中央社会保険医療協議会(中医協)総会は6月25日、2026年度診療報酬改定に向けて医療提供体制等について議論を行いました。生産年齢人口の減少や看護師確保の困難化が進む中、診療側は医療機関の安定経営を重視する一方、支払側は医療資源の最適配分と機能分化を求める姿勢を鮮明にしました。
医療人材確保の危機的状況が浮き彫りに
事務局が提示したデータによると、看護師の新規養成数がピークアウトしており、特に3年課程や准看護師養成校の定員充足率も深刻な減少傾向にあることが明らかになりました。一方で、理学療法士や管理栄養士などのリハビリテーション関連職種や栄養関連職種は増加傾向を示しています。
日本医師会常任理事の長島公之委員は、「看護師確保が難しくなっている中で、リハビリ職・栄養士などは増加傾向にある。看護師の業務を精査して、他職種へのタスク・シフトを進めるべき」と述べ、業務分担の見直しの必要性を強調しました。
地域包括医療病棟の活用促進が急務
日本医療法人協会副会長の太田圭洋委員は、高齢患者の救急対応について具体的な課題を指摘しました。2024年度診療報酬改定で創設された地域包括医療病棟について、「高齢者急性期入院医療の核になると考えるが、施設基準や算定要件などが厳しく、医療現場はまだ上手に活用して、地域の医療ニーズに柔軟に対応するところまで行けていない」と述べ、要件の見直しを求めました。
包括的機能の充実とリハビリテーションの一体的取り組み
日本医師会常任理事の江澤和彦委員は、新たな地域医療構想における包括的機能について言及し、「高齢者等を受け入れて入院早期からの治療と共に、リハビリテーション、栄養、口腔管理の一体的取り組みなどを推進して早期に在宅復帰を提供する機能」の重要性を強調しました。
さらに、「リハビリテーション、栄養、口腔の連携の一体的取り組みは急性期医療でも必要なニーズであり、そのための人材確保、人材の定着のための処遇改善も必要」と述べ、多職種連携の推進と処遇改善の必要性を訴えました。
訪問看護の適正化が課題に
訪問看護についても議論が行われ、長島委員は「3月12日開催の中医協での議論を踏まえて、訪問看護の適切な報酬の在り方について議論すべき」と述べました。これは、3月の中医協総会で訪問看護療養費の急増(15年間で約9.4倍)や高額請求事業所の増加、不適切な請求事案への対応が議論されたことを受けた発言です。
健康保険組合連合会理事の松本真人委員は支払側の立場から、「訪問看護ステーションについても、機能強化、経営の安定化を目指した大規模化を検討することが重要である」と述べ、訪問看護ステーションの集約化による経営基盤の強化を提案しました。
また、日本看護協会常任理事の木澤晃代専門委員は、「医療資源の少ない地域における対面診療とオンライン診療を組み合わせたD to P with N」の推進を要請し、限られた看護人材の効果的活用を求めました。
支払側は機能分化と集約化を重視
これに対し、健康保険組合連合会理事の松本真人委員は支払側の立場から、「各地域での最適な医療資源の配分、医療機関の機能分化と当該機能の強化が強く求められ、これが医療提供体制改革の基本方針となっている」と述べ、効率的な医療提供体制の構築を求めました。
また、「看護人材確保が困難になる中で医療DXを活用した業務の効率化や他職種へのタスク・シフトを進めるべき」と述べ、診療側と同様にタスクシフト・シェアの推進を支持する姿勢を示しました。
今後の議論の方向性
事務局は医療提供体制の課題として、①患者の高齢化への対応、②生産年齢人口の減少、③急性期機能の維持確保、④医療資源が少ない地方部の課題—の4点を整理し、診療報酬改定の方向性について委員に問いかけました。
特に生産年齢人口の減少については、「医療DX、タスクシフト・シェア等の推進により、生産性の向上を図り、地域の医療提供体制を維持・確保する観点」が重要とされており、リハビリテーション関連職種の活用拡大が今後の改定論議でも重要な論点となることが予想されます。
2026年度診療報酬改定に向けた本格的な議論は今後本格化する予定で、医療人材の確保と適正配置、多職種連携の推進が主要テーマとなる見通しです。
【合わせて読む】
・令和6年度改定検証調査:新設加算の低迷浮き彫り 中医協総会で人員要件見直し論