名古屋市立大学大学院芸術工学研究科の小鷹准教授、石原由貴(大学院生)は、手の鏡 像を動かすことで、鏡の奥に隠れた手が、鏡像の移動方向へと動いているような錯覚効果が生じ ることを発見した。
▶︎ 鏡が動けば手も動く? 鏡の動きによって生み出される手の運動錯覚を発見
不全となった手足の運動機能を回復するための方法として、MVF(ミラー・ビジュアル・フィードバック)を基本原理とする、鏡を使ったリハビリテーションの方法(ミラー・セラピー)が広く知られている。
この運動錯覚がどのような感覚の協働作用で生み出されるかを解明することは、ミラー・セラピーを効率的にすすめるための重要な課題となるが、運動錯覚において視覚情報(鏡像)が単独で果たす役割については、十分に解明されていなかった。
本研究では、MVF の状況下で鏡のみが左右に移動できる特殊な機構を与えることで、両手の動 きを一切伴わない状態で、手の鏡像を動かすことが可能な MVF の装置を制作した(図1)。
図1:鏡の移動が手の移動感覚を生み出す仕組み
16 人が参加した被験者実験において、「鏡面手前の手」を一切動かすことなく、鏡と「鏡面背 後の手」のそれぞれを様々な速度で同時に動かしたところ、「鏡面背後の手」の運動感覚が、鏡像の移動方向へと強く引きずられることがわかった。
さらに興味深いことに、右手が鏡像の動きと反対の方向へと動いている時も(図3・右下)、その速さが十分でない場合には、50%以上の確率で、実際とは反対の方向への運動感覚が誘発されることもわかった。つまり、鏡の動きは、手の運動方向の感覚を反転させることもできるのです。
図2:鏡の移動が手の移動感覚を生み出す仕組み
なお、本研究は6月24日付で「i-Perception」に掲載されている。