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発育期の野球選手における腰椎分離症の発生部位の偏りを解明

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発育期の野球選手における腰椎分離症の発生部位の左右差を投手と野手に分けて調査したところ、投手では投球する側とは反対側でより頻繁に腰椎分離症が発生することを見いだしました。一方、野手においては、投球側・打撃側ともに腰椎分離症の発生部位に左右の偏りがないことが明らかになりました。

腰椎分離症は腰の背骨の疲労骨折で、発育期の代表的なスポーツ障害の一つです。ひとたび発生すると慢性的な腰痛の原因となり、治療中はすべてのスポーツ活動を休止する必要があるため、発生予防と早期発見が重要とされています。野球のように片方のみに腰をひねるスポーツでは、左右どちらか一方の腰椎分離症が多いことが知られていましたが、投球側(右投げか左投げか)や打撃側(右打ちから左打ちか)との関連や投手と野手の間での違いは解明されていませんでした。

本研究では、発育期の野球選手において腰椎分離症が発生する部位を投手と野手に分けて調査しました。その結果、投手では投球側とは反対側の部位でより頻繁に発生することを見いだしました。一方野手においては、投球側でも打撃側でも分離症の発生部位に左右の偏りがないことが明らかになりました。投球時には腰のひねりとそらしが同時に起こります。このため、野手よりも投手の方が、投球側と反対側の腰椎に繰り返し負担がかかっていることを今回の結果は示しています。

本研究グループではこれまで、腰椎分離症を正しく診断するための画像検査の精度、装具を用いた治療の奏功率(手術をしないでも骨が癒合する率)、装具を用いた治療が奏功しない症例の要因、新しい手術方法の開発とその成績など、多くの知見を明らかにしてきました。今回の成果は、これらの研究に組み入れられた症例のうち野球選手に焦点を当てたことによるものです。

本研究で得られた新しい知見を、選手に加え、指導者や保護者など発育期のスポーツ現場を支える多くの人々に広く普及させていくことで、将来的な障害予防につながることが期待されます。

研究代表者

総合病院水戶協同病院

辰村 正紀 整形外科部長

(研究当時:筑波大学医学医療系/筑波大学附属病院水戶地域医療教育センター 准教授)

筑波大学大学院人間総合科学学術院医学学位プログラム

照屋 翔太郎

研究の背景

腰椎分離症注1)は成長期にある小学生から高校生までのスポーツ選手によくみられる腰の背骨(腰椎) の疲労骨折で(図1)、発育期の代表的なスポーツ障害の一つとして知られています。疲労骨折は繰り返し同じ動作を行うことで発生するため、練習を繰り返すスポーツ選手に多いとされています。特に野球のように投げる動作が多いスポーツをする子どもたちによくみられます。

腰椎分離症は慢性的な腰痛の原因となり、治療開始後の数カ月間は競技からの離脱を余儀なくされるだけでなく、体育を含めてすべてのスポーツ活動を休止する必要があります。高いパフォーマンスが要求される競技レベルの選手にとっては後の選手生命にも大きく関わってくる問題であるため、発生予防と早期発見が重要とされています。

腰椎分離症の発生は腰をそらす動作とひねる動作が関連しています。このため片方だけ腰をひねることが多い野球では、片側の分離症が多いとされています。野球では投球時や打撃時に右半身と左半身で異なる動きがあり、体の片方のみに大きな負荷がかかると予想されますが、これまで腰椎分離症発生の左右差と投球側(右投げか左投げか)や打撃側(右打ちから左打ちか)との関連、または投手と野手との間で腰椎分離症の特性に違いがあるかどうかは明らかではありませんでした。

本研究では運動時に左右差がある投球や打撃の動作と腰椎分離症が発生する部位との関連を、投手と野手とに分けて評価しました。

研究内容と成果

2014年4月〜2021年3月までに腰椎分離症と診断された、小学生から高校生までの野球選手のうち85人の選手が研究対象となりました。このうち30人が投手、55人が野手でした(図2)。平均年齢は14.8歳でした。腰椎分離症の発生は第2腰椎から第5腰椎に及び、10人の選手は同じ腰椎の左右両側での発生(両側性)や複数の腰椎での発生がありました。左右で見ると分離箇所は腰椎の右側に65個、左側に81個ありました。

初回受診時に、年齢、投球側(右投げなのか左投げなのか)、打撃側(右打ちなのか左打ちなのか)、および守備位置のデータを収集しました。腰椎分離症に関しては、片側性または両側性、病変の左右を評価しました。対象者は投手と野手の二つのグループに分けられました。分離症の発生側と投球/打撃側の関連性を全体のグループで評価し、さらに投手/野手グループを比較しました(図3,4)。

野球に特有な動作として、投球と打撃があります。これらは体にかかる負担が左右で異なります。これらの動きを独立して分析すると、投手の場合、投球側と腰椎分離症の発生側についての有意な関連が見られました。野手においては、投球/打撃動作ともに腰椎分離症の発生側と関連はみられませんでした。

腰椎分離症は腰をそらす動作やひねる動作により、慢性的に腰椎に負荷が集中して引き起こされます。ひねる動作については、ひねる方向と反対側に負荷がかかりやすいと言われています。投球動作解析によれば、コッキング期注2から加速期にかけて上半身より先に下半身でひねり動作が始まります。そのため、右投げの場合は腰は右側へひねることになります。また、投手は投球中に腰を後ろにそらすと報告されています。つまり右投げの投手では投球中は腰の右へのひねりと後ろへのそらしが同時に起こり(図5)、それにより慢性的な左側への負荷がかかるとされています(左投げの投手では、この逆になります)。これが腰椎分離症が投球側の反対側に頻繁に見られるメカニズムであると考えられました。

