手術への耐性・心肺機能等を正しく評価するために! 上肢運動負荷試験による心肺機能評価の可能性を検証

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<ポイント>

・通常、下肢による測定が行われる試験について、上肢で行う場合の差に注目

・上肢・下肢の機能に優れた本学ボート部とサイクリング部の男子アスリート 17 名が実験参加

・調査結果をもとに推定した最大酸素摂取量は、下肢よりも上肢運動負荷試験時が低いことから、上肢による測定は下肢の完全な代替にはなれないことが明らかに

・障がいや怪我による下肢利用困難者に向けた上肢運動負荷試験による心肺機能評価への第一歩

<概要>

 心肺機能の評価指標として用いられる最大酸素摂取量(1 分間に体内に取り込むことができる酸素の最大量)は、一般的に下肢運動による運動負荷試験で測定します。下肢運動が困難な人は上肢運動で測定する必要がありますが、腕の疲労などが原因で十分な運動ができないため、過小評価されることが指摘されています。

 

 大阪公立大学 都市健康・スポーツ研究センター横山 久代教授、生活科学研究科 出口 美輪子特任助教、本宮 暢子特任教授らの研究グループは、心肺機能評価を目的とした運動負荷試験において、上肢を下肢の代わりに利用できるか、上肢を用いた運動負荷試験の結果が上肢のトレーニング状態に影響されるのか否かを明らかにするため、本学ボート部(漕艇部)とサイクリング部に所属する 17 名の男子アスリートを対象に、下肢エルゴメータと上肢エルゴメータを用いた運動負荷試験中の心拍数と酸素摂取量の関係について調査し、最大酸素摂取量を推定しました。

 その結果、ボート部・サイクリング部ともに、推定された最大酸素摂取量は、下肢エルゴメータよりも上肢エルゴメータの方が低い結果となりました。本研究により、上肢のトレーニング経験に関わらず上肢エルゴメータを用いた運動負荷試験は心肺機能を過小評価することが分かりました。

 今後、心肺機能評価のために上肢エルゴメータで運動負荷試験を行うには、運動中の心拍数と酸素摂取量との関係にどのような因子が影響するのかを明らかにする必要があると考えられます。

 本研究成果は 2023 年 12 月 3 日、学術誌「Applied Sciences」にオンライン掲載されました。

 

横山教授 本宮特任教授 出口特任助教

下肢の代わりに上肢を用いた運動負荷試験が心肺機能や運動耐容能の評価として利用可能になれば、日常的に車椅子を利用している方や、整形外科的な問題で下肢を用いた運動ができない方の役に立ちます。本研究で得られた結果を足掛かりに、上肢を用いた運動負荷試験の適用可能性を広げるべく研究を進めていきたいと考えています。

<研究の背景>

 運動負荷試験は、臨床現場において患者が大きな手術に耐えられる心肺機能を持っているか否か、あるいは運動耐容能(身体がどのくらいまでの運動に耐えられるか)を評価する際など、さまざまな場面で用いられています。一般的に運動負荷試験には下肢運動を用いますが、障がいや怪我によって下肢を利用できない場合は上肢運動を用いる必要があります。しかしながら運動負荷試験に上肢を用いた場合、下肢を用いた場合に比べて心肺機能や運動耐容能が過小評価されることが指摘されています。

 上肢運動で見られる過小評価は、腕の疲労などが原因で十分な強度での運動ができないため起こっているだけであり、上肢と下肢とで同程度の運動ができれば過小評価は起こらないかもしれません。このことが証明されれば、上肢を用いた運動負荷試験が下肢を利用できない人の心肺機能や運動耐容能の評価に有用であることを示すことができます。一方で、上肢を用いた運動負荷試験の結果が上肢のトレーニング状態に影響される可能性もあり、本試験の有用性を検証する上でどのような因子が試験結果に影響を与えるのかを調査する必要がありました。

