発表のポイント
・生体材料と人工物を組み合わせた、新たな二足歩行ロボットの開発に成功しました。
・従来の筋収縮で駆動するロボットでは難しかった細やかな旋回動作を実現しました。
・このロボット技術は、生物と機械が融合したバイオハイブリッドロボットの開発や生物学的な運動メカニズムの解明に貢献することが期待されます。
筋収縮で動く二足歩行ロボット
概要
東京大学大学院情報理工学系研究科の竹内昌治教授らと早稲田大学理工学術院の森本雄矢准教授らによる研究グループは、培養骨格筋組織の収縮運動で動く二足歩行ロボットを実現しました。
本研究では生体材料と人工物を組み合わせたバイオハイブリッドロボット(注 1)技術を用い、培養骨格筋組織(注 2)の筋収縮運動によって「柔軟な足」を屈曲して動く二足歩行バイオハイブリッドロボットを世界で初めて製作しました。これまでのバイオハイブリッドロボットでは、匍匐(ほふく)移動や魚類を模倣したヒレによる泳動など様々な移動動作が達成されていましたが、大回りの旋回動作しか行えませんでした。本研究で実現した二足歩行ロボットは、ヒトの二足歩行運動で観察される細やかな旋回運動を再現することに成功しました(図 1)。この研究成果は将来のソフトロボットの開発や、生物学的な運動メカニズムの理解に貢献することが期待されます。
図 1:二足歩行ロボットによる旋回運動。「二足歩行ロボット」部分が約 90 度右旋回している。
発表内容
〈研究の背景〉
近年、生体由来の材料と機械部品を融合して製作されるバイオハイブリッドロボットが注目を集めています。その中でも、ロボットの駆動源に筋組織を用いた筋駆動型バイオハイブリッドロボットが盛んに研究されており、これまで、匍匐移動や魚類を模倣したヒレによる泳動など様々な移動動作が達成されています。しかし、これらのロボットは、前に進みながら旋回する、大回りの旋回動作しか行えていませんでした。そこで、本研究では細やかな旋回動作の達成を目指して、培養骨格筋組織の収縮運動で駆動する二足歩行バイオハイブリッドロボットを実現しました。この二足歩行ロボットは、2 つある足のうちの一方を駆動足、もう一方を軸足に用いることで、ロボットボディの内側に旋回中心を設けることが可能になり、細やかな旋回動作が可能になります。
〈研究の内容〉
本研究では培養骨格筋組織を駆動源とする二足歩行ロボットを世界で初めて実現し、バイオハイブリッドロボットにおける細やかな旋回動作を達成しました。この二足歩行ロボットは、柔軟基板を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)(注 3)製の足、歩行動作を実現するための重り、培養液中で直立姿勢を維持するための浮き、培養骨格筋組織から構成されています。この培養骨格筋組織に電気刺激(注 4)を与えて筋収縮運動を引き起こすと、PDMS 製の足が屈曲し歩行動作が実現できるようになるだけでなく、重りが軸足の固定を可能にし、細やかな旋回動作が可能になります。実際、(ロボット長/回転半径)で示される回旋率は、従来ロボットが0.4 であるのに対し、本ロボットではその 5 倍強である 2.1 を示しました。
さらに、シミュレーションを通じて本ロボットの二足歩行メカニズムを解明するとともに、二足歩行による前進運動および旋回運動を実現し、実際に従来のバイオハイブリッドロボットよりも細やかな旋回が可能なことを示しました。
〈今後の展望〉
この研究の成果は、筋組織を駆動源とするバイオソフトロボットの開発や、ヒトの歩行メカニズムの理解につながります。また、薬剤添加時の運動改善効果解析や、薬剤と運動の組み合わせ時の薬剤効能解析、疾患骨格筋組織を用いた際には疾患時の病態解析まで様々な状態での運動モデルとして、薬学や医学分野で応用できると考えています。
〇関連情報:
プレスリリース①筋肉と機械が融合したバイオハイブリッドロボットを開発 ~ 電気で筋肉が収縮し、ぐるりと関節が動き、リングを運ぶ ~(2018 年 5 月 31 日)
https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/2916/
発表者・研究者等情報
東京大学
大学院情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻
竹内 昌治 教授
趙 炳郁(ジョウ ビョンウク) 助教
大学院総合文化研究科 広域科学専攻
金城 立来 研究当時:修士課程
早稲田大学理工学術院
森本 雄矢 准教授
兼:東京大学大学院情報理工学系研究科 客員研究員
2022 年度まで:東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻 准教授
論文情報
雑誌名
Matter
題名
Biohybrid bipedal robot powered by skeletal muscle tissue
著者名
Ryuki Kinjo, Yuya Morimoto, Byeongwook Jo, Shoji Takeuchi*
*責任著者
DOI
10.1016/j.matt.2023.12.035
研究助成
本研究は、科研費「超高感度センシングを実現するバイオハイブリッドセンサ工学の創成(課題番号:21H05013)」、「高速動作可能な骨格筋組織駆動型バイオソフトロボットの創成(課題番号:21H00321)」、JST 未来社会創造事業、JST 創発的研究支援事業の支援により実施されました。
用語解説
(注 1)バイオハイブリッドロボット
生物学的素材と機械的要素を組み合わせて作られたロボット。これにより、生物学的機能と機械的能力の両方を持つ装置が実現されます。
(注 2)骨格筋組織
筋肉の一種で、意志によって制御できる筋肉を指します。この研究では、骨格筋組織をロボットの動力源として使用しています。
(注 3)ポリジメチルシロキサン(PDMS)
柔軟性と耐久性を持つシリコーン系の材料。ロボットの本体に使用されており、柔軟な動きを可能にします。
(注 4)電気刺激
電気信号を用いて筋肉などの生物学的組織を活動させる方法。この研究では、骨格筋組織を動かすために電気刺激を使用しています。
詳細▶︎https://www.waseda.jp/inst/research/news/76424
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。