持続可能な医療保険制度を掲げる「健康保険法等の一部を改正する法律」が、2026年(令和8年)5月29日の参議院本会議で可決され、成立しました。市販薬(OTC医薬品)との代替性が特に高い医療用医薬品の薬剤費の一部を保険給付の対象外とする「一部保険外療養」の創設、後期高齢者の金融所得の負担反映、標準的な出産費用の実質無償化などが柱です。リハビリ専門職にとっては、患者が処方される外用鎮痛消炎薬や鎮痛薬の負担、自らの勤務環境、長期療養患者の家計に臨床上関わる改正が含まれます。
5月29日に成立 与党などの賛成多数
今回成立したのは「健康保険法等の一部を改正する法律」です。2026年3月13日に閣議決定のうえ国会に提出され、衆議院本会議で4月28日に可決、参議院本会議で5月29日に可決されて成立しました。いずれも与党などの賛成多数による可決です。健康保険法、国民健康保険法、高齢者の医療の確保に関する法律、母子保健法、医療法など複数の法律を一括で改正します。
厚生労働省は改正の趣旨を「必要な保険給付等の適切な実施と、世代間や世代内での負担の公平性の確保」と説明しています。改正項目は、(1)より公平な負担の実現と効率的な給付の確保、(2)出産等の次世代支援と現役世代の予防・健康づくりの拡充、(3)必要な医療の提供の確保、(4)その他――の4つの柱に整理されています。

市販薬類似の処方薬に「特別の料金」 湿布・鎮痛薬も対象範囲に
市販薬(要指導医薬品・一般用医薬品)との代替性が特に高い薬剤を使った療養について、薬剤費の一部を保険給付の対象外とする仕組みを新たに設けます。
対象となる医薬品は77成分・約1,100品目。主な対応症状として、鼻炎、胃痛・胸やけ、便秘、解熱・痛み止め、風邪症状全般のほか、腰痛・肩こり、みずむし、口内炎、皮膚のかゆみ・乾燥肌などが挙げられています。整形外科リハや運動器疾患の患者が処方されることの多い鎮痛薬や、湿布などの外用鎮痛消炎薬が対象に含まれる可能性があります。ただし、最終的な対象品目は告示で確定します。
負担の仕組みはこうです。対象薬剤の薬剤費のうち4分の1を「特別の料金」として患者が全額自己負担し、残りの4分の3は従来どおり保険給付(窓口では年齢や所得に応じた1〜3割の定率負担)となります。特別の料金には別途、消費税がかかります。厚労省は、(1)医療用医薬品の給付を受ける患者と市販薬で対応している患者との公平性の確保、(2)現役世代を中心とする保険料負担の上昇抑制――を狙いとしています。
一律の負担増ではありません。こども、がん患者や難病患者など配慮が必要な慢性疾患を抱える人、低所得者、入院患者、医師が対象医薬品の長期使用などを医療上必要と考える人などへの配慮を検討するとしています。具体的な対象品目や料金は告示で定められ、施行は公布後1年以内(厚労省は令和9年3月1日施行を想定)とされています。

医療機関の勤務環境改善が法律上の努力義務に
医療機関の業務効率化・勤務環境改善への支援です。2040年に向けて医療従事者を安定的に確保する観点から、地域医療介護総合確保基金に業務効率化・勤務環境改善を支援する新たな事業を設けます。
業務効率化や勤務環境改善に計画的に取り組む病院を厚生労働大臣が認定できる仕組みを設け、認定病院は特定の表示ができるようになります。医療法上、病院・診療所の管理者には勤務環境の改善に加えて業務効率化に努める旨が、健康保険法上の保険医療機関の責務としても業務効率化・勤務環境改善に努める旨が、それぞれ明確化されます。想定される取り組み例には、スマートフォンによる情報共有、見守りカメラ・スマートグラスの活用、音声入力や生成AIによる文書作成支援などが挙げられています。
長期療養者の家計 高額療養費で「考慮」を法律に明記
高額療養費制度については、支給要件などを政令で定める際に、特に長期療養者の家計への影響が適切に考慮されるよう、法律上明確化します。厚労省は、高齢化や高額薬剤の普及などにより高額療養費の総額が年々増加しているとして、制度を将来にわたって維持する観点からの規定と説明しています。毎月治療を受ける必要があるような長期療養者への配慮を法律に位置づけるもので、リハビリを継続する患者の家計にも関わります。施行は令和8年8月1日です。

標準的な出産費用は実質無償化、後期高齢者は金融所得を負担に反映
出産に伴う妊婦の経済的負担の軽減として、分娩1件当たりの基本単価を国が設定し、保険者から施設へ直接支給する現物給付化を導入します。これにより、保険診療以外の分娩でも妊婦に標準的な費用の負担が生じない仕組みとし、あわせて全ての妊婦に定額の現金給付を行います。施設の選択により、当分の間は現行の出産育児一時金を適用することも可能です。施行は公布後2年以内とされています。子育て世帯の関わる項目では、国民健康保険の子どもの均等割保険料を5割軽減する措置の対象を、未就学児から高校生年代まで拡充します(令和9年4月1日施行)。
後期高齢者医療制度では、上場株式の配当など金融所得を保険料の算定や窓口負担割合の判定に公平に反映させます。金融機関などが法定調書を後期高齢者医療広域連合へオンライン提出する義務を設けるもので、システム改修などのため施行は公布後5年以内とされています。

まとめ 施行は項目ごとに段階的
今回の改正は、患者負担、医療現場の勤務環境、子育て・高齢者の負担まで広く関わる内容です。施行時期は項目ごとに分かれており、高額療養費の考慮事項の明確化が令和8年8月1日、国保の子ども保険料軽減が令和9年4月1日、医療機関の業務効率化・勤務環境改善支援が原則令和9年4月1日(一部は令和9年1月1日)、市販薬類似薬の一部保険外療養が公布後1年以内(令和9年3月想定)、出産関連が公布後2年以内、後期高齢者の金融所得勘案が公布後5年以内です。対象品目や負担額などの詳細は、今後の政令・告示で定められます。
【参考】厚生労働省「健康保険法等の一部を改正する法律案の概要」/参議院「健康保険法等の一部を改正する法律案 議案審議情報」






