米国スポーツ医学会(ACSM)が、健常成人向けレジスタンストレーニング(RT)処方のポジションスタンドを17年ぶりに改訂しました。137件のシステマティックレビュー(参加者3万人超)を統合した内容です。
従来常識とされた「筋不全まで追い込む」「ピリオダイゼーションで組む」は必須ではないと結論づけられ、高齢者・サルコペニア臨床にも示唆の大きい改訂となりました。
137レビュー・3万人超を統合
改訂対象は、2009年版「健常成人のレジスタンストレーニングにおける漸進モデル」です。
検索は6データベース(Ovid MEDLINE、Emcare、Embase、Cochrane Database of Systematic Reviews、SPORTDiscus、Web of Science)を2024年10月時点まで横断。重複除外後5,751件から、最終的に137件が採択されました。
筆頭著者はマクマスター大学のブラッド・カリアー(Brad S. Currier)氏。責任著者は同大学のスチュアート・フィリップス(Stuart M. Phillips)氏です。共著者には、シドニー大学のマリア・フィアタローネ・シン(Maria A. Fiatarone Singh)氏、ニューヨーク市立大学レーマン校のブラッド・シェーンフェルド(Brad J. Schoenfeld)氏ら、運動科学・加齢研究領域で広く知られる研究者が名を連ねています。
2009年版・2002年版がエビデンスの厳密性に欠けるとの批判を受けていた経緯を踏まえ、今回はPRIOR準拠、AMSTARによる質評価、GRADEベースのエビデンス質(QoE)スコアが採用されました。
アウトカム別の「強化処方」
論文のコアは、アウトカムごとに整理された処方変数の効果判定です。
筋力向上
- 週2セッション以上
- 1RMの80%以上(用量反応あり)
- 全可動域
- 1種目2〜3セット
- セッション開始時に実施
- エキセントリックフライホイール機器は標準的RTより筋力を高める
筋肥大
- エキセントリック収縮、またはエキセントリック過負荷(伸張性収縮局面で通常より大きな負荷または時間をかける手法)
- 週10セット/筋群以上(用量反応あり)
- 負荷の高低(30〜100%1RM)、頻度、反復時間、失敗まで追い込むか否かは、一貫した影響なし
パワー
- 30〜70%1RMの中程度負荷
- 反復回数×セット数が24以下
- オリンピックリフティング、パワーRT(コンセントリック相を最大速度)、エキセントリックフライホイール
覆された「常識」
筋不全追い込みは不要
論文は、筋不全(momentary muscular failure)まで追い込むことについて「筋力・肥大・パワーの獲得を増強せず、効果発現のために必要ではない」と明記しました。
高齢者など一部の対象には、血管系への負担やフォーム崩れによる外傷リスクから「望ましくない可能性がある」とも付記。2〜3レップの余力を残す近似失敗(near-failure/RIR 2〜3)が実践的な目安になりうるとしつつ、厳密な最適RIR値は未確定としています。
ピリオダイゼーションも必須ではない
ピリオダイゼーション(期分け:期間を複数のブロックに分け、負荷・ボリューム・頻度などの変数を計画的に変動させる手法)についても、著者らは「以前の仮説ほど重要ではない」との見解を示しました。ボリュームを揃えた条件下でピリオダイズドがわずかに上回るとの報告はあるものの、漸進的過負荷が適切であれば、優位性は統計的に有意な水準に達しないと整理しています。
負荷の幅も拡大
低負荷(30%1RM)から高負荷(100%1RM)まで、肥大への影響に一貫した差は認められないと結論づけられています。
身体機能アウトカムへの効果
リハビリ臨床に直結する指標では、標準的RTが非運動対照と比較して、歩行速度、Timed Up-and-Go(TUG)、椅子起立テスト、バランス、収縮速度のいずれも有意に改善することが確認されました。在宅RTでもバランス改善が報告されています。
注目すべきはパワーRTの位置づけです。マルチコンポーネント機能(複数の身体機能評価の総合)や歩行パフォーマンスでは、標準的RTよりパワーRTが優れた効果を示しました。Short Physical Performance Battery(SPPB)は、標準的RTでは有意改善が示されなかった一方、パワーRTでは改善が確認されています。
ただし論文は、SPPBに関するレビューが2件に留まる点を踏まえ、「真の無効果ではなく、エビデンスの乏しさを反映している可能性が高い」と注記。構成要素の歩行速度、バランス、椅子起立は個別にはすべて改善が示されていると補足しています。
安全性と「個別化」への方針転換
安全性
3万8千人超(RT参加者6,700人超、高齢者1万1千人超)の解析で、重大有害事象リスクの増加はありませんでした。非重大事象(痛み、疲労、滑液包炎、浮腫)の発生率は、ポジションスタンド本文ではRTと有酸素運動で差なしと整理されています。
ただし引用元のNiemeijer ら2020年のメタ解析は、運動療法全般で非重大有害事象の相対リスクが対照群より上昇すると報告している点には留意が必要です。心血管合併症は有酸素運動時のほうがはるかに頻度が高いとのデータも示されました。
個別化重視への転換
著者らは、2009年版の「8〜10種目、1〜4セット、週2〜3回、40〜70%1RM」といった具体的な処方基準への準拠より、「個別化による参加促進」を優先すべきとの立場を明示しました。
米国成人で週2回以上の筋力強化活動を行っているのは約30%(自己報告ベース)、高齢者は地域差が大きく1〜40%と推定されています。「最低用量(minimal doses)のRTでも実質的な筋力・肥大・身体機能改善が得られる」との研究動向を踏まえ、参加ハードルを下げる方向に舵を切った形です。
弾性バンドRT、在宅RT、サーキットRTなど非伝統的な形態でも、強度・筋力・身体機能・バランスのいずれかに明確な効果が確認されています。
まとめ・今後の展望
臨床家が押さえるべき骨子は、週2回以上・主要筋群を網羅・高めの努力度の大枠に、アウトカム別の負荷・ボリューム・収縮様式の調整を加える構造です。
一方で論文は、有疾患集団(高齢者臨床例を含む)への推奨は健常成人のエビデンスから直接外挿できないと明言。今後のサブ集団別ガイドライン整備、アドヒアランス向上策、最低用量プロトコル検証、ネットワークメタ解析による処方間比較が課題として提示されました。
ACSMはポジションスタンドの要旨インフォグラフィックと講義用スライドデッキを公式サイト(acsm.org)で公開しており、臨床教育や患者指導の資料として活用できます。日本国内のリハビリテーション領域では、今回の改訂を踏まえた学術団体の見解や、診療・指導ガイドラインとの整合性の検討が今後の焦点になります。
出典: Currier BS, D'Souza AC, Fiatarone Singh MA, et al. American College of Sports Medicine Position Stand. Resistance Training Prescription for Muscle Function, Hypertrophy, and Physical Performance in Healthy Adults: An Overview of Reviews. Med Sci Sports Exerc. 2026;58(4):851-872. DOI: 10.1249/MSS.0000000000003897.(オープンアクセス/CC BY-NC-ND 4.0)
プレスリリース:https://acsm.org/resistance-






