株式会社ツクイ(以下、(株)ツクイ)の営業部IT推進課チーフスペシャリストとして活躍する波戸さんは、高校生の頃から理学療法士を目指し、キャリアのスタートをデイサービスの現場で切りました。その後、機能訓練指導員の研修を担当し、現在はIT技術を活用した新たな取り組みを推進しています。波戸さんの多彩なキャリアを通じて、今後の理学療法士に必要なスキルやマインドセットについて貴重なヒントを得ることができるでしょう。今回のインタビューでは、波戸さんのキャリアの歩み、新たな挑戦への思い、そして今後の目標について詳しくお話を伺いました。波戸さんの経験と知見から、理学療法士としての未来を描くための貴重な洞察を探ります。
輪違
波戸さん、今日はよろしくお願いします。
波戸さん:
はい、お願いいたします。
輪違
理学療法士(以下、PT)になろうと思ったきっかけは何ですか?
波戸さん:
高校生の時に介護の仕事を考えていましたが、単にお世話だけではなく、治す方に興味を持ちました。医者になるほどの頭はなかったので、介護に関わる仕事を探している中でPTを見つけました。
輪違
なぜ介護に興味を持ったのですか?
波戸さん:
高齢者が好きだったことと、サラリーマン的な仕事に自信がなかったからです。今は皮肉にもサラリーマン状態ですが。
輪違
確かにそうですね。出身は札幌ですか?
波戸さん:
出身は千歳市で、大学は札幌医科大学です。
輪違
学生時代は真面目に勉強していましたか?
波戸さん:
勉強はそれなりに真面目にやっていたつもりです。学科や学年を越えた飲み会なんかも多かったですけどね。
輪違
飲む場所も多いですからね。卒業後のキャリアはどうでしたか?
波戸さん:
卒業後はストレートで大学院に進み、高齢者の領域を勉強しました。その後、株式会社ツクイ(以下、(株)ツクイ)に入社しました。
輪違
最初の就職先が(株)ツクイだったんですね。修士に進む人が多かったのですか?
波戸さん:
学年の約20人中4人がそのまま学部から修士課程に進みました。私は積極的に進学を決めました。
輪違
大学の教員や研究者を目指していたんですか?
波戸さん:
そうです。ゼミの指導教官が素晴らしい方で、自分の学んだことを次に伝えることに憧れました。
輪違
教官は今もいらっしゃいますか?
波戸さん:
残念ながら癌で亡くなってしまいました。
輪違
教官が進学の動機になったんですね。(株)ツクイから声がかかったのですか?
波戸さん:
卒業間際まで就職先が決まっていなかったところに、(株)ツクイから声をかけてもらいました。当時、まだ現場にPTを置いていなかったので、モデル事業として入社しました。
輪違
その後のキャリアはどうでしたか?
波戸さん:
最初は埼玉県内のデイサービスのPTとして働き、約3年間現場で経験を積みました。その後、約1年間佐賀県で事業所の再編に従事しました。
輪違
再生請負人としての仕事ですね。どのようなものでしたか?
波戸さん:
現場で働きながら、周りの事業所のフォローも担当しました。その後、佐賀から大阪に移り、西日本のデイサービスの機能訓練に関わる研修担当を務めました。
輪違
PTの数は増えましたか?
波戸さん:
私がモデル事業で入社した2011年時点はPT4名のみでしたが、5年後にはPTだけでも約150名、PTOTST合わせて300名以上在籍していました。
輪違
すごい増えましたね。デイサービスで働いてるPTも結構少ないじゃないですか。3%ぐらいしかいないって僕なんか聞いたことあるんですよね多分。
輪違
けどこれから多分デイサービスでもPTってやっぱ求められてるなと思うんですけど、なんか波戸さん考えるPTがデイサービスで働くのに必要なスキル3つみたいな、もし聞かれたら何て答えますか?
波戸さん:
難しいこと聞きますね。1つはやっぱり調整能力というか、生活のマネジメント能力が必要だなって思うところはありますね。要介護の人たちって心身機能自体はもう上がらないっていう風になっている、そのトレーナビリティがない状態の方も多いんです。
波戸さん:
心身に対するアプローチだけじゃなくて、周りのご家族さんとか生活環境であるとか、福祉用具をどう使うか、そういった方面にアプローチした方がいい場合が多いので、そういうのを含めてちゃんとマネジメントできる能力が必要だと思います。
輪違
確かに大事ですね。
波戸さん:
そうですね。誤解を恐れずにいうと、たまに自分の力でこの人を改善させたんだって言いたがるPTもいますけど、そういうのはよくないです。
輪違
いますね。例えば、良くなったのが栄養とかも影響しているのに、自分のモビライゼーションがうまくいったから痛みがなくなったとか、俺の徒手療法すごいだろ的な療法士ですね。
波戸さん:
そうです。そういう考え方では、うまくいかないことが多いです。周りの専門職と向き合ってコミュニケーションをとって、お願いするところはお願いする、それができる人が強いと思います。
輪違
確かにそう思います。あと一つのスキルは何ですかね?
波戸さん:
そうですね、今の2つでかなり集約されてしまう気もしますが、あえて言うなら、柔軟な思考と問題解決能力でしょうか。デイサービスでは予期しない問題が起こることも多く、それに対処するためには柔軟な思考が必要です。利用者一人ひとりの状況に合わせた個別対応が求められますからね。
輪違
確かにそうですね。
輪違
ここからは少し具体的なことをお聞きしたいのですが、デイサービスで導入しているIT技術やテクノロジーについてです。いろいろ取り入れていると思いますが、どれも似たり寄ったりな気がします。本当に必要か疑問に思うこともありますし、1店舗あたりの収益や現場の負担も考えると、導入が難しいことも多いと思います。波戸さんが導入を決める基準は何ですか?
