枕が高いと脳卒中になる? ―特発性椎骨動脈解離と高い枕の関係と、殿様枕症候群の提唱―

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国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)脳神経内科の江頭柊平医師、田中智貴医長、猪原匡史部長らのグループが、脳卒中※1の原因の一つである特発性椎骨動脈解離は枕が高いほど発症割合も高く、またより固い枕では関連が顕著であることを立証し、殿様枕症候群(英語名:Shogun pillow syndrome)という新たな疾患概念を提唱しました。

この研究成果は、国際学術誌「European Stroke Journal」オンライン版に、2024年1月29日に掲載されました。

背景

脳卒中は通常高齢者に起こる病気ですが、若年-中年者にも特殊な原因で起こることがあります。特発性椎骨動脈解離はその原因の一つで、首の後ろの椎骨動脈という血管が裂けてしまうことで脳卒中を起こします。働き盛りの年齢である患者さんの約18%に何らかの障害が残り、根本治療がないことから、発症予防のための原因究明が求められていましたが、約3分の2の患者さんでは原因不明でした。 同研究グループは起床時発症で誘因のない特発性椎骨動脈解離の患者さんの中に、極端に高い枕を使っている人が存在することに着目しました。「高い枕の使用は特発性椎骨動脈解離の関連があるか」、「どのくらいの割合の特発性椎骨動脈解離が高い枕に起因するのか」、について検討しました。

研究手法と成果

国立循環器病研究センターにおいて2018年~2023年にかけて特発性椎骨動脈解離と診断された症例群と、同時期に入院した年齢と性別をマッチさせた脳動脈解離以外の対照群を設定し、発症時に使用していた枕の高さを調べました。高い枕の基準については外部専門家の意見から、12cm以上を高値、15cm以上は極端な高値と定義しました。同時に、枕の硬さや先行研究から椎骨動脈解離に悪影響を及ぼす可能性が示されている首の屈曲の有無についても調査しました。高い枕の使用と特発性椎骨動脈解離の発症との関連を調べるとともに、起床時発症で軽微なものも含めて先行受傷機転のない、臨床的に高い枕の使用が発症原因として疑わしい患者さんの割合も調査しました。

成果

症例群53名と対照群53名を調査した結果、高い枕の使用は症例群が対照群より多く、12cm以上の枕では34%対15%、オッズ比※22.89倍、15cm以上の枕では17%対1.9%、オッズ比10.6倍で、高い枕の使用と特発性椎骨動脈解離の発症には関連が見られました。

また、枕が高ければ高いほど、特発性椎骨動脈解離の発症割合が高いことも示唆されました(図1)。この関連は枕が硬いほど顕著で、柔らかい枕では緩和されました。

さらに本研究では、高い枕と特発性椎骨動脈解離の関連について、首の屈曲が媒介する効果は全体の3割程度であり、寝返りなどの際の頸部の回旋が合わさって、発症に関連する可能性が示唆されました。起床時発症で他に誘因のない、高い枕を使っていた特発性椎骨動脈解離の患者さんは、症例群全体の約1割を占めました(図2)。

(図1)

(図2)

今後の展望と課題

本研究では、高い枕の使用が特発性椎骨動脈解離の発症に関連があり、特発性椎骨動脈解離の約1割が高い枕の使用に起因し得ることが示されました。枕の使用は容易に修正可能ですので、予防につながり得る点で意義があります。 また椎骨動脈解離は欧米に比べて東アジアで極端に多いことが知られていましたが、有力な遺伝因子や環境因子の候補はこれまで見つかっていませんでした。これまで注目されてこなかった文化的素因が一部この地理的偏在を説明し得る点を示したことも特筆すべき点です。

日本には殿様枕と呼ばれる高く硬い枕が17−19世紀に使われていました。髪型を維持するのに有効だったとされ、名前は“殿様”ですが広く庶民の間にも流通していたようです。1800年代の複数の随筆には、「寿命三寸楽四寸(12cm程度の高い枕は髪型が崩れず楽だが9cm程度が早死にしなくて済む)」といった言説が流布していたと記載があります(図3)。当時の人々は高い枕と脳卒中との隠れた関連性を認識していたのかもしれません。

同研究グループは、今回示した患者さんたちが特有の疾患像を有していることを考慮し、暫定的な疾患概念「殿様枕症候群(Shogun pillow syndrome)」を提唱しました。何気ない睡眠習慣が脳卒中の重要危険因子になることが世に広く認識され、脳卒中で困る患者さんが少しでも減ることを期待しています。

(図3)

発表論文情報

著者

Shuhei Egashira, Tomotaka Tanaka, Takayuki Yamashiro, Satoshi Saito, Soichiro Abe, Takeshi Yoshimoto, Kazuki Fukuma, Hiroyuki Ishiyama, Eriko Yamaguchi, Yorito Hattori, Soshiro Ogata, Kunihiro Nishimura, Masatoshi Koga, Kazunori Toyoda, Stéphanie Debette, Masafumi Ihara

題名

High pillow and spontaneous vertebral artery dissection: a case-control study implicating “Shogun pillow syndrome”

掲載誌

European Stroke Journal

謝辞

高い枕を定義するにあたり,西川株式会社(日本睡眠科学研究所),一般社団法人日本寝具寝装品協会から専門的知見の提供を得ました。資金提供及び利益相反はありません。

*1 脳卒中

「脳」の血管が、詰まったり破れたりすることで、急に脳の一部の働きが悪くなり、それによって急に身体の働きが悪くなる病気です。

*2 オッズ比

今回のような症例対照研究でよく用いられる指標で、特発性椎骨動脈解離のように、疾病の発症率が低い場合にはリスク比の近似として用いられます。

詳細▶︎https://www.ncvc.go.jp/pr/release/pr_41662/

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

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Yoko
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