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月経痛に対する運動療法のエビデンス

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はじめに

月経痛(PMS)に対するセルフケアとして、鎮痛薬の服用、安静、保温が一般的です。しかし、これらの方法は痛みを凌ぐ手段であり、根本的な改善には至りません。そこで、理学療法士として、能動的なアプローチである運動療法の可能性を探り、月経痛の改善に役立つエビデンスを紹介します。

月経痛の現状と経済的影響

日本において、月経痛を有する女性は70%から90%に達します。月経随伴症状による年間の労働損失は4911億円と試算1)されており、月経痛による生産性の低下や欠勤が実際に経済に大きな影響を与えています。これを踏まえ、月経に対するヘルスマネジメントの重要性が高まっています。

月経痛に対する運動療法の認知度

20歳から25歳の女性119名に対するアンケート調査2)では、月経痛があると答えた方は91.6%でした。その中で、運動をセルフケアとして実施している方は4.6%と少ない結果でした。運動療法の有効性を認識している人は26.1%で、73.9%の方は効果を知らないという結果でした。これらの結果から、運動療法に関する教育と認知度の向上が必要であることがわかります。

運動療法のエビデンス

以下に、月経痛に対する運動療法の具体的なエビデンスを紹介します。

1. 有酸素運動の有効性

コクランのシステマティックレビュー3)では、週3回以上、45分から60分の有酸素運動が月経痛の軽減に有効とされています。具体的な研究4)では、19歳から24歳の女子学生を対象に、トレッドミル(目標最大心拍数74-84%で30分以上)で週3-5回、12週間実施した結果、運動群(対照群との比較)はVAS(痛みの評価)が26mm低下し、QOL(SF-36)も向上しました。

*SF-36:健康の8つの価域(身体提能、日常役制機能:身体・精神、全体的健康感、社会生活機能、痛み、活力、心の健康)を測定

2. ストレッチングの有効性

ストレッチングの効果を検証した研究5)では、122名の女子大学生を対象に、ストレッチ群と鎮痛薬服用群(月経開始から痛みが和らぐまでの8時間ごとに服薬)をVAS・疼痛持続時間を1周期ごとに比較しました。ストレッチ群は週3回、10分間の腹筋や骨盤周囲のストレッチ実施し、どちらも8週間行いました。

鎮痛群:ベースライン期(55.0/1.7日)→1周期終了後(39.0/1.4日)→2周期終了後(33.8/1.6日)

ストレッチ群::ベースライン期(60.3/1.8日)→1周期終了後(45.4/1.6日)→2周期終了後(31.6/1.5日)

*(VAS/持続時間)

3. コア強化運動の有効性

82名の女性を対象にした研究6)では、コア強化運動群と対照群を比較しました。ブリッジ(5秒保持×10回)やプランク(5秒保持×5回)、キャットアンドカウ(5秒保持×10回)カールアップ(5秒×10回)などのエクササイズを1日2回、週4日、8週間実施した結果、コア強化運動群のVASは5.53から4.97まで低下し、疼痛持続時間も短縮されました。

コア強化群:ベースライン期(7.54/6.71)→1周期終了後(5.53/5.11)→2周期終了後(4.97/2.19

対照群::ベースライン期(7.74/6.31)→1周期終了後(7.83/5.88)→2周期終了後(7.71/5.68)

*(VAS/持続時間)

4. 骨盤底筋エクササイズの有効性

45名の思春期女性を対象にした研究7)では、有酸素運動群(目標最大心拍数65-70%で45分以上を週3回)、骨盤底筋トレーニング群、対照群に分けてVAS・疼痛持続時間を1周期ごとに比較しました。骨盤底筋運動は、6-8秒間の持続収縮-6秒休憩で15分間、毎日3回、8週間実施しました。結果として、痛みの強さに群間で差はなく、疼痛持続時間が有意に短縮されました。

骨盤底筋群の随意収縮と血流8)

