はじめに
脳卒中リハビリテーションにおいて、下肢装具療法は重要な位置づけにあります。ガイドラインでも推奨されていますが、エビデンスの強さは比較的低い状況です。そのため、装具療法の具体的な効果や使用方法については、まだ不明な点が多く残されています。本稿では、以下の4点について解説します。
1.脳卒中片麻痺者の装具療法の現状
2.バイオメカニクスから見た装具の役割
3.短下肢装具および長下肢装具の適応と設定方法
4.長下肢装具を用いた運動療法
脳卒中片麻痺者の装具療法の現状
装具療法は、理学療法の一部として捉えられています。しかし、装具療法と運動療法の融合方法などについても明確になっていない部分が多い状況です。
具体的な報告としては以下のようなものがあります。
・早期の長下肢装具作成は、退院時のFIM運動スコアの向上に関連する
・長下肢装具を使用した歩行訓練は、歩行時の下肢筋活動パターンを正常に近づける
・短下肢装具を使用した歩行訓練は、歩行能力・歩行速度・歩行耐久性の向上に関連する
一方で、長下肢装具の使用効果や、筋活動への影響、歩行パターン別の適応など、まだ明確にされていない点も多数あります。
バイオメカニクスから見た装具の役割
脳卒中片麻痺者の歩行特徴として、以下の2点が主なものとして知られています。
・歩行速度の低下
・歩行の非対称性
歩行速度低下の主要因は、下腿三頭筋の筋力低下といわれています。また、最近の研究では、トレイルリブアングル(TLA)の増大が歩行速度の改善に重要であることが示されています。TLAとは、股関節中心から下ろした垂線と足部のCOPを結んだ線のなす角度です。この角度が大きいほど、推進力の増大につながると考えられています。つまり、下肢全体の協調的な運動が歩行速度向上に重要であるといえます。
一方、脳卒中片麻痺者では、立脚初期における足関節背屈筋や股関節伸展筋の活動低下も特徴的です。これにより、重心の前上方への移動が乏しくなり、歩行速度の低下につながると考えられています。以上より、装具療法の目的は、単なる固定や矯正ではなく、低下した機能の補助や代償、適切なアライメントでの運動獲得などが重要であると言えます。
短下肢装具および長下肢装具の適応と設定方法
短下肢装具
・足関節背屈筋の筋力低下がある場合
・立脚中期から遊脚期にかけての足部不安定性がある場合
・装具の足継手角度設定が重要
長下肢装具
・膝関節伸展筋の筋力低下がある場合
・立脚後期の股関節伸展の低下がある場合
・装具の設定には、TLAの評価が有用
長下肢装具を用いた運動療法
長下肢装具を使用した歩行訓練では、以下の点に留意する必要があります。
・装具の適切な設定
・股関節・膝関節・足関節の協調的な運動の獲得
・装具使用時の筋活動パターンの改善
装具療法と運動療法を適切に組み合わせることで、脳卒中片麻痺者の歩行能力向上が期待できます。
まとめ
脳卒中片麻痺者の装具療法は、単なる固定や矯正ではなく、低下した機能の補助や代償、適切なアライメント獲得が重要です。短下肢装具と長下肢装具の適応と設定方法、長下肢装具を用いた運動療法について、最新のエビデンスを踏まえて解説しました。今後の臨床での活用に役立てていただければ幸いです。