前回の記事では、回復期リハビリ病棟の「重症割合」「実績指数」「FIM」の議論を整理した。今回は続報として、同日の中医協総会で示された、急性期から退院支援・地域連携まで視野に入れたリハビリテーション全般の論点を追った。提示資料は、厚生労働省保険局医療課の林修一郎課長が用いた「中医協 総-2 入院(その5)回復期リハビリテーション病棟、リハビリテーション、病棟における多職種連携」。データと実態をもとに、2026年度改定に向けた論点が幅広く提示された。
発症3日以内リハ──“休日の谷間”をどう埋めるか
早期離床のエビデンスと、現行加算の役割
急性期リハの議論は、まず「どれだけ早く介入できているか」から始まった。脳卒中では24〜48時間以内の離床が機能予後に影響することは、既存研究でも繰り返し示されている。
こうした背景を受け、2024年度改定では以下の二つの加算が生まれた。
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急性期リハビリテーション加算(14日以内、1日50点)
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早期リハビリテーション加算(30日以内、1日25点)
いずれも「入院直後から機能回復へ向けて動き出す」ための評価だ。

それでも「4日目以降開始」が36%
しかし実際のデータを細かく見ると、現行加算の“起点”である「開始日」に依存するため、4日目以降の介入が36%に達していた。特に、金曜入院では土日のリハ提供が少なく、介入が遅れやすい傾向も見て取れる。


休日を含めた「3日以内」要件化は現実的か?
林課長は、【急性期リハビリテーション加算】や【早期リハビリテーション加算】に、「休日も含めて発症から3日以内の介入」といったことを評価要件として検討してはどうか、という方向性を示した。
委員の発言を整理すると、
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診療側(江澤・太田委員):「休日も含めた早期リハビリ実施に向けた点数設定、つまり点数の引き上げが必要です」と強く要望
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支払側(松本委員):「休日でリハビリが中断した場合には加算算定を認めないといった対応をすべきです」と、より厳格な運用を求めた。
「データで急性期の重要性を強調する支払側」と「現場の勤務体制という現実を考える診療側」という構図が改めて浮かぶ。休日提供体制をどう設計するかは、2026年度改定の象徴的テーマの一つになりそうだ。
疾患別リハ:専従・上限単位・床上リハ・院外リハの現場感
専従療法士の扱い──病棟外業務の増加にどう向き合うか
専従配置が必要なリハ項目では、退院支援・患家訪問・介護施設連携など、病棟外業務が実際には多い。江澤委員からは「専任への緩和」を求める声が上がり、介護保険との整合性も指摘された。


運動器リハ単位数──“病棟ごとの差”をどう整理する?
回復期は2024年度改定で「1日6単位」に整理されたが、急性期等では「1日9単位」まで算定可能とする規定が残り、運用が分かれたままだ。
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診療側江澤委員:「病棟による不整合を修正することに異論はありません」と述べた。
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支払側松本委員:「2024年度改定で『1日6単位を超える運動器リハビリに改善効果が見られない』という点を踏まえ、回復期リハビリ病棟では1日6単位を上限としました。他の病棟でもこれに揃えるべきです」と主張した。
どの病棟に入院するかで患者が受けられる単位数が変わる現行制度を、どこまで整理できるかが焦点となる。

床上(ベッド上)リハ──評価の“下げ”か、“適応の見極め”か
総-2資料では、ベッド上で離床せずに行う床上リハビリについて、林医療課長は「単体での効果が高くなく、療法士の負担が比較的小さいと考えられる」とのデータを示した。ただ江澤委員は「重症患者では重要な介入」と強調。一方で松本委員は、点数や要件の見直しによるメリハリ付けを提起した。床上リハは患者像により価値が大きく変わる領域でもあり、評価のあり方は一筋縄ではいかない。

院外リハ──「3単位を超える実績」をどう扱うか
現行は「1日3単位まで」だが、実際にはそれ以上行われているケースも確認された。江澤委員は「長時間の院外リハビリが実施されている実態を踏まえた評価、つまりより多くの院外リハビリによる疾患別リハビリ料算定を可能とすべきです」と提案した。この点については、診療側・支払側とも同じ方向を向いており、院外リハビリの評価拡大が具体化する見通しだ。

退院時リハ指導・摂食機能療法・リンパ浮腫:評価の“中身”をどう描くか
退院時リハ指導料──対象をどう絞る?
退院時リハ指導料では、算定患者の約3割が「入院中にリハ料なし」という状況が示された。
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支払側:入院中にリハを実施した患者に限定すべき
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診療側:短期入院でも退院後のリハ支援が重要なケースは多い
在院日数の短縮が進む中、「入院中リハなし」は想定以上に多い。そこをどう扱うかで制度の方向性は変わる。