波戸さん:
いい質問ですね。何を導入するかは本当に難しいです。まず、現時点で当社の全デイサービスに標準として入っているIT機器として、介護記録や計画書作成のシステム、送迎支援システムなどがあります。
波戸さん:
ただ、ここから先の付加価値向上のためには絶対にこれを導入しようと決まっているものはありません。大きな会社だと、ある事業所ではうまく使えるけど、別の事業所ではうまく使えないこともあり、標準化が難しいです。人に依存するものは入れられないので、正直答えは出ていません。
輪違
なるほど。じゃあまだ入れてないんですか、(株)ツクイは。
波戸さん:
現在も試験的に導入して効果検証を行っているものはいくつかありますが、部分的な導入に留まっているものが多いです。
輪違
そのほか、IT推進というのはどういうことをするのですか??
波戸さん:
おとといプレスリリースしたのがあります。カメラと映像解析技術を使って色々とできることがあるだろうという社長の思いもあって進めている案件です。
輪違
これか、パナソニックコネクト株式会社と一緒にやってる。
波戸さん:
そうです。
輪違
映像解析して、記録の自動化だったり業務の定量化とか満足度とか異常の検知をやろうとしているんですね。
波戸さん:
そうなんですよ。これの中に歩行の評価とかも入ってくれたらPTとしては嬉しいですが、まずは介護記録を自動化させたいというのがあります。
波戸さん:
例えばデイサービスの送迎忘れや降車忘れが無いように、入口で顔認証して分かるとかですね。
波戸さん:
お風呂入ったかどうかとかも顔認証でできないかとか、介護の質の定量評価も映像解析の力を使ってできないかと思っています。動線の分析で無駄な動きをしていないかとか、天井につけたカメラからの評価が出せたらいいですね。
輪違
なるほど。スタッフさん側と利用者さん側の両方をやるんですね。転倒リスクをAIで解析して、この人は直近1週間以内に転ぶリスクが高いから見守りを強化しようとか、そういうのが出せるかもしれないですね。
波戸さん:
そうですね。映像は情報量が多いので、そこから導ける解釈が色々あるはずです。今は基礎環境を整えた段階ですが、徐々に機能実装を増やしたい構想です。
輪違
すごい面白そうですね。わかりました。 その辺は詳しく7月21日(日)に行われるリアル臨床で聞けたらと思いますが、逆に今そのITのテクノロジーとかイノベーションをやってると思いますが、企業で働きたい人、多分(株)ツクイさんで波戸さんのように働きたい人が結構我々のキャリア相談で多いんですけど、どういう人を求めているんですか、そういう企業って?
波戸さん:
そうですね、やはり調整力やコミュニケーション能力が高い人が求められます。技術だけではなく、周りと協力して仕事を進められる人が重要です。また、柔軟な思考と問題解決能力も重要です。臨床の経験があることはもちろんですが、マネジメントや他部署との連携ができることが求められます。
輪違
大学院を修了しているとか、論文を出しているとかではなく?
波戸さん:
そうですね。それよりも中間的なところでマネジメントを行っている方を求めている話をよく企業の人から聞きます。あとは、SNSでしょうか。
輪違
SNSで何を?
波戸さん:
SNSで有益な情報を発信している人に声をかけたなんて話を聞くことがあるんですよ。
輪違
確かにある人も言ってました。たまにFaceBookで投稿すると仕事がもらえるって。
波戸さん:
侮れないです。
輪違
逆に臨床がある程度できないと現場のPTOTに舐められるというか。「あいつできねえじゃねえか臨床」みたいなのもあるので現場の仕事も大事ですよね。
波戸さん:
そうですね。それは確かにあるので、すごい尖った人っていうよりも、変な穴がない人っていう部分はちょっと大事なのかもしれないですね。
輪違
一般企業で働きたいPTOTSTは波戸さんがモデルケースになると思うんですよね。
波戸さん:
介護の会社で人を求めてるという話をたまに聞くので、うまく入り込んでくれたらいいなって思っているんですけどね。
輪違
でも声がかかるところにいないとダメですよね。ある意味ではコネですよね。誰かの推薦枠に名前をあげてもらえる場所にいることが大切だと思います。
波戸さん:
そう思います。
輪違
色々とてんこ盛りな内容になってきてるのでちょっと最後に、波戸さんの大事にしていることを教えてもらって終わりにしたいなと思います。
波戸さん:
ありがとうございます。私が大事にしていることは、なるべくフットワークを軽めにしておくことです。いろんな可能性を持っておきたいので、依頼はなるべく断らないようにしています。
波戸さん:
いろんなところにいろんな可能性が転がっていると思うので、チャレンジしてみることが大事だと思っています。 今年札幌で開催される第3回日本老年療法学会学術集会でも準備委員をやっています。
波戸さん:
あとは、神奈川県理学療法士会の仕事もやっています。手一杯になってしまっている感は否めないですが、それでも可能性を拡げるために、理学療法士の枠にとらわれずいろんなことにチャレンジしています。自分の中の可能性を広げるためにフットワークを軽くすることが大事です。
輪違
本日は以上です。続きは7月21日のリアル臨床でお願いします。ありがとうございました。
波戸さん:
ありがとうございました。
7月21日はリアル臨床
10:45〜11:45 療法士キャリア3.0時代に必要なこと (会場:5F-B)
【演者】
波戸 真之介氏(株式会社ツクイ IT機器推進)
白畑 賢一氏(株式会社Luxem 訪問看護事業部 部長)
穴田 周吾氏(京都芸術大学大学院)
三橋 広大氏(あんしんホーム(株式会社PORT))
>>https://real-rinsyou.jimdosite.com/