20-45歳の月経を有する健常成人女性8名(31.1歳)速筋と遅筋を組み合わせた収縮運動(6秒間の最大随意収縮、2秒休憩、3回の早い収縮、6秒休憩を8セット)を行い、TAmeanが優位に増加する結果が得られました。月経期、増殖期(卵胞期)、分泌期(黄体期)のいずれも主効果がありました。この結果は、骨盤底筋群の随意収縮が筋ポンプ作用で内陰部動脈の血流を増加させ、子宮動脈の血流も増加させたことを示唆しています。この研究は基礎研究であり、月経痛を有する方への効果を謳うものではありません。

*時間平均平均流速(Time Average Mean:TAmean)

まとめ

月経痛に対する運動療法は、比較的取り入れやすく、効果が期待できるセルフケアの手段です。特に、骨盤底筋エクササイズはどんなシーンでも実施可能で、短時間で効果が得られるため、継続しやすいです。運動療法を積極的に取り入れることで、月経痛の軽減に役立つことが期待されます。

▶︎▶︎月経周期に合わせたエクササイズ方法

参考文献

・Armour et al,(2019). The Prevalence and Academic Impact of Dysmenorrhea in 21,573 Young Women: A systematic review and meta-analysis. J Womens Health (Larchmt), 28(8):1161-1171.

・Banikarim, C., Chacko, M. R., & Kelder, S. H. (2000). Prevalence and impact of dysmenorrhea on Hispanic female adolescents. Archives of Pediatrics & Adolescent Medicine, 154(12), 1226-1229.

・Noda Y (2003) Menstrual experiences among junior college students Part 1: changes in menstrual experiences after a one year interval. J Jpn Soc Psychosom Obstet Gynecol 8, 53-63 (in Japanese with English abstract).

・齋藤千賀子,西脇美春:月経パターンと月経時の不快症状及び対処行動との関係.山形保健医療研究.2005; 8: 53–63.

・今野真紀,八代利香,李笑雨:大学生の月経に対するイメージとセルフケア─日本と韓国の比較─.母性衛生.2009;49(4):628-636.

・佐久間夕美子,叶谷由佳,他:若年女性の月経前期および月経期症状に影響を及ぼす要因—看護学生と専門学生における生活習慣,保健行動の比較—.日本看護研究学会雑誌.2008; 31: 25–36.

引用文献

1)経済産業省.健康経営における女性の健康の取り組みについて.2019. https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/josei- kenkou.pdf(2023年1月18日引用)

2)漆川沙弥香,他:月経痛と身体活動量の関係ならびに月経痛緩和のための運動に対する認知度調査.運動器理学療法学.2022年2巻 Supplement 号 p. P-101

3)Armour et al,(2019). Exercise for dysmenorrhoea. Cochrane Database of Systematic Reviews, 2019(9), CD004142.

4)Anu Arora, et,al: Effect of 12-Weeks ef Aerobic Exercise in Primary Dysmenorrhea. Indian Journal of Physiotherapy and Occupational Therapy 20148(3), 135-140.

5)Narges Motahari-Tabari, et. al:Comparison of the Effect of Stretching Exereises and Mefenanie Neid on the Reduction of Pain and Menstruation Characteristics in Primary Dyssenorrbea: A Randomized Clinical Trial, Osan Ned J,2017, 32 (1), 47-63.

6)Hend S Saleh, et, al:Stretching or Core Strengthening Exercises for Managing Primary Dysmenorrhea, J Toeen' a Health Care , 2016, 5(1).

7)Maryan Nauletal: The effects of aerobic training, and pelvic floor muscle evercive on primary dysmenorrhea in adolescent girla, Jounal of Clinical Nursing and M. 1016.5(2153-81

8)漆川沙弥香・他:骨盤底筋群の随意収縮が子宮動脈の血行動態に与える変化、理学療法学、第50巻第4号、1-7,2023

月経痛に対する運動療法のエビデンス

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