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モノづくりで社会にある境界線をにじませる【ケアウィル 代表取締役 笈沼清紀】(前編)

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第375回のインタビューは、株式会社ケアウィルの代表取締役の笈沼清紀さん。JINSで執行役員、KDDIで事業部長を務めた後に、障がいやご病気のある方々向けのモノづくり企業「ケアウィル」を創業。現在は理学療法士や作業療法士と共に、商品の開発と販売をしている。

リウマチの患者さんと一緒に作った洗濯ネットバッグ

― 笈沼さんが創業された会社、ケアウィルについて教えてください。

笈沼さん ケアウィルは”服の不自由を解決する会社です。服は、脱ぐ、着るだけでなく色々なシーンに登場します。例えば、洗濯する、収納する、修繕することもそう。そういった服が登場する様々なシーンで起こる不自由を解決することが僕らのミッションです。

 

創業のきっかけは、父が亡くなる前に入院した時に着た浴衣のような、無個性な病院着姿を見て、家族としてとても悲しい気持ちになったことです。特に、ファスナーに鍵がついた繋ぎ服をみたときに、強い違和感を抱きました。

 

「父の尊厳をもっと守れたのではないか。他の人が自分と同じような後悔をしないよう病院着の現状を変えていきたい」と思いました。今は服以外にも、「洗濯ネットバッグ」や「車いす利用者用レインウェア」といった服にかかわる雑貨も作っています。

 

― では、ケアウィルの製品についてご紹介いただけますか?

笈沼さん 僕らは、「モノづくりを通じて社会にある境界線を滲ませる」という理念を大切にしています。社会的になんとなくみんなが思っている健常の方と障害のある方の間の境界線。これを、モノを作ることによってなくす挑戦をし続けています。

 

例えば、この洗濯ネットバッグは、主にリウマチの患者さんと一緒に作ったのですが、リウマチの方はとにかく「洗濯がつらい」と仰います。

服をつかんで洗濯機に入れる、脱水が終わったら絡まった洗濯ものを一枚一枚はがしていく、しわを伸ばすといった動作がとにかくつらい。指先は当然痛いし、服を取るためにかがむ動作も関節に負担がかかります。

 

洗濯ネットバッグは、脱衣かごとネットが一体化していて、服を一つ一つつかみ、洗濯機に入れる作業がありません。つまみやすくバッグの丸みに沿ったファスナーは小さな動きと小さな力で開閉することができます。

 

この製品は、リウマチの方の悩みを解決するために作られたのですが、結果的には購入していただいている約8割は、病気や怪我、身体の障がいがない方々で、購入理由は純粋に「便利だから」です。

 

障がいのある方が日々どんな悩みを感じているのか、世の中のほとんどの人は知らないし、自分とは関係のないものだと思っているかもしれません。ですが、商品に興味を持ってくれた方が、リウマチという病名を知ることで、社会に無意識のうちに存在する境界線を少しにじませることができると僕らは思っています。

 

僕らは、社会に気づきを与えながら、他職種と連携し、そして、デザインの力を加えることで、まだ世にないものをつくりあげることにチャレンジしています。

 

どんな療法士と一緒に働きたい?

ケアウィルでは、療法士も巻き込んで商品開発しているそうですね。

 

笈沼さん はい。僕以外のメンバーは、傷病や障がいの当事者、医療従事者や介護士、あるいは実際の介護や看病を経験している方々です。お互いが連携しあって商品開発を進めています。

しかし、創業時は違いました。そういったメンバーでモノづくりを始めたわけではありません。当初はビジネスサイドで特定領域に強いメンバーで事業を運営していましたが、それが失敗でした。

 

失敗?

この「アームスリングケープ」は、2021年に発売したのですが、全く売れなかったんです。

在庫をたくさん抱えてしまっていて、どうすれば売れるのかも検討もついていませんでした。でも、あるとき、PTやOTの方がTwitterでたまたま見つけてくれて、「これは良い」とたくさんリツイートしていただきました。そこから製品の売上が立ちました。

僕は恥ずかしながら、それまで僕は療法士っていう仕事がどんなことをするのかよく分かっていなかったし、この人たちの先に当事者の人たちがいるということをその時に初めて知ったんですよね。

 

それからは、当事者だけでなく療法士のみなさんが「良い」って言ってくれるものを作って、医療介護職が使う表現も交えて商品を届けることが大事だと気づき、メンバーをガラッと変えました。

 

― どんな療法士と一緒に働きたいと思ってメンバーを集めていますか? 

