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【高杉潤先生】理学療法士は施設にただ一人。さてどう介入する?

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発症して5年経っても、みるみる変わる


ーー 先生は学生の最初の就職先でどこがオススメとかありますか?

高杉先生 私は、切り口はどこからでもいいと思っています。どこからスタートしてもそれぞれで学べることは多いですし、勉強になると思っていますので。

 

ーー  私もその通りだと感じています。先生は最初どちらに就職されたんですか?

 

高杉先生 私自身はリハビリテーションセンターという回復期から維持期までみられるところに在籍して、積極的に色々と取り組むことができました。

 

そのあと、慢性期の患者様がみられる施設に異動しましたが、そこでの2年間はものすごく面白くて勉強になりました。発症して5、6年経ったような脳卒中片麻痺の方でも、こちらの関わり方でみるみる改善していくんですよ。

 


理学療法士は私一人でしたので、施設の介護員やナース等のスタッフの協力が必須でした。そのため彼らに対して、歩行練習といった運動療法に関する具体的な介入方法や効果、脳の可塑性といった神経系の科学的根拠なども頻繁に講義・指導しました。

 


施設利用者が運動や活動が円滑に行えるように施設のシステムも改革しました。そうすると徐々に利用者の運動麻痺や高次脳機能障害などの改善が見られ、今まで動けなかった患者さんが驚くほど良くなっていきました。

 

ーー 具体的にどのような介入をしたのですか?

高杉先生 最初、私がその施設に赴任したとき、なんとなく施設内の空気というか雰囲気は重暗く、よどんだ感じを受けました。
利用者もスタッフも日々のルーチンワークをこなしているという感じでした。

 

私の前任に理学療法士もいたのですが、利用者の数が多いので全員に対して効率のよいアプローチに苦慮されているようでした。

 

そこで私が考えたのが集団練習の効率化でした。利用者の運動能力レベルに応じて4グループに分けました。

 

屋外でも自立してバリバリ歩けるグループ、屋外は難しいが屋内で自立歩行のグループ、歩行に介助か見守りが必要なグループ、歩行困難なため車いす駆動と起立練習のグループ。

 

介護スタッフには比較的動ける方を見てもらい、私は転倒のリスクが高い、介助・見守りが必要な方を中心に介入しました。

 

それを一日2時間(利用者の能力に応じて、可能な人は2時間フルに実施)週3回を3ヶ月くらい続けると歩行の能力は上がるし、半側無視や注意障害などの認知機能の改善も見られました。

 

そうすると利用者も活気づいてきて、「俺もはやく良くなって一つ上のグループに入りたい」「早く屋外歩行の許可を貰いたい」といった声も聞こえてくるわけですよ。

 


頸髄損傷の不全麻痺の人もすごい変わりましたよ。座位保持もうまく出来ない状態から歩行器歩行が可能になりました。

 

利用者の変化を目の当たりする訳ですから、利用者さんだけでなく介護員も「やれば変わるんだ」ということを実感してくれました。

 

利用者もスタッフもやる気に満ちあふれてきて、明るく活気づき、この2年間で施設の雰囲気が大きく変化しました。

 

ーー 利用者全員の訓練を把握していたんですか?

高杉先生 そうですね。当時で入所者は70名近くいましたが、ほとんど把握していました。

 

でも生活全般で関わるメインは介護士さんなので、介護士さんの教育や意識改革から始めました。

 

「練習を重ねれば変わるんだ」「やらねば変わらない。それどころか、やらないことを学習して後退するんだ」ということを意識付けましたね。

 


実際に運動療法による生理学的な改善の部分も多くあり、そのような変化は直接、スタッフにも確認してもらいました。

重要なことは、真の問題点を探り分ける力

ーー 先生がこれからのPT業界がに対して思っていることってありますか?

高杉先生 最近一つ思うのは、問題点を見つけ出す力っていうのが個々のセラピストの間でもだいぶバラツキが出てきていると思います。


きちんと、「この患者さんの問題点はここだ」と言えるセラピストが育って欲しいと思います。

 

医師だと“誤診”という言葉がありますが、セラピストには“誤評価”という言葉は無いですよね。結局、誤った評価をしても、ほとんど誰も追及はされないし、咎められることもほとんどない。

 


特殊なケースを除いては、その誤評価によって患者さんが死に直結してしまうこともない。

 

 

そのため、なんとなく理学療法をやっていても、それなりに済まされてしまう、という現状があるかと思います。これでは、良くないと思うんです。

 


やはり他職種である医師や看護師、言語聴覚士、作業療法士に話す時に、説得性もかけてしまって、このような部分からリハビリの質が下がっていく気がしています。

 


短絡的な考えで、何か介入しないといけないからって先にアプローチに目がいってしまいます。

 

しかし重要なのは、まずは真の問題点を選り分ける力を持つことです。

 

それができるのが専門家と思っていますし、早くそのような専門家が多く育って欲しいと思っています。

 

高杉先生経歴

千葉県千葉リハビリテーションセンター 訓練治療部理学療法科 (平成16年3 月まで)
千葉県医療技術大学校 理学療法学科 助手 (平成22年3月まで)

千葉県立保健医療大学 健康科学部 リハビリテーション学科 理学療法学専攻 講師


所属学会 脳機能とリハビリテーション研究会 副会長、
日本理学療法士協会 代議員、
千葉県理学療法士会 理事、
北米神経科学会科員、日本神経科学会会員、
日本臨床神経生理学会会員、日本神経心理学会会員、
日本高次脳機能障害学会会員、日本光脳機能イメージング学会会員
 
【高杉潤先生】理学療法士は施設にただ一人。さてどう介入する?

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