目次
- 1. はじめに
- 2. 見逃されがちな男性の悩み:性機能障害の実態
- 3. 最新エビデンスが示す理学療法の可能性
- 4. 理学療法アプローチの多様性と臨床応用
- 5. 患者教育と統合的アプローチの重要性
- 6. 職域拡大に向けた課題と展望
- 7. おわりに:男性の健康に貢献する理学療法の未来
- 8. 参考文献
1. はじめに
理学療法士の職域が広がる中で、これまで見過ごされがちだった"性の健康"に目を向ける動きが少しずつ芽生えてきました。女性の性交疼痛や性機能障害に対する理学療法の可能性は近年注目を集めていますが、実は男性にとっても理学療法は大きな意味を持ちます。
ED(勃起障害)、PE(早漏)、CPPS(慢性骨盤痛症候群)といった男性特有の性機能障害に対し、骨盤理学療法(Pelvic Physical Therapy:PPT)が有効であるというエビデンスが蓄積されつつあります。2025年にSahinらが発表したナラティブレビューは、その集大成とも言える内容でした。
本記事では、このレビューを中心に、男性性機能障害における理学療法の可能性を紐解いていきます。
2. 見逃されがちな男性の悩み:性機能障害の実態
加齢、生活習慣病、心理的ストレス、前立腺手術後など、男性の性機能はさまざまな要因によって影響を受けます。にもかかわらず、これらの問題は恥ずかしさや誤解によって医療機関に相談されにくく、長年放置される傾向があります。
実際、40代以上の日本人男性の約4割が何らかの勃起障害を抱えているとされ、射精に関する悩み(早漏や遅漏)も潜在的には多くの人が経験しています。しかし、薬物療法に頼るケースが多く、運動療法や手技療法といった非薬物的介入については、十分に知られていません。
研究によれば、EDを抱える男性の50-70%は医療機関に相談していないという報告もあり、この「隠れた疫学」が問題解決を困難にしています。特に、心理的要因が絡む場合や軽度〜中等度のEDでは、薬物療法だけでなく、生活習慣の改善や骨盤底筋機能の回復といった包括的アプローチが推奨されています。
3. 最新エビデンスが示す理学療法の可能性
2025年にSahinらが発表したナラティブレビューでは、1993年から2023年に発表された26件の研究(14件のRCTを含む)を分析し、男性性機能障害に対する骨盤理学療法の有効性が検証されました。
その結果、以下のようなアプローチが効果的であると報告されています。
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骨盤底筋トレーニング(PFMT)
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バイオフィードバック(BF)
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電気刺激療法(TENS、NMES)
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徒手療法(モビライゼーションや筋膜リリース)
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呼吸法・リラクゼーション
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運動療法や生活習慣の見直し
特に、EDやPEにおいては、骨盤底筋の強化や緊張緩和が勃起の質や射精コントロールに貢献することが示唆されています。また、CPPSにおいては、疼痛緩和や骨盤機能の正常化に寄与することが報告されています。