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Activity(アクティビティー)の選択について−要素の活用-|佐藤良枝先生

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「やりたいことをやる」

「希望を尋ねる」

 

セラピストは、通常患者さんから返ってきた答えにそってActivityを提供すると思いますが、もし、返ってきた答えが認知症の病状進行のためにできないActivityだったらどうしますか?

 

私の提案のキーワードは要素の活用と階層性です。

 

「何を」だけでなく「どんな風に」

この記事では、まず要素の活用についてご説明します。

 

例えば、「編み物が好き」と答えた方に対してすぐに編み物を提供するわけではありません。

 

「編み物はいつもどんなところでどんな風にしていたんですか?」、「編み物でどんなものを編んでいたんですか?」と尋ねます。

 

何を」だけでなく「どんな風に」を確認します。

 

編み物にはいろいろな側面があって、編み物のどんな側面を好んでいたのかは人それぞれ異なるからです。

 

たとえば、気の合うお友達とワイワイお話しながら編み物をする「場」が好きだった方もいれば、編むという作業に没頭できて考えごとをしなくてすむから好きという方もいれば、できあがった作品をお子さんに着せたりお友達に差し上げて相手の喜ぶ顔を見るのが好きという方もいらっしゃいます。

 

編み物というActivityがいろいろな体験の媒介になっている場合も多いのです。

 

ところが、得てして私たちは体験の媒介という側面を見落として表面的に「編み物」を提供してしまいがちです。

 

このような場合には、できなくなってしまった編み物をセラピストがどんなに親切に手伝ったり助言したりしても本来好んでいた「場」を再現することにはなりません。

 

そのために「あんなに好きだった、得意だった編み物をやろうとしなくなってしまった」ということが起こってきます。そしてその結果だけをみて「意欲低下」などと判断してしまったり…ということはないでしょうか。

 

私はまず、その方が好んでいた「場」は何だったのか、冒頭のような尋ね方で確認をします。

 

「そうね。ひとりで日向ぼっこしながら編み物をしていたのよ」「子どもが小さい時には子どもの服も編んでいたけれどね」

まず言葉で確認して、次に行動観察も重ねます。

 

他の場面での対応の仕方、つまり他者と言語的に交流することを好む方なのか、体験に集中することを好む方なのかといったことを、食堂でお食事を待っている間や集団での体操の開始前から終了まで一連の過程などの他の場面での行動を観察します。

 

そうすると、たとえば、他者との交流は嫌いではないけれど、もっと体験そのものに没頭することを好む方のようだということが浮かび上がってきます。

 

過去の好んでいた「場」を編み物ではない異なるActivityを通して再現します。

 

たとえば、作業に没頭することが好きだったという方であれば、単純な繰返しの多い工程という要素のあるActivityで今の能力でできるActivityを探します。

 

なじみのある材料の毛糸を使う、工程が少なく、繰り返し作業も多く、毛糸の引っぱり加減を揃えるという編み物で使う能力と同じ要素のある「毛糸モップ」を提供します。

「毛糸モップ」の詳細はこちらをご参照ください。

 

障害に応じて場面設定を工夫する

この時に場合によっては、その方の障害に応じて場面設定を工夫することで難易度を調整するということも必要になってきます。

 

例えば、毛糸をあらかじめ二つ折りにして糸端をテープで固定したり、声かけにしても構成障害のある方には「こそあど言葉」は使わないなどの工夫をします。(こそあど言葉については以前の記事に掲載しましたのでそちらをご参照ください)

 

認知症のある方が答えた「編み物が好き」という言葉に表面的に固執して、編み物を提供した結果、遂行機能障害や構成障害のために作業が適切に行えなくて困っている方に対して、たとえ善意からであったとしてもセラピストが隣で常に工程を言葉で説明し続けたり、作業に修正を加え続けたりしていれば、編み物を通して「没頭する」という体験をすることが叶わなくなってしまいます。

 

それでは本末転倒になってしまいます。

 

編み物のどのような側面が好きだったのか、ご本人の過去の体験に基づく現在の言葉と、現在の体験に現れる今の行動を通して確認する。その上で表面的には異なるActivityであったとしても好む側面の共通するActivityを提供する。

 

過去に好んでいた「場」を過去とは異なる媒介であるActivityを通して、同じように好んでいた「場」を体験することはできる。たとえ表面的にできなくなったことがあったとしてもそれは表面に過ぎず、自分の本質は変わらないのだという体験をすることができます。

 

言葉ではなく、体験そのものを通して認知症のある方自身が実感できるのです。

 

お知らせ

「月刊よっしーワールド」

▶︎ http://kana-ot.jp/wp/yosshi/


書籍「食べられるようになるスプーンテクニック」
▶︎ http://www.nissoken.com/book/1824/index.html 

 

【セミナー】


▶︎「若年性認知症のある方への対応と支援で考えておくこと」


▶︎ 日総研「BPSD・生活障害の改善とスプーンテクニック」

 

佐藤良枝先生プロフィール

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1986年 作業療法士免許取得
肢体不自由児施設、介護老人保健施設等勤務を経て2010年4月より現職

2006年 バリデーションワーカー資格取得


2015年より 一般社団法人神奈川県作業療法士会 財務担当理事
隔月誌「認知症ケア最前線」vol.38〜vol.49に食事介助に関する記事を連載

認知症のある方への対応や高齢者への生活支援に関する講演多数


Activity(アクティビティー)の選択について−要素の活用-|佐藤良枝先生

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