脳卒中や交通事故で記憶障害・注意障害などを負った高次脳機能障害者を支援する「高次脳機能障害者支援法」が12月16日、参院本会議で全会一致により可決・成立した。法案成立を推進してきた日本高次脳機能障害友の会の片岡保憲理事長は理学療法士。急性期・回復期病院での臨床経験を持つ立場から、当事者・家族の声を国政に届けてきた。2026年4月1日施行。
約22万7千人の「見えにくい障害」に初の単独法
高次脳機能障害は、脳卒中や事故などで脳が損傷し、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、失語などの認知機能障害を生じる後遺症だ。厚生労働省の推計では2022年12月時点で全国に約22万7千人。外見からは判断しにくく、本人や家族が周囲から十分な理解を得られにくいという特性がある。
これまで障害者総合支援法の枠内で相談支援等が位置づけられてきたが、支援拠点の取り組みには地域差があると指摘されてきた。今回の新法は、高次脳機能障害に特化した法律として、国や自治体の責務を明確化。超党派の「高次脳機能障害者の支援に関する議員連盟」(衛藤晟一会長、田畑裕明事務局長)が議員立法として取りまとめた。
リハビリテーションを法文で明示
法案の第3条(基本理念)には「医療(リハビリテーションを含む。以下同じ。)」と記載され、リハビリテーションが支援の柱として位置づけられた。医療機関における医療の提供から地域での生活支援を経て社会参加の支援に至るまで、「切れ目なく」行われることが明記されている。
第24条では、都道府県に対し「専門的に高次脳機能障害の診断、治療、リハビリテーション等を行うことができると認める病院又は診療所を確保するよう努めなければならない」と規定。リハビリ実施機関の確保が法的な努力義務となった。
友の会理事長は理学療法士――臨床経験を支援活動に
法成立の背景には、当事者・家族団体の長年の活動がある。日本高次脳機能障害友の会の片岡保憲理事長は理学療法士だ。急性期・回復期病院で11年間、理学療法士として勤務した後、老人保健施設での4年間の勤務を経て、NPO法人 脳損傷友の会高知 青い空の理事長に就任。2020年7月から日本高次脳機能障害友の会の理事長を務めている。
片岡氏は医療機関在職中、イタリアなど海外で脳損傷後のリハビリテーションに関する研修を重ね、大学院で医学系研究科修士を取得。臨床現場での経験と当事者支援の双方の視点を持つ立場から、法整備の必要性を訴えてきた。
今後の展望
高次脳機能障害者支援法は2026年4月1日施行。附則により、施行後3年を目途に見直しが行われる。
法律では、都道府県知事が「高次脳機能障害者支援センター」を指定し、相談・情報提供・専門的支援・関係機関との連絡調整などの業務を行わせる制度が整備される。理学療法士をはじめリハビリ専門職にとっては、高次脳機能障害への支援が法的根拠をもって体系化される転換点となる。
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