ー 映画「栞」の台本を読んだ率直な感想をお聞かせください。
阿部さん:そうですね。すごく生々しいなと思うとともに、「こんな事あるのかな」と。自分が生活している範囲外のことだったので、今後経験するかもしれませんが、そういう風に思いましたね。ストーリーを面白くするための台本で、フィクションだと思っていましたが、監督が体験したり、実際に聞いた話から構成されていることを知って、「あっやっぱりそうなんだ」と、余計に生々しさを感じました。自分が経験したこと以外のことなんだけど、どこか現実味を帯びていたので、「なるほどな」と思いました。
ー 阿部さんがこの撮影に入る前後で、理学療法士に対する認識というのは何か変化はありましたか?
阿部さん:そうですね。お医者さんの指示がないとできなかったり、ということを聞いたので、それまでは理学療法士が診断して、治療するものだと思っていました。自分もリハビリをしたことがないので、そういった医療の構図というものを、今回の作品で初めて知りました。
ー 今回、阿部さんが演じられた役は“半身不随”という難しい役だと思うのですが、役づくりのために行ったことを教えてください。
阿部さん:頸髄損傷のかたは、力が入らないので身体が柔らかく、自分は身体が硬いので、前屈が「ベタッ」と、着くようにストレッチを心がけました。あと、孝志(阿部さん演じる藤村孝志)はラグビーをやっていた選手で、ラグビーをやっていたという説得力が出るようにトレーニングをしました。
ー この藤村孝志を演じる中で、もっとも悩まれた部分はどういった点でしょうか?
阿部さん:孝志の気持ちをどうやったら理解できるのか、という点に尽きますね。演技するという点で、肉体的に“胸から下が動かない動きをする”というのは難しいです。演じる中で、「もしかしたらこういう気持ちなのかな」と思ったのは、自分のために理学療法士の人が何人も動いて、ケアしてくれて、というのを、低い視線からみていると、申し訳ないというか、凄く情けない気持ちになったり、そういうツライ気持ちになりましたね。
ー 孝志を演じられてみて、孝志はどのような人物だと思いますか?
阿部さん:きっとラグビーの選手として突っ走ってきた人間で、成功したというか、いろんなことを達成してきた自信とプライドがあって、その塊のような人間だと思います。ただ、何にも心の準備がない状態で頸髄損傷という状況におかれて、そのギャップに戸惑う中でも一人で全てを処理できる、“処理してしまう”ある意味ではこれが“弱さ”なのかもしれないけど、人に「ツライんだよ」と、言わないような生き方をして来たのかなと。1つずつ戦って、乗り越えて来た人間だから、そういう振る舞いになるのかなと。そういう風に、孝志のことは見ていますね。
ー 孝志を演じられて、実際に頸髄損傷を追われた方に伝えたいことなどはありますか?
阿部さん:一緒にするのは失礼かもしれないんですけど、肉体的なことであれ、精神的なことであれ、きっとネガティブなことって人の人生においては起こるんですけど、それを「じゃーこうしていこう」とプラスのエネルギーに変えていけることって、すごいなと思います。車椅子バスケットの選手にもインタビューさせてもらったりしたんですけど、今を受け入れて前に進むという力ってなかなか出せないんですよね。
それって、身体が自由であってもなかなか出来ないことで、自分が今こういう状況で、「あれがない、これがない、これがダメだ」って止まることが多いんですけど、「じゃーこうしていこう」と踏み出せる人は、頸髄損傷だけじゃなく全ての人に当てはまると思うので、それを実践されていることを分かりやすく感じられる機会だなって思ったんです。
今回の頸髄損傷の役をやることが。そういう人たちに出会ったり、実際に今治療されている人たちに出会ったりだとか。なんかうまく言えないですけど、それを見て僕は「すごいな」と思ったんです。全ての人が前向きにいられるわけじゃないと思うんですけど、僕は「すごいな」と思うことができたので、今回この役に出会って、僕の人生においてすごく、ポジティブな考え方を、よりもてたというか、よりそういう風になりました。
ー 最後に、この映画をご覧いただく理学療法士にメッセージをお願いいたします。
阿部さん:難しいですよね。今回のこの映画をご覧になった方、すごく難しい仕事だと思うんですけど、何よりすごく大事なのは、孝志を演じてみて思ったのは、雅哉(理学療法士:三浦貴大)の孝志を想う気持ちが、孝志を演じていてすごく伝わるんですよね。それは、患者さんがどういう精神状態でも、理学療法が「めんどくさいとかうっとおしい」と思われていても、絶対届くような気がしていて。
患者さんのためを思ってしていることであれば、届くような気がしていて、なかなか伝わらないこともあると思うんですけど、テクニカルなことももちろん大事だと思うんですけどそれは当たり前だとして、なんかそういう患者さんを第一に想う気持ち「今患者さん何考えているんだろ、どういう気持ちなのかな」って、考える想いって届くんじゃないかなと。
今回の役をやっていて、それをすごく感じたんですけど、なんかそういう理学療法士って素敵だなと思いました。
— ありがとうございました。
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