第二回:最も腰痛予防をできていない職種が医療福祉関連職員だった【産業理学療法研究会前代表|高野 賢一郎先生】

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———先生は自ら立候補なさったんですか?

 いや、上からやってみればと言われたんです(笑)阪神アスレチックリハビリテーション研究会の運営などで外部の人間関係があったので推されたようです。医療保険の世界で働いていた人間がそれを外れて予防の世界で働こうというのですからためらいもありました。

 

労働者に対する予防を促進するための部門ですから、当時は正直何をやっていいのやらわからない状況でした。日々、理学療法で培った知識をどのように活かすかを考えていました。

 

最初は、退院後の糖尿病や心臓疾患、腰痛やスポーツ障害のある勤労者を中心に運動指導をしていました。

 

産業理学療法に対しては、何もしなければ当然問い合わせは来ません。広報活動の一つとして、関連施設である産業保健総合支援センターで腰痛予防などの講師を始めました。

 

参加する保健師や産業医から多くの企業内では腰痛が多く、その予防対策を半ば諦めている状況との話を聞くことができました。

 

企業の工場などへの訪問を重ね、アンケート調査をするなどして問題を収集し、それらを解決する産業理学療法の指導方法を開発してきました。

 

企業の子会社、関連会社、取引先などと関係を広げていき、産業理学療法の問い合わせが増えていきました。

 

現在、私は関西労災病院所属ではなく、関西労災病院治療就労両立支援センターという別組織に所属しており、私一人で業務を行なっている状況です。

 

当センターでは、予防に関する研究成果を毎年発表し、その必要性を国に認めてもらえるよう活動しています。

 

———先生はどこかで研究を学ばれて、現在に至るのですか?

 いや自己流です(笑)学ぶ時間もありませんでしたので、とりあえず研究しながら覚えていきました。最初の頃は、文章も自己流で、誰かにみてもらって文章のほとんどを訂正されていました。

 

ただ研究をすることで、非常に面白いことがわかってきました。実は、腰痛において最も予防できていない職種が、医療福祉関連の職員だったのです。

 

これに加えて若い職員なんかは特に予防目的での体操をする習慣がありません。他分野では結構職場で体操とか積極的にやっているところが多いんですが、我々の業種では少ないことが分かりました。

 

高野賢一郎:勤労者における職業別の肩こりや腰痛の実態と職種別予防体操の効果.日本職業・災害医学会会誌 JJOMT Vol.62.No.1 32-36

 

大学病院の看護師を対象にした腰痛予防の一コマ

 

 実は女性の離職は、労働問題における重要なファクターです。その中でも、産後の離職率は高く、産業においての大きな問題となっています。

 

20代で就職し、30代になると結婚出産を迎えます。出産後の半数以上は尿もれで悩み、2〜3ヶ月で改善する方もいますが、長いこと悩まされることもあります。ウーマンズヘルスですが、産業理学療法の仕事の範疇に含まれます。骨盤底筋トレーニングを指導していますよ。

 

長年この分野にいて思うことは、やはり「予防」が一つのキーポイントになることです。20代の女性で運動している方は少なく、この傾向は60代まで続きます。

 

年齢を重ねていけば若い年代に比べエネルギー消費量は減りますから、肥満になります。ひどくなれば、生活習慣病に陥ることもあるでしょう。これも、我々の分野である産業理学療法が担うべきファクターの一つです。もちろん、肥満に関しては男性も例外ではありません。

 

日本においての問題は、運動習慣がないことにあります。ですから、「予防として運動しましょう」と我々理学療法士が訴えてもやらないわけです。

 

運動実践率について、男性では仕事を任せられ多忙となる30代の運動実践率が最も低く、そんな彼らに対しては、「SEXをしなさい」と指導をすることもあります(笑)運動強度も高いですしね。そのような実験データも実際にあるのですよ。

 

*目次

第一回:時代は予防を求めていた

第二回:最も腰痛予防をできていない職種が医療福祉関連職員だった

第三回:今一番増えている労災事故は転倒事故

最終回:産業理学療法士になるために取得しておきたい資格

 

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高野 賢一郎先生プロフィール

略歴

・昭和59年、九州リハビリテーション大学校卒業

・同年、理学療法士として独立行政法人労働者健康福祉機構 関西労災病院リハビリテーション診療科に就職

・平成12年、阪神アスレチックリハビリテーション研究会設立

・平成16年、関西労災病院 勤労者予防医療センターに移籍
産業保健分野の理学療法士として活動

・平成23年5月産業理学療法研究会設立(H25年5月に一般社団法人化)

・平成26年4月関西労災病院 治療就労両立支援センターに異動

・現在に至る。

資格

・運動器における専門理学療法士(日本理学療法士協会認定)

・内部障害における専門理学療法士(日本理学療法士協会認定)

・作業管理士(産業保健人間工学研究会認定)

・第一種衛生管理者

・介護支援専門員

最近の研究発表              

Stiff shoulder pnd lower back pain in different occupations, and the use of exercise for their preventation;ER-WCPT congress2016

ゴルフ場における新人と熟年キャディの体力と転倒事故の調査;第64回日本職業・災害医学会学術大会2016

最近の執筆  

日本のこれからと理学療法 企業で働く理学療法士;理学療法学42巻4号 365-369;2015

産業理学療法の展開;総合リハビリテーション 43(6), 527-534, 2015;医学書院

労働災害の予防;予防理学療法学要論_第3章-6 、P151-160、2017.1.25;医歯薬出版株式会社

主催する研究会/所属学会研究会

産業理学療法研究会/産業理学療法部門、予防理学療法学会、日本職業・災害医学会

産業保健人間工学会、日本産業衛生学会、日本衛生学会、アスリートケア研究会

 

第二回:最も腰痛予防をできていない職種が医療福祉関連職員だった【産業理学療法研究会前代表|高野 賢一郎先生】

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