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理学療法の意思決定場面における患者関与の実態

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近年,患者の価値観を治療の意思決定に考慮するShared Decision-Making(SDM)が注目されている一方,理学療法領域では理論的な背景が不足している状況です.畿央大学大学院博士後期課程 尾川 達也 さん(西大和リハビリテーション病院) と 森岡 周 教授ら は,日本で理学療法を受けている患者を対象に意思決定への関与の状況とその要因について検証しました.結果,意思決定に関わる患者の希望を満たせていない実態とともに,理学療法領域においてもSDMが患者関与の一要因であることを明らかにしました.この研究成果はBMC Medical Informatics and Decision Making 誌(Shared decision-making in physiotherapy: a cross-sectional study of patient involvement factors and issues in Japan)に掲載されています.

研究概要

Evidence-Based Medicine(EBM)を実践する際,医療者が患者の価値観を十分に考慮していない実態が指摘されています.近年,医療者と患者が共同で治療の意思決定を進めるSDMが推奨されるようになり,理学療法領域でも注目されています.しかし,既存の情報は医師を主とした研究や数名の患者による質的研究の結果であり,理学療法領域におけるSDMの有用性に関しては理論的根拠が乏しい状況です.畿央大学大学院博士後期課程 尾川 達也 氏(西大和リハビリテーション病院),森岡 周 教授ら の研究チームは,日本で理学療法を受けている患者を対象に意思決定への関与の状況とその要因について検証しました.その結果,治療の決定を「理学療法士が行っている」と認識している患者の割合が多く,意思決定に関わる患者の希望を満たせていない実態が明らかとなりました.また,意思決定への関与に関連する要因として,理学療法士によるSDMの実施状況が選択され,理学療法領域においてもSDMが患者関与の一要因であることが明らかとなりました.

本研究のポイント

・実際の意思決定方法とともに,患者が希望する意思決定方法も同時に評価することで,患者の希望を満たせていない実態を明らかにした.

・患者の意思決定への関与に理学療法士によるSDMの実施程度が関連することを明らかにした.

研究内容

日本の入院環境や地域で理学療法を受けている277名の患者に対し調査を行いました.患者の意思決定への関与を評価するためにControl Preference Scaleを使用しました.これは実際の意思決定方法(Actual Role)と希望する意思決定方法(Preferred Role)の両方を5つのイラスト(A:most active,B:active,C:collaborative,D:passive,E:most passive)から1つ選択する評価で,今回はこの一致度を算出しました.また,SDMの評価には患者が医療者の言動を採点する9-item Shared Decision Making Questionnaireという質問紙評価を使用しました.

図1 実際の意思決定方法と希望する意思決定方法の一致度

実際と希望する意思決定方法は有意な一致度(一致率:49.8% 重みづけκ係数=0.38)を認めたもののκ係数は低かった(灰色).また,希望よりも受動的な関与であった割合は36.5%(青色),希望よりも能動的な関与であった割合は13.7%(赤色)であった.

図2 SDM-Q-9の投入有・無におけるロジスティック回帰分析の比較

意思決定への関与と有意に関連した要因として,1)治療環境が地域である 2)患者が意思決定への関与を希望する 3)理学療法士がSDMを実施することが選択された.一方,年齢や教育年数,歩行能力は,意思決定への関与と有意な関連を認めなかった.

 

結果,実際の意思決定方法と希望する意思決定方法が一致した割合は49.8%(図1の灰色)であり,希望よりも実際が受動的な関与となっていた者は36.5%(図1の青色)もいました.また,意思決定への患者関与に関連する要因として,1)治療環境が地域である,2)患者が意思決定への関与を希望する,3)理学療法士がSDMを実施することが選択され,理学療法領域においてもSDMが患者関与の一要因であることが明らかとなりました(図2).このことから,日本の理学療法領域においても意思決定に関わる患者の希望を満たせていないといった “患者関与の問題点” を明確に示すことができました.また,他の関連要因を調整したとしても,理学療法士によるSDMの実施程度が患者関与と関連した本研究の結果は,理学療法領域におけるSDMの有用性を支持する重要な発見となりました.

本研究の臨床的意義および今後の展開

本研究の結果から,理学療法領域の中でSDMの臨床実践を推進していく理論的根拠を示すことができました.今後は理学療法領域で頻繁に生じる意思決定場面に焦点を当て,患者側の視点を明らかにするとともに,それらの情報を統合した理学療法士に対するSDMの教育的支援も必要になると考えています.

論文情報

Tatsuya Ogawa, Shuhei Fujimoto, Kyohei Omon, Tomoya Ishigaki and Shu Morioka

Shared decision-making in physiotherapy: a cross-sectional study of patient involvement factors and issues in Japan.

BMC Medical Informatics and Decision Making, 2023

詳細▶︎https://www.kio.ac.jp/nrc/2023/07/28/press-13/

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

理学療法の意思決定場面における患者関与の実態

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