可能性が示されました。
【概要】
信州大学医学部保健学科理学療法学専攻 北川 孝助教らの研究グループは、加齢や肥満などが主な原因で発症・進行してくる変形性膝関節症において、近年増加傾向であるスマートフォンアプリなどを活用したモバイルヘルスと呼ばれる治療介入により、痛みや日常生活動作の動作制限がどの程度改善され得るのかというエビデンスを、網羅的な文献検索と世界標準の厳格な手法に基づき、調査・要約しました。国内からの報告例は含まれていませんでしたが、諸外国ではすでにいくつかの臨床試験にてモバイルヘルスの有用性が検討されていること、そしてモバイルヘルスを用いた治療が概ね従来型の治療と遜色ない治療効果があることが示唆されました。
本研究成果は、Journal of Medical Internet Research に 2023 年 5 月 8 日付で掲載されました。
【背景】
高齢化が進む世界の国々において、変形性膝関節症は人生の高齢期の生活の質を下げる主要な病気の一つと言われております。従来は外来診療などによる薬物療法、患者教育、理学療法などの保存療法と呼ばれる治療が主な治療手段でしたが、近年はスマートフォンアプリなどを用いて患者に運動や病気の知識に関する情報提供を行うモバイルヘルスと呼ばれるアプローチの有用性に関する報告が増えてきていました。今回の研究は北川助教らが現在準備しているモバイルヘルスケアアプリ開発の基礎的位置づけ・国内外の情報を掌握することを目的として、変形性膝関節症患者自身がモバイルヘルスを活用して症状・動作制限を上手くマネジメントするためのエビデンスをレビューしました。
【研究手法・成果】
本研究では近年注目が高まっているスコーピングレビュー注 1)と呼ばれる手法を用いて、全世界における変形性膝関節症に対してモバイルヘルスを活用した研究報告事例を網羅的に検索し、それらの報告事例を事前に定めた基準に沿って選別し、8 件のエビデンスを要約しました(図 1, 2)。
諸外国ではすでにいくつかのランダム化比較試験注 2)にてモバイルヘルスの有用性が検討されており、各報告では変形性膝関節症が原因で生じる膝関節の痛み、さまざまな動作の制限・障害、生活の質の改善に対する有用性が検討されていました。モバイルヘルスの介入は、概ね従来型の治療と遜色ない治療効果があることが示唆されました。
図 1. 本研究の文献選択の流れを示すフローチャート
図 2. レビューに含まれた論文のタイトルや抄録に含まれる用語から生成されたワードクラウド
【用語解説】
注 1) スコーピングレビュー
過去に十分な研究がなされていない研究領域のデータを網羅的に収集し、要約する研究手法。
注 2) ランダム化比較試験
ある治療の有効性を科学的に高い妥当性を持って検証するために、臨床試験の参加者を新しい治療と従来型の治療の 2 群などに無作為に振り分けて、それぞれの治療介入後に効果の違いを比較する試験。
【波及効果・今後の予定】
モバイルヘルスケアアプリの使用により、症状・動作制限を患者自身がマネジメントすることが従前よりも容易になることから、薬物療法、理学療法等の頻度を低下させることによる医療費抑制に役立てるものとして、今後は今回の研究で得られた先行事例を基に国内の実情に合わせたヘルスケアアプリの開発に着手していきます。
【研究助成】
本研究は文部科学省・日本学術振興会科学研究補助金(JSPS 科研費 21K17470)による助成を受けて行われました。
【論文タイトルと著者】
タイトル:
mHealth for the Self-management of Knee Osteoarthritis: Scoping Review
著 者:
Takashi Kitagawa, Masateru Hayashi
掲 載 誌:
Journal of Medical Internet Research
D O I :
詳細▶︎https://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/medicine/topics/2023/07/27177524.php
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。