笈沼さん 専門職としてやってきたことに自信を持っている人、まずどんなことでもいいので、今までやってきたことに対して、やり切ったっていう自負があるという人は一緒に働きたいと思います。

 

あと個人的に好きなのは「運が良かった」と言える人とか、「人に恵まれた」と言える人です。自力だけではなく、いろんな人に助けられてここまで来たと他者や環境への感謝とともに言える人には魅力を感じます。

 

ITと金融という2つの軸を身につけたかった

― 笈沼さんのこれまでのキャリアを教えてください。

笈沼さん 新卒から4年半間、日本総合研究所というシンクタンクでITコンサルタントとして働いていました。入社して最初の2年間はシステムエンジニアとしてコーディングやシステム設計などを担当していました。

 

新卒時から、最終的には起業することを考えていたため、キャリアの2つの柱として「IT」と「金融」を身につけることを目指して就職先を選びました。テクノロジーを活用する感覚を養う必要があると考え、新卒ではまずは末端のコーディングの仕事から始めることを決めました。

 

そのあとは、コンサルティングの部署に配属され、顧客に応じてサービスを自分で構築し、企業に提案営業を行い、それを案件化していました。

 

日本総研での勤務は2007年までで、ちょうどその時はリーマンショック前。証券会社や銀行を含む金融業界への転職の売り手市場でした。このタイミングで金融業界に転職することを決意し、SMBC日興証券に転職しました。

 

証券会社ではM&A(合併・買収)のアドバイザリー業務をしました。具体的には、買収前の戦略立案や、買収後の統合計画立案(PMI - Post Merger Integration)と実行支援などのコンサルティング業務を行っていました。自由度が高く、自分たちで案件を掘り起こすこともでき、幅広い経験を積むことができました。

 

ビジネスコンテストで選考に残る人の特徴

― 療法士が企業で働くとなると、営業のポジションから入ることが多いと思うのですが、営業の経験というのはキャリアを培っていく上でどうなのでしょうか?

笈沼さん ​​営業の経験は必要だと思いますよ。僕も事業開発だけをやっていたわけではなく営業もしていましたので。

 

ただ、営業という言葉も定義が幅広いので、もし、いずれ新しいサービスを作りたい、事業開発をやりたいということを考えるというのであれば、軍隊的な要員の一人として営業することを繰り返すだけでは限界があると思います。若い人が入ってくれば、さらに言ってしまうと一部の仕事はAIに取って変わられてしまうかもしれませんよね。

 

― 私(インタビュアー)個人的には、泥臭い営業を経験したことのある人って、会社によっては意外とそう多くなかったりもしますし、泥臭い経験をするということも企業で働く上ではいい経験だと思ったりします。

笈沼さん 同感です。

 

私も日本総研に勤めていたころから、泥臭い作業をかなりしていました。会議室に一日中こもって会社四季報に記載されている会社の代表電話番号に電話をかけてソリューションの営業をしていました。当時は働き方改革なんて言葉がなかった時代ですから、ワーカホリックでしたね。

 

だから、今でも泥臭い仕事や作業には何の抵抗もありません。会社の代表であろうが、小企業ですからそんなことは関係ありません。必要であれば、どんなことでもやります。事業を継続するためであれば、頭だっていくらでも下げますよ。

 

起業してから四年間、スタートアップの話を聞いていると、「自分のアイデアは誰も考えていない特別なもの」と言う人は多いんです。でも実際は似た同じようなアイデアはきっと誰かが考えています。そういうものでしょう。

 

では、差がつくのはどこでしょうか?それは事業を持続させる力です。やり抜く力、いわゆる『GRITーグリット』です。頭でっかちになっている人ほど、行動し続けることが難しく、チャンスを逃してしまうという状況を周囲で多く見てきました。

 

私は自分自身の企業のきっかけでもあった「TSG - TOKYO STARTUP GATEWAY(トウキョウスタートアップゲートウェイ)」という東京都のビジネスコンテストでメンターを務めていますが、選考に残る人は「絶対に実現してみせる」という強い意志を持っている人です。ご自身の原体験が明確に結びついている人も強い。意思に根っこがあるからです。

 

こうした人は実際に行動に移す段階で強さを発揮します。ぶれないからです。戦略や計画は、ある程度の知識があれば誰でも立てることができます。でも実行し続けられるかは別です。

 

後編:スタート時点で通常の件数の3倍近い成果を上げることができたわけ

モノづくりで社会にある境界線をにじませる【ケアウィル 代表取締役 笈沼清紀】(前編)

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