学びたかったのは「哲学」、「教育」、「心理学」
ーーーなぜ理学療法士を目指されたのですか?
関屋先生:もともと医療に興味がありました。
私はPTになる前に家電メーカーで生産機械の設計をしていました。
数年間その仕事をした後に、大学で基本的な勉強をしてみたいと思い、その仕事を辞めて受験勉強をしているとき、たまたま病院勤務をしていた兄からリハビリテーションという領域があることを聞いて関心を持ちました.
それがきっかけでPTになりました。
当時はリハビリテーションという言葉も殆ど知られていませんでしたし、私も聞いたことがありませんでした。
私自身は障害を持った方に触れたこともなかったし、全く知らない世界でしたが、漠然とした興味がわいてきて、いろいろと調べた結果、進路を変えることにしました。
当時府中市にあった府中リハビリテーション学院に通うことになりました。現在の首都大学東京の前身の前身のさらに前身ですね。
心理学と理学療法学は似ている?
関屋先生:卒業して最初は、東京女子医科大学病院のリハビリテーション部門に就職しました。
先輩に誘われたという理由もありますけど、大学で学ぶという理由で一度仕事をやめたこともあり、大学の夜学に通えるところを選びました。
リハビリテーション学院時代の心理学や臨床心理学がおもしろかったためでしょうか、「心理学」とか「哲学」とか「教育学」を学びたいと思い、青山学院の教育学科の夜間部に入学しました。
将来的に仕事につながるとかはあまり考えてなくて、シンプルに面白そうだと思ったからですね。
大学の4年目のとき、臨床心理学分野で脳性麻痺と自閉症を専門にしている先生に出会いました。その先生に相談をして,そのまま大学院への進学を決めました。
そこで、臨床心理学と実験心理学の勉強ができたことはその後のPT人生にも役に立っていると思っています。
心理学と理学療法というのはかなり距離があるように見えて、実は考えかたが似ています。理学療法で人間を細胞レベル、臓器レベルでも考えますが、最終的には行動を問題にしますよね。
心理学は人の心を問題にするんですけど、人の心を行動に焦点を当てて考えることが中心になります。
学部時代には心理学実験という科目があって、知覚の実験が主な内容だったんですけど、知覚という主観的な体験をどうやって客観的にとらえるのか、ということなど考えたことがなかったので、とても面白い体験でした。
理学療法の中でも実験的に事実関係を調べていくことの必要性を感じたものでした。
心理学で統計学を重要視することも参考になりましたね。「人間」というのは、けっこうバラツキが大きくて、どちらの学問もそのバラツキの大きい存在を理解していこうというものですね。
実験心理学は、けっこう厳密に人間を扱おうとするんですけど、やはりばらつきは統計学的に解決するほかないようですね。
機械で何か物を作る場合だと、かなり同じような精度で似ているものが作れますけど。
人間を対象として何かを調べるために実験群と対照群を作ったりしますが、色々な特性を持った人間が集まることになり,ばらつきが大きくなります.
バラツキがあるものをどう捉えていくかという点で役に立ちましたね。
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関屋 曻先生経歴
昭和大学 保健医療学部理学療法学科 教授
■著書、訳書
関屋曻:姿勢ー運動学(標準理学療法学・作業療法学)ー. 医学書院,2012,pp.183-207.
関屋曻:歩行ー運動学(標準理学療法学・作業療法学)ー. 医学書院,2012,pp.207-239.
関屋曻:研究のデザインと統計処理.三輪書店,2010. pp.1-234.
Latash ML著,笠井達哉・道免和久監訳:運動神経生理学講義(共訳).大修館書店, 2002, pp.222-239.