発表のポイント
・サルコペニア(注 1)とは、加齢に伴う筋肉量の減少と筋力の低下を特徴とする症候群です。
・今回の横断調査(注 2)において、舌圧(注 3)が弱い人は栄養状態が悪く、サルコペニアであることがわかりました。
・舌の筋力を鍛えることで、サルコペニアを予防・改善できる可能性があります。
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の稲田さくら大学院生、岡山大学学術研究院医歯薬学域予防歯科学分野の江國大輔教授らの研究グループは、自立高齢者において、舌の筋力が強いと栄養状態が良好であり、サルコペニアの者が少ないことを明らかにしました。この研究成果は、口腔衛生学会雑誌 74 巻 1 号(2024 年 1 月発刊)に掲載されました。
本研究の結果から、舌の筋力を維持することで、サルコペニアを予防できる可能性が示唆されました。これは介護予防にもつながり、健康長寿社会を目指す日本において、健康寿命を延伸する一助となる可能性もあります。
研究者からのひとこと
お口の健康と身体の健康はつながっています!生涯元気な身体で過ごすためにも、より多くの方々がご自身の健康なお口で楽しく食事ができるよう、歯・口の健康を大切にしていただきたいです。稲田 大学院生
発表内容
現状
サルコペニアとは、加齢に伴う筋肉量の減少と筋力の低下を特徴とする症候群です。その進行により、身体機能の低下、QOL の低下、社会活動の妨げに関わるとされています。サルコペニアに関連する因子として、加齢、低栄養、抑うつ、全身疾患が挙げられます。
近年、口腔とサルコペニアとの関連の報告が増えています。しかし、多くの先行研究において、サルコペニアを一部の診断項目で評価したり、口腔関連の調査項目が少なかったりしており、調査結果に一貫性がありませんでした。
研究成果の内容
本横断調査では、岡山大学病院歯科・予防歯科部門を受診した 60 歳以上の患者を対象に、年齢、性別、サルコペニア、口腔状態、栄養状態、精神・心理状態および全身疾患を調査しました。特に、「サルコペニア」と「口腔関連」の項目を詳細に調べました。これらのデータを元に分析を行ったところ、年齢の影響は受けますが、舌の筋力が低下していると栄養状態が不良であり、サルコペニアの者が多いことがわかりました。
社会的な意義
本研究はあくまで横断調査でありますが、舌の筋力が衰えていると、サルコペニアのリスクが高まる可能性があります。もしかすると、舌の筋力を維持・改善できる適切な介入を行うことにより、サルコペニアを予防できるかもしれません。さらなる研究が望まれます。将来、適切な介入方法が見つかれば、身体機能の低下などを防ぎ、健康寿命の延伸に寄与する可能性があります。
論文情報
論 文 名:口腔状態とサルコペニアとの関連についての横断研究
掲 載 紙:口腔衛生学会雑誌 74 巻 1 号(2024 年 1 月発刊)
著 者:稲田 さくら
D O I:10.5834/jdh.74.1_21
U R L:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jdh/74/1/74_21/_article/-char/ja/
研究資金
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(JP21K10208)の支援を受けて実施しました。
補足・用語説明
(注 1)サルコペニア
身体的な障害や生活の質の低下、および死などの有害な転帰のリスクを伴うものであり、進行性および全身性の骨格筋量および骨格筋力の低下を特徴とする症候群である。運動障害、転倒・骨折、日常生活の活動能力の低下、身体障害、自立性の喪失、および死亡する危険性が増大する。(日本老年医学会)
(注 2)横断調査
ある集団のある一時点での疾病(健康障害)の有無と要因の保有状況を同時に調査し、関連を明らかにする方法。(日本疫学会)
(注 3)舌圧
舌の筋力を反映する。口に取り込んだ食物を舌が口蓋前方部との間でつぶす力。(Hayashi et al,2002)
詳細▶︎https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id1193.html
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。