認知症の方の誘導にお困りでないですか?
前回は初対面の挨拶からコミュニケーションのスクリーニングをすることが可能というお話をしました。今回はリハ室への誘導についてご説明をします。
病院・施設によって、リハビリテーション室(以下リハ室)への誘導を看護介護職が担うのか、それともリハビリテーションスタッフ(以下リハ職)が担うのかはそれぞれの施設によって異なると思います。
どの職種が担うにしても、認知症のある方を、「今いる場所から違う場所へ誘導する時」に困惑することが多いのではないでしょうか。
通常だったら「これからリハの時間ですから支度して行きましょうね」などの声かけで移動していただけるのに、同じように声かけをしているのに「いや!行かない」ときっぱり拒否されたり。。。そういうことってありませんか?
そしてそんな時の解決策が「態度」に求められちゃったり…優しく丁寧な言い方をしているか?不快な刺激をしていないか?など…そこには十分に気をつけているつもりなのにやっぱり拒否されたり…ありませんか?
だとすると、「態度」以外の声かけの仕方について検討の余地があるのではないでしょうか?
ここで2つの方法をご提案したいと思います。
再認の段階付けを根拠にした誘導
認知症という状態像の中で、その場の言語的なコミュニケーション能力は保たれているけれど、近時記憶障害が主要な障害となっているような方の場合には、再認の段階付けを根拠にした誘導の工夫を行います。
臨床的に最も多いアルツハイマー型認知症のある方は再生できなくても再認できる方はとても多いのです。
再生・再認とは記憶の思い出し方に関する能力のことで、再生とは自ら正しく思い出すことができることで、再認とは正解を示されれば思い出すことができる能力のことです。
「リハ室に行きましょう」という声かけでは「リハ室」がどのような場所なのかを自分から思い出すことができない。
けれど「リハ室の入口の写真」を見れば「あ、ここなら昨日行ったところだ」と思い出すことができる=再認が可能な方もいます。
けれど再認にも段階付けがあって、リハ室の入口の写真では思い出せないけれど、リハ室で自分が体験した具体的な事柄(例えば平行棒や何かの作業など)の写真を見ると思い出せる方もいます。
認知症のある方が再生できなくても再認できるかもしれないし、どのような段階で再認ができるかを評価にもとづいて対応を工夫します。
もしも担当している認知症のある方の言語理解力が限定しているような場合には一概には言えませんけれども、次のような声かけをすることもあります。
セラピスト「〇〇さん、行きますよ」
〇〇さん 「どこに?」
セラピスト「いつものリハ室に(食堂に)」
〇〇さん 「何しに?」
セラピスト「昔の歌を聴きに/歩く練習/お茶を飲みに」
〇〇さん 「あら、そう、じゃ行くわ」
何をしているかというと、まず〇〇さんにしていただく行動の大枠を伝えます。
それから〇〇さんから尋ねられたことに対して答えます。
ここで大切なことは尋ねられたことに対してだけ答えて、余分なことは付け足さないということです。
言語理解力が限定している方の場合には、長い文章や関連情報を聴覚情報として提供すると、結果的に混乱を招き逆効果になってしまうこともあるからです。
すべての能力が一度に低下するわけではない
認知症のある方に不快刺激を与えない、優しく接するといった「態度」に関する注意点は、私たち対人援助職の基本ですが、認知症という状態像をきたす疾患は、私たちが対象としている他の疾患と同様に、低下している能力もあれば残っている能力もある疾患です。
すべての能力が一度に低下するわけではありません。
ただ、認知症のある方の能力を私たちが認識できるような方策を今まで知らなかっただけなのではないでしょうか?
だとしたら、その方策を目の前にいるひとりひとりの認知症のある方に対して具体的に考えていく。
その過程において一番の近道にいるのは、障害と能力のプロとしての養成をされた私たちリハスタッフなのではないでしょうか。
佐藤良枝先生経歴
*目次
【インタビュー第1回】認知症、なぜ対応に困ってしまうのか
【インタビュー第2回】コミュニケーション障害に対し指差しが有効だったケース
【インタビュー第3回】認知症の障害と能力把握に必要なのは…
1986年 作業療法士免許取得 肢体不自由児施設、介護老人保健施設等勤務を経て2010年4月より現職
2006年 バリデーションワーカー資格取得
2015年より 一般社団法人神奈川県作業療法士会 財務担当理事
隔月誌「認知症ケア最前線」vol.38〜vol.49に食事介助に関する記事を連載
認知症のある方への対応や高齢者への生活支援に関する講演多数
一般社団法人神奈川県作業療法士会公式ウェブサイト「月刊よっしーワールド」連載中