PTならではの視点
POSTインタビュアー今井:先生だったら、生命科学分野の研究をやっていて、PTでよかったなって思うことはありますか?
大久保先生:研究テーマの発案やストーリーづくりに関してですね。以前、研究所の移植外科という部署に所属していたのですが、そこで研究されている方は、理学部や医学部でずっと遺伝子など細かいことを研究されているような方たちでした。実験テクニックや基礎知識は、付け焼き刃では太刀打ちできないものが多かったです。でも例えば、「このメカニズムの解明は恐らくこんな疾患の治療に関して、こういった役に立つだろう」という臨床的な視点などには、ミクロな研究をしている人はかえって気づきにくかったりすることもある、と感じました。凄く細かい話が、ひいては何の役に立つのか、どういう目線のテーマでストーリーを作り上げたらアピール力があるのか、などはあまり得意な分野ではないのかもしれないと。実際に人の体を取り扱う仕事だからこそ気づける、面白いと感じられるようなネタがたくさんありました。
インタビュアー今井:いつから研究分野に進もうと思ったんですか?
大久保先生:卒業研究を選ぶ時からです。実は高校の頃、生物学者になりたいと思っていたんです。志望校に落ちて浪人している間に、理学療法学科を受けてみようかと方向転換したんですけど。元々そういった細かい分野が好きだったので、学部に入って学んでいるうちに、‘それって何で?’と思う内容が意外に多かったんです。身体の仕組みや治療行為について、「〜と言われている」とか「詳細は不明である」とか数多く書かれた教科書を見て、「それって誰かが研究しなきゃいけないんじゃないの?」と感じていました。「突き詰めていったらどうなる?」という疑問を、実際に進めていくのが基礎実験だと思うんです。人間の体ではやってみられないことを、実際に筋肉を切って顕微鏡で見てみるとか、物質の構成を分析することで生じている変化の中身が判ったりする。求める‘確かなこと’がそこにあるんじゃないかって思ったんですね。卒業研究では、脊損後の廃用性筋萎縮のメカニズムをテーマにして実験していく中で、「へぇー」って思うことが多かったんです。筋線維ってこういう変化していくのか、と、実験によって何かが判明していくことがすごく面白くて、分からなかったことが明らかになって行くってすごいなと思いました。物事にはきちんと理屈がある。それがわかって初めて、ヒトの身体を扱う仕事ができるんじゃないかなって思った卒業研究だったんです。
療法士と基礎研究の関係
POSTインタビュアー今井:PTOTSTで基礎研究をやってらっしゃる方は多いんですか?
大久保先生:多くはないですが、やはり限られてしまいます。学会だと、だいたい決まった大学の方が発表されている印象ですね。大学ごとにそれぞれ特色というか、テーマ展開に特徴があったりしますね。
インタビュアー今井:そうすると、決まったところが研究をしていると偏りが出てしまいますか?
大久保先生:もしかしたら、そういうこともあるかもしれないですね。
POSTインタビュアー今井:この分野においても、私たちのような患者さんに寄り添っているものが新しい風を起こすということは、すごく重要なことだと思いました。
大久保先生:そういう良い意見交換ができたらいいですよね、それこそ学会がそういう場であるはずなんですけど、例えば基礎系の話って、まず1からわからない話だったりするから、臨床の方は敬遠して聞きに来て下さらなかったり、こちらも専門用語が多くなってしまうので伝わらなくなってしまったりして、申し訳ないです。もっと間を繋ぐ情報を、共通理解が得やすい形で発信できるところがあるといいですね。