日本病院会の相澤孝夫会長は7月1日の定例記者会見で、病院経営の悪化を受けて年内の財政出動による支援を政府に求めていく方針を明らかにしました。6月28日に開催された第2回定期常任理事会での議論を踏まえ、喫緊の課題として経営支援の必要性を訴えました。
同会は6月4日に福岡資麿厚生労働大臣、6月30日に加藤勝信財務大臣に対し「国民に適切な病院医療を安定的に提供するための提言2025」を提出しており、今回の会見はこの提言書に基づいた取り組みを説明したものです。
5項目の基本方針で政府に要望
同会が提出した提言書では、2025年度の取り組みとして5つの基本方針を掲げています。
- 1.病院の経営支援 - 2025年中の財政出動を要望
- 2.診療報酬による入院基本料の引上げ - 長年据え置かれている入院基本料の抜本的見直し
- 3.休日夜間も「とりあえず診てくれる」病院の必要性 - かかりつけ医機能の明確化と病院の役割
- 4.総合医の不足解消 - 地域で「まず診る」役割を担う総合診療機能の強化
- 5.地方創生における病院の重要性 - 地域の雇用と経済を支える病院の存続支援
会見では、特に経営支援と建て替え問題に焦点が当てられました。
相澤会長は、病院経営の現状について「喫緊の課題として経営が大変なために診療をやめてしまう病院がある」と説明し、病院が完全になくなる前に一時的な支援が必要だと強調しました。
支援の時期については「12月にボーナスを払わなければいけないが、赤字でボーナスを削らざるを得ない状況になると、働き手の病院離れが起こってしまう」として、年内の対応を求める考えを示しました。
支援方法については「期中の診療報酬改定はもう無理」とし、補助金などの形での財政出動を想定していると述べました。過去のコロナ対応時のように「稼働病床1床あたり5万円」といった支援策を例に挙げました。
同会の提言書では、物価高騰や診療報酬でカバーされない医療材料費の増加、消費税負担の重さなどにより、医業収益を上回る医業費用の増加が加速していると分析。「病院医療が崩壊しつつある地域もある」として、緊急の財政支援を求めています。
建て替え困難で医療体制の崩壊を懸念
常任理事会では、病院の建て替えが現在の診療報酬では「絶対無理」という意見が出されました。相澤会長は「50億円の建物を建てれば5億円の消費税がかかり、55億円になる。これを負担しながら運営していくのは今の診療報酬では無理」と具体例を示しました。
提言書でも、2006年に設定された7対1入院基本料(患者7人に対して看護師1人以上を配置)の本体部分が長年実質的に据え置かれ、「入院基本料本体に対する根本的な評価の見直しには至っていない」と指摘。郵便はがきの34.9%値上げを例に挙げ、「公定価格である入院基本料も他の公共料金と同様の引上げが必要」と訴えています。
会長は医療体制が完全に崩壊してから立て直すことの困難さを強調し、病院が完全になくなる前の対策の重要性を訴えました。
政府方針に一定の評価、具体策の詰めが課題
骨太の方針2025に医療機関の経営安定という文言が盛り込まれたことについて、相澤会長は「これまで骨太の方針にこういうことが書き込まれたことはなかった」と評価しました。
その上で「これまで通りの対応の仕方ではまずいという認識を政府も持っている。具体的にどうやっていくかの詰めをこれからしなければならない」と述べ、今後の具体的な施策に期待を示しました。
医療機関の休廃業、複合的要因を指摘
医療機関の休廃業が過去最多ペースで増加していることについて、相澤会長は原因を複合的に分析しました。
主な要因として、①後継者不足、②統合や役割分担による再編、③人口変化による需要減少や働き手不足、④経営悪化を挙げました。特に働き手不足については「患者さんがいない場合」と「働き手がいない場合」の2つのパターンがあると説明しました。
参院選で賛同議員を支援
日本病院会政治連盟として、7月20日の参議院選挙に向けて同会の取り組みに賛同する議員を支援する方針も明らかにしました。各議員に文書で協力を要請し、賛同の意思を示した議員を全力で応援するとしています。
相澤会長は「経営が大変だということが表に出てきたのは、みんなで考えていくビッグチャンスのような気もする」と述べ、医療提供体制の抜本的な見直しに向けた議論の必要性を訴えました。