謙虚な気持ちとサッカーに助けられた留学生活
― 海外の生活で苦労は他にありましたか?
宮森先生 サッカーで怪我をした時にも感じましたが、自分の得意分野、専門分野がなくなってしまうと、何もない自分に気づかされます。何も通用しないなと。
サッカーを辞めた時も海外に行った時もそうでした。日本での経歴など何も評価されませんでした。最初の物件探しは特に苦労しました。ただの家庭持ちの日本人のフリーターで英語もろくに扱えないのであれば、賃貸物件なんて貸してくれませんよね。
契約までは約2カ月かかりました。恰好つけていても何も始まらない。人としての謙虚さ、勤勉さ、感謝の心などの人間性しか評価されません。
人として認知され、相手から興味を持たれるようになって、初めて人間関係が成立していきます。そういうことがすごく勉強になりました。知り合いも友人も全くいない環境で、自分のキャリアなんて見向きもされない環境になった時、自分がどう振舞うべきなのか、ということを非常に勉強しました。
また私の場合は、海外の環境適応や英語力の向上の助けになったのがサッカーでした。留学前に、日本で英語の勉強をしていても全然伸びませんでしたが、英語力を上げるためには語学学校以外の時間も大切にしなければなりません。
地元のコミュニティーに入っていくためにはサッカーがあれば何とかなるかな、と思いました。そのためToowong FCという近所のサッカークラブに子供を入団させ、自分はコーチ陣のサポートを行いながら、大人のチームへも入会しました。
子供同士は仲良く楽しそうにサッカーをしており、それをきっかけに周囲の親御さんたちとも友人になり、試合や練習後にはお菓子を交換したり、食事会や誕生会にも呼ばれるようになりました。
単身でオタゴ大学大学院に留学した時も、20歳前後の学生に混ざってサッカー部に所属しました。当時私は38歳でしたが年齢は誤魔化していましたが。笑。
サッカーで人生を見失った部分もありましたが、今ではサッカーに助けられることが数多くあります。
Photo:Brian Mulliganの実技指導
海外へ行くのではなく、挑戦する心構え
― 現在、海外留学に興味がある人が多い中で、理学療法士はもっと海外にチャレンジしたほうがいいと思いますか?
宮森先生 正直、非常に苦労します。お金もない、精神的苦痛も多いと思います。幸い、私の場合は妻や子供たちも一緒だったので、精神的に不安定になることは少なかったと思います。
私は、これまで何人かのPTの方々から連絡を頂いて大学や大学院留学へのアドバイスを行いましたが、半数以上は現在何をしているのかわかりません。恐らく、自分自身で色々と深く考えて行動に移せていないのだと思います。
私は海外の大学院へ行くのはお勧めしますが、苦労することがわかっているので、安易には勧めません。
ただ、留学目標が決まっていて、それに向かって努力できる人間、感謝の気持ちを持ちながら自分のためだけではなく、サポートをしてくれる周囲の方々のことも考えながら常に謙虚な気持ちで結果を追求することのできる人間であれば、様々な困難にも打ち勝ち、乗り越えられると思います。逆を言えば、それらがなければ必ず失敗します。
― 海外へ挑戦する強い心構えと感謝の気持ちが大切ということですね。
宮森先生 はい。海外へ行けば学ぶものが多い、そして人生観が広がります。
それは、理学療法教育のみならず、文化や慣習、言語、民族、社会背景など人としての視野を広げるチャンスでもあります。
“日本の外から日本をみる”という経験もすごく大事だと思います。とりあえず学ぶことは多いと思います。ただ、大学院留学だけではなく、ワーキングホリデーや語学留学なども含めて失敗や後悔をしている方々もいると思います。
時間やお金、人生の一部を海外挑戦に費やすわけですから生半可な気持ちでは留学目標を達成できないと思います。しかし、根拠はないのですが、何かに向かって挑戦し、努力をしている人は、必ず誰かのサポートを受けられます。
それはお金のサポートだけではなく、何かしらチャンスを与えてくれるものです。
Photo:実習指導者のSteveと院生
【目次】
第三回:安易に勧められない海外留学
第四回:ユニバーシアードサッカー 3大会ぶりの金メダルの裏で
宮森 隆行先生オススメ書籍
Posted with Amakuri at 2017.9.5
Chad Cook
Prentice Hall
Mobilisation with Movement: The Art and the Science, 1e
Posted with Amakuri at 2017.9.5
Bill Vicenzino PhD MSc Grad Dip Sports Phty BPhty, Wayne Hing PhD MSc(Hons) ADP(OMT) DipMT Dip Phys FNZCP, Darren A Rivett BAppSc((Phty) GradDipManipTher MAppSc(ManipPhty) PhD MAICD APAM MMCTA(Hon), Toby Hall PhD MSc Post Grad Dip Manip Ther
Churchill Livingstone
Brukner & Khan's Clinical Sports Medicine
Posted with Amakuri at 2017.9.5
Peter Brukner, Karim Khan
McGraw-Hill Education / Australia
宮森 隆行先生のプロフィール
・学位・学歴
順天堂大学スポーツ健康科学部スポーツ科学科(1997) 大学卒業
国際医療福祉大学保健医療学部理学療法学科(2002) 大学卒業
国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科(2009) 大学院修士(保健医療学)
The University of Otago(2014) 大学院修士(Physiotherapy in OMT )
順天堂大学大学院医学研究科博士後期課程在学中
・職歴
順天堂大学医学部附属静岡病院リハビリテーション室(2002)
順天堂大学スポーツ健康科学部 助手(2006)
かんリウマチ整形外科クリニック 理学療法士(2012)
国際医療福祉大学小田原保健医療学部理学療法学科 講師(2014)
国際医療福祉大学成田保健医療学部理学療法学科 講師(2016)
・学会
日本理学療法士学会
理学療法科学学会
日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会
日本整形外科スポーツ医学会
日本フットボール学会 など
・資格
中学・高等学校保健体育科教諭一種免許(1997)
理学療法士(2002)
JFA公認C級コーチ(2006)
日本体育協会公認アスレティックトレーナー(2008)
IFOMPT認定整形徒手療法士(オタゴ大学2014)