横浜市立大学大学院の竹居教授らの研究グループは、中枢神経系の再生を阻む主要因に挙げられるNogo 受容体-1の機能を制御する内在性の神経回路形成因子LOTUS が、脳梗塞モデルマウスで梗塞後の軸索再生を促進して機能改善をもたらすことを発見した。
▶︎https://www.yokohama-cu.ac.jp/amedrc/news/20170907_Takei.html
神経回路形成は、神経細胞の新生と分化・成熟、神経突起の伸長、回路を形成する結合相手の細胞を見いだす軸索誘導現象、シナプス形成といった一連の過程からなる。
損傷や疾患で破壊された脳内の神経回路を再生するには、これらの過程を再現する必要があるが、損傷脳の脳内環境は、神経回路が形成される胎生期と大きく異なり、軸索再生阻害因子が多量に存在するため、再生は困難であることがよく知られている。
2011 年に本研究グループの竹居教授らは、嗅覚情報を伝える2 次伝導路である「嗅索」と呼ばれる神経投射路の形成に重要な分子として、神経回路形成因子LOTUS を発見しました。その際、嗅索に発現するNogo とNgR1 の相互作用をさえぎることで嗅索の神経束形成に寄与することが明らかになりました
本研究では、減少した神経回路形成因子「LOTUS 」を補填するように遺伝子を操作したLOTUS 過剰発現マウスを用いて、脳梗塞モデルマウスを作製し、野生型マウスを用いた場合と比較検討してLOTUS による神経再生効果を検証した。
研究グループは、遺伝子操作によってLOTUS を過剰に発現するLOTUS-Tg マウスを用いて脳梗塞モデル動物(脳虚血マウス)を作製し、虚血による損傷後の運動機能を調べた。
すると、野生型マウス、LOTUS-Tg マウスとも梗塞領域の大きさには変化が見られないにも関わらず、損傷後12 週目からLOTUS-Tg マウスでは野生型マウスに比して顕著に運動機能が回復していることが判明。この結果は、LOTUS の過剰発現によって運動機能を担う神経回路が修復されたことを示唆する。
次に、LOTUS の過剰発現によって神経再生が誘起されているかを組織学的に検証した。
結果、LOTUS-Tg マウスでは、梗塞巣と反対側の神経線維(軸索)から梗塞巣側の失われた神経投射路に向けて、新たな神経線維が多数伸長している様子が観察された(図)。
Photo:http://www.yokohama-cu.ac.jp/amedrc/news/20170907_Takei.html
即ち、LOTUS の過剰発現がNogo などの軸索再生阻害因子群の作用を遮断し、損傷で失われた神経線維投射を補う神経再生を誘起した結果、運動機能回復が促進されたものと考えられ、LOTUS は脳梗塞後の神経再生を促進する物質であることが明らかになった。