摂食機能療法──“観察だけ”はNGへ
H004摂食機能療法が「観察・介助のみ」で算定されている実態が確認され、両側とも「観察のみ算定は不可」との認識で一致した。どの程度の訓練・指導を求めるか、要件整理が進みそうだ。
リンパ浮腫複合的治療──“必要時間”にあった評価へ
H007-4【リンパ浮腫複合的治療料】は、リンパ節郭清を伴う悪性腫瘍手術を行った患者などに対する複合的治療を評価する項目で、「1 重症の場合」(200点)は1回40分以上、「2 1以外の場合」(100点)は同20分以上の治療を評価している。しかし、林医療課長が示したデータでは、実際には「より長時間」のケアが行われていることが明らかになった。
診療側の江澤委員は、「長時間実施の実態に合わせた算定要件・評価とすべきです」と提案した。実施時間の実態を反映した評価の見直しが検討される見通しだ。


書類3枚問題──重複・頻度・説明者。どこを直すべきか
リハ関連書類は、目的が異なるにもかかわらず項目が重なる部分が多く、現場では「似た書類を何度も作る」負担が指摘される。
主な書類は以下の三つ。
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リハ実施計画書/総合実施計画書
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リハ総合計画評価料の関連書類
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目標設定等支援・管理料のシート
松本委員は「簡素化(統合)を進めるべきです。合わせて労力減を踏まえた評価の適正化(点数引き下げ)を検討すべきです」と提案。一方江澤委員は、「それぞれの診療報酬項目にはそれぞれの目的があり、それを踏まえた書式が設けられています。簡素化は現場の実態などを踏まえて検討すべきでしょう。また作成・説明等の頻度は『主治医が患者の状態に合わせて柔軟に設定できる』ようにすべきです」と述べた。また、小阪委員は「実際のケアを一番理解している療法士が説明できるように」と説明者要件の見直しを提案した。
リハ・栄養・口腔連携加算──効果は明確、普及の鍵は“要件”
高い効果がデータで裏付け
【リハ・栄養・口腔連携体制加算】の算定病棟では、早期リハ、休日提供、ADL低下防止など、良好な成果が複数指標で確認された。
一方で、
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専従2名等の配置基準
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平日の8割を求める休日リハ要件
が取得ハードルとして大きく立ちはだかっている。

要件緩和か、効果担保か
診療側からは、専従→専任緩和や、休日要件を緩めた“下位区分”の提案が相次いだ。一方、支払側は「効果が明確だからこそ一定水準は保つべき」として慎重姿勢だ。連携加算は2024年度改定の中でも特に影響が大きかった項目。“どれだけ広げ、どれだけ質を担保するか”が今後の焦点になる。
急性期病棟の多職種連携──配置と役割をどう組み立てる?
急性期では高齢患者が増え、在院日数が延びやすい。看護職が細かな観察を続けているものの、治療と退院支援を両立するには多職種での情報共有と役割分担が不可欠だ。
総-2資料では、
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多職種の病棟配置の柔軟化
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病棟配置スタッフ(管理栄養士・療法士)の業務範囲拡大
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特定機能病院の管理栄養士が退院後も継続ケアしやすくする仕組み
などが論点として整理された。看護専門委員の木澤氏は「マネジメント機能の強化」を期待し、診療側も連携強化の方向に賛意を示している。
おわりに──“急性期から地域まで”のラインをどう滑らかにするか
今回の議論は、急性期の3日以内介入から、病棟配置、多職種連携、退院後支援まで多岐にわたった。編集部の視点でまとめると、共通して浮かび上がるのは次の三点だ。
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1.データで示された課題には、双方とも問題意識を共有している
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2.ただし現場の運用と制度の厳格化の間で、調整が不可欠な論点が多い
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3.急性期・回復期・地域リハの“つながり”をどう切れ目なく設計するかが、次期改定の核心になる
現場のリアルと制度の理想。そのギャップをどう埋めるか。2026年度改定へ向けた議論は、これから本格化する。
理学療法士としての現場経験を経て、医療・リハビリ分野の報道・編集に携わり、医療メディアを創業。これまでに数百人の医療従事者へのインタビューや記事執筆を行う。厚生労働省の検討会や政策資料を継続的に分析し、医療制度の変化を現場目線でわかりやすく伝える記事を多数制作。
近年は療法士専門の人材紹介・キャリア支援事業を立ち上げ、臨床現場で働く療法士の悩みや課題にも直接向き合いながら、政策・報道・現場支援の三方向から医療・リハビリ業界の発展に取り組んでいる。