<研究の内容>

 運動中の心拍数と酸素摂取量は一定の直線関係を示し、この関係をもとに心肺機能や運動耐容能の評価指標の一つである最大酸素摂取量を推定することができます。そのため、もし心拍数と酸素摂取量の関係が上肢運動時と下肢運動時で同じであれば、上肢を用いた運動負荷試験が下肢を用いた運動負荷試験の代わりに心肺機能や運動耐容能の評価に利用可能であると示すことが可能です。そこで本研究では、上肢エルゴメータと下肢エルゴメータを用いた運動負荷試験中の、心拍数と酸素摂取量の関係を調べました。

 

 大阪公立大学のボート部(9 名)とサイクリング部(8 名)に所属する男子アスリートに、上肢エルゴメータと下肢エルゴメータを用いた運動負荷試験を実施し、運動中の心拍数と酸素摂取量を測定しました。本研究では、ボート部の学生を上肢のトレーニングを行なっている群、サイクリング部を下肢のトレーニングを行なっている群とし、運動中の心拍数に対する酸素摂取量の関係式を作成しました。その結果、傾きは、ボート部・サイクリング部ともに運動負荷試験に上肢エルゴメータを使うか下肢エルゴメータを使うかで異なり、同じ心拍数となる運動を行ったとしても、酸素摂取量は上肢エルゴメータを用いた運動負荷試験で下肢エルゴメータを用いた運動負荷試験より常に小さくなることが分かりました(図 2)。

 

図 2. 上肢エルゴメータと下肢エルゴメータを用いた運動負荷試験時の心拍数と酸素摂取量の関係

 

 次に、被験者ごとに作成された心拍数に対する酸素摂取量の関係式をもとに、最大酸素摂取量を推定しました。その結果、推定された最大酸素摂取量はボート部・サイクリング部ともに、上肢エルゴメータを用いた運動負荷試験において、下肢エルゴメータを用いた運動負荷試験より低い値を示しました(表 1)。このことから上肢を用いた運動負荷試験は、上肢のトレーニング状態にかかわらず最大酸素摂取量が過小評価されることが分かりました。

 

表 1. 心拍数に対する酸素摂取量の関係式をもとに推定した最大酸素摂取量

<今後の展開>

 本研究において、心肺機能の限界まで運動した時の最大酸素摂取量を推定した結果、その推定値は上肢エルゴメータを用いた運動時で下肢エルゴメータを用いた運動時より小さく、残念ながら心肺機能や運動耐容能の評価を目的とした運動負荷試験について、上肢は下肢の代わりになれないということが分かりました。今後、下肢エルゴメータの代わりに上肢エルゴメータを心肺機能や運動耐容能の評価に用いるためには、それぞれの運動時の心拍数と酸素摂取量の関係にどのような要因が影響するのかを、より幅広い集団を対象に明らかにしていく必要があります。また上肢エルゴメータを用いた運動負荷試験の結果から、下肢エルゴメータを用いた運動負荷試験で得られる結果を予測する方法の確立も目指していきます。

<資金情報>

 本研究の一部は、文部科学省「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(牽引型)」2022 年度連携型共同研究助成による助成を受けました。

<掲載誌情報>

【発表雑誌】Applied Sciences

【論 文 名】Does Exercise Testing with Arm Crank Ergometer Substitute for Cycle Ergometer to Evaluate Exercise Capacity?

【著 者】Miwako Deguchi, Hisayo Yokoyama, Nobuko Hongu, Atsuya Toya, Takahiro Matsutake, Yuta Suzuki, Daiki Imai, Yuko Yamazaki, Masanori Emoto and Kazunobu Okazaki

【掲載 URL】https://doi.org/10.3390/app132312926

詳細▶︎https://www.omu.ac.jp/info/research_news/entry-09722.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

手術への耐性・心肺機能等を正しく評価するために! 上肢運動負荷試験による心肺機能評価の可能性を検証

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