運動療法の欠点
― AKAの本来の目的として、運動療法の補完があると思います。具体的には、どのような理論のもと行われているのでしょうか?
農端先生 運動療法の欠点というのは、①関節包内運動学や骨運動学を、②関節感覚受容器による運動系や神経系に対する影響を、③軟部組織の収縮性や弛緩性の影響を考慮していないことがあげられます。
その結果、拘縮の治療を行う場合、痛みや軟部組織の高緊張が生じることです。また筋力増強をする場合、廃用性筋萎縮以外、筋疾患や神経系疾患には無効です。また協調性障害に対する有効な方法はありません。
つまり、運動療法の目的が十分に達成できなくなります。例えば、関節拘縮の治療で無理に可動域を広げようとすれば、痛みや軟部組織の緊張亢進を伴います。これらを軽減することができれば、関節可動域を改善することができます。そういう意味で、従来の運動療法の技術的な、または臨床的欠点を補っています。
― 実際のところ、日本では除痛目的としてAKAが広がりました。会の方針としてはいかがでしょうか?
農端先生 もともとAKAは関節リウマチ患者さんに対して、如何にして苦痛なく運動療法を実施出来るのか?から開発が始まっています。その過程で痛みに対して効果があり、徒手医学の側面が有名になっただけです。
四肢の運動を通じて患者治療を行うことが中心の理学療法士のファーストチョイスの治療法がAKAですよという風に広まって欲しいと思います。
― AKAの適応疾患はありますか?
農端先生 適応疾患というより疾患が原因で生じる関節包内運動障害が適応です。従ってほとんどの疾患に適応することが出来ます。強いて禁忌を挙げるなら、新鮮骨折の骨折部、骨髄炎・化膿性脊椎炎・化膿性関節炎部、悪性腫瘍部などです。
つまり運動に異常をきたすような関節機能障害に対してアプローチするわけですから、特に疾患での規定はありません。
― 徒手療法というとクリニカルリーズニング的な所も大事になってきますが、AKAではそういったところもあるのでしょうか?
農端先生 関節包内運動である副運動1型と2型の評価があります。診断による情報を含めて関節の副運動を評価します。関節包内運動に異常があれば適応し、その結果を評価します。
例えば変形性関節症ですと、病気の自然経過の中で当該関節に実施することで、逆に疼痛が増悪する場合があります。疾患の経過や症状によって、積極的に行う場合としないほうがいい場合があります。AKAでは、当該関節の治療を優先することよりも、関連痛の治療を優先します。
例えば、変形性膝関節症と診断され膝に痛みを訴える場合でも、関連痛の可能性が高いため第1選択として、仙腸関節を実施します。次いで距舟関節、L2/3椎間関節と関連痛を治療し、当該関節である膝関節を治療するという考えです。あとは、病歴や経過によって治療の部位・方法が変わります。
関節神経学的治療法(ANT)とは?
― 作業療法士の方は基本的には同じ技術になりますか?
農端先生 同じですね。作業療法の場合、運動性作業療法がこれに該当します。麻痺がある患者さんで、「手が動かない」という場合、ANTの胸鎖関節圧迫を行いながら運動性作業療法を実施することで、屈筋が促通されることがわかっています。
関節神経学的治療法(以下、ANT※1)と組み合わせると、より効果があります。
まだあまり言語聴覚士の方々に知られていないのですが、高次脳機能障害の失語・失行・失認に効果があることが臨床報告としてあります。そいうことで言語聴覚療法領域にも効果があり、STの方にも興味を持って頂きたいと思います。
― AKAとANTの違いはどういったものなのでしょうか?
農端先生 ANTは先ほどの定義の通りですが、協調性の改善、筋収縮力の増強、筋,軟部組織の弛緩、痛みの抑制、Diaschisisの改善、高次脳機能障害の改善を目的に使用します。AKAでは十分効果を引き出せない部分を補う治療方法です。
AKAは①痛み,運動痛,圧痛,関連痛②運動制限③感覚障害④筋スパズム,凝り⑤筋力低下⑥腫れ,発赤⑦皮膚の硬化⑧その他かすみ目,耳鳴りなどの治療に用います。
ANTは協調性の改善、筋収縮力の増強、筋,軟部組織の弛緩、痛みの抑制、Diaschisisの改善、高次脳機能障害の改善を目的に使用します。
使用順序としてはAKAを行い、関節受容器を正常化します。その後、協調性の改善や、筋収縮の増強が必要な場合、ANTを使用します。例えば、小脳性運動失調の患者さんで振戦がある場合、AKAを行っても振戦を止めることができない場合ANTを実施すると振戦が抑制されます。
両方の技術を使用することで、十分な臨床効果が得られます。
続くー。
【目次】
第一回:AKA-博田法との出会い
第三回:運動療法の補完としてのAKA
最終回:臨床研究から培われたAKA
「AKA」は、関節包内運動の治療技術として紹介されてきたが、海外ではarthrokinematic approachは一般に、関節包内運動を治療する技術の総称で、joint mobilizationなど全てを含む呼称である。それ故、我々の使ってきたAKAが、他と違った特殊な術であることを示すため、日本語は関節運動学アプローチ-博田法、英語はarthrokinematic approach-Hakata methodという名称を用いることとした(2003年4月)。なお、省略形としてそれぞれAKA-博田法またはAKA-Hakata methodと呼ぶこととする。」
書籍紹介
農端芳之先生のプロフィール
昭和52年国立療養所近畿中央病院附属リハビリテーション学院理学療法学科卒業
昭和52年4月大阪鉄道病院入職
昭和53年12月国立大阪南病院入職
昭和58年4月米国出張
平成5年近畿中央病院附属リハビリテーション学院
平成13年大阪医療センター
平成22年京都医療センター
平成26年大阪南医療センター
平成28年大阪医療センター
趣味:草ラグビー