このように投球側と腰椎分離症の発生部位の関連は投手では示されましたが、野手では投球側と発生部位とに有意な関連は示されませんでした。投球中のひねりの大きさを測定した報告によれば、投手は野手よりも腰をより大きくひねることが分かっています。投手の投球動作そのもの、投球数の多さ、投球の強度などが今回の結果につながったと考えています。また、打撃側と腰椎分離症の発生部位にも有意な関連は見られませんでした。例えば右打者の場合、左へひねる際に右側に負荷が集中します。このため、打撃と同じ側により多くの分離症が見られると予想されました。打撃についてはフォロースルー期注3)で負荷が最も高くなりますが、ひねりの強度は投球ほどではありません。そのため打撃側と腰椎分離症の発生部位とに関連が見られなかったと考えられます。打撃による腰への負荷は投球ほど高くないだけでなく、右投げ右打ちの選手では、負荷が投球で左側、打撃で右側に分散されている可能性もあります。

本研究では、腰椎分離症が投手においては投球する側とは反対側でより頻繁に発生することを見いだしました。ただし、一部の症例では投球側と同じ側に腰椎分離症がありました。野球は投球や打撃など非対称性の運動が多いスポーツでありながら、他のスポーツと同様に走る動作や守備など負荷が左右対称である運動も多くあります。これも野手において発生位置に一定の傾向がなかったことの原因の一つと考えられます。

今後の展開

今回の研究から得られた新知見を、発育期の野球選手に加え、指導者および保護者などスポーツの現場を支える多くの人々に広く普及させていくことで、発育期の野球選手における将来的なスポーツ障害の発生予防につながることが期待されます。

参考図

図1. 人体(A)のうち赤で囲った腰椎は五つの椎骨が並んだ構造をしており、背中側から見た図(B)の白で囲んだ部分に分離症が起こる。分離症は第5腰椎に最も多く発生しやすいことが分かっており、横からみたX線画像(C)の黄色で囲んだ部分が骨に亀裂が入っている分離部である。第5腰椎のみを抽出した図(D)では、左右両側の分離(矢頭)によって椎骨が分断されていることが分かる。

図2. 腰椎分離症と診断された野球選手のうち、投球/打撃側の確認ができなかった症例や画像検査が不 十分だった症例を除いた 85例を対象とした。

図3.投球側と腰椎分離症の発生側の関連性

投球側では、右投げが74人(投手23人、野手51人)で、左投げが11人(投手7人、野手4人)だった。

投球側には60個の分離があり、非投球側には86個の分離があった。投手では、病変が投球側に16個、非投球側に32個あり、分離は非投球側に多い結果となった。野手では、分離が発生した側にそのような偏りは見られなかった。

図4. 打撃側と腰椎分離症の発生側の関連性

打撃側では、右打ちが62人(投手18人、野手44人)、左打ちが23人(投手12人、野手11人)でした。

打撃側には65個の分離があり、非打撃側には81個ありました、投手の中では打撃側18個と非打撃側30個、野手の中では打撃側47個と非打撃51個であり、打撃側と分離の発生側に関連はなかった。

図5.投球時における体幹のひねりとそらしのイメージ

コッキング期から加速期注2)にかけて下半身が上半身より先にひねり動作(灰色矢印)が始まる。そのため、腰椎は右投げの場合は右側へひねることになる。また、投球中には腰を後方にそらす動作(白色矢印)が加わる。つまり、右投げの投手では、投球中に腰の右側へのひねりと後方へのそらしが同時に起こり、それにより慢性的な左側への負荷がかかる。これが腰椎分離症が投球側の反対側に頻繁に見られるメカニズムであると考えられる。

用語解説

注1)腰椎分離症

腰椎分離症は、股関節の柔軟性不足や腰椎-骨盤の連動性に破綻が生じることにより、腰椎椎間関節突起間部に局所的な力学的負荷が慢性的に繰り返し加わることで発生するとされている。

注2)コッキング期/加速期

投球時に足をあげ、手とグローブが離れたところから前足が着地し、腕がトップの位置にくるまでをコッキング期、腕がトップの位置からボールをリリースするところまでを加速期と言う。

注3)フォロースルー期

打撃時において、バットスイングをしてボールを打った以降の体幹のひねりの時期をフォロースルーと言う。

研究資金

本研究に支払われた研究費はありません。

掲載論文

【題名】Characteristics of Lumbar Spondylolysis in Adolescent Baseball Players: Relationship between the Laterality of Lumbar Spondylolysis and the Throwing or Batting Side. (発育期の野球選手に生じた腰椎分離症の発生側と投球側・打撃側の違いによる関係性)

【著者名】S. Teruya(照屋翔太郎), T. Funayama(船山徹), M. Tatsumura(辰村正紀), H. Gamada (蒲田久典), S. Okuwaki(奥脇駿), T. Mammoto(万本健生),A. Hirano(平野篤), and M. Yamazaki(山崎正志).

【掲載誌】Asian Spine Journal

【掲載日】 2024年4月23日

【DOI】10.31616/asj.2023.0360.

詳細︎▶︎https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20240514140000.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

発育期の野球選手における腰椎分離症の発生部位の偏りを解明

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