本橋隆子先生-医学部で教鞭をとる理学療法士(PT)- no.3

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オリジナリティの源は"標準化"

学生インタビュアー:

学生としてお聞きしたいのですが、実際病院を経て地域や自費でコンディショニングを起業される療法士の先輩をみていると、実力がついた療法士は病院からいなくなってしまうのでは?と漠然とした疑問があります。

本橋先生:

もし、心配しているようなことが起こったとしたら、病院からリハビリテーションがなくなるかもしれませんね。

先ほども話したように、質の悪い医療や無駄な医療にお金を支払う余裕は、もはや患者さんにも国にもありませんからね。

だから、私はそのようにならないためにも、病院で提供する「リハビリテーションの質の標準化」をしましょうと言ってきました。

例えば、全国展開しているコンビニエンスストアでおにぎりを買う場合、全国どこでも、同じ値段で、同じ品質のおにぎりを購入することができます。

つまり、消費者は、値段と品質が標準化されたお弁当を、いつでもどこでも安心して購入することができます。

では、リハビリテーションではどうでしょうか。

同じ臨床的特徴を持つ変形性膝関節症で人工関節置換術(以下TKA)(片側)の手術をした患者さんに対して、A病院ではほとんどすべての症例で手術当日または翌日にはリハビリテーションが開始されています。

しかし、B病院では術後平均3日目以降に開始、C病院では術後平均4日以降に開始、D病院では術後平均7日以降に開始・・・といったように、病院によって大きく異なります。

更に、同じ病院内でも、セラピストによって術後のリハビリテーション開始までの期間に大きなばらつきがあります。

つまり、患者さんは、標準化された医療費を支払って、異なる質のリハビリテーションを提供されているということになります。

確かに、個々の患者さんの状態や能力といった患者要因によって、介入するリハビリテーションの内容は異なります。

でも、特別な問題がない限り、TKA術後のリハビリテーション開始時期や術後2週間における1日平均リハビリテーション実施時間などにおいて病院間やセラピスト間で大きく異なる理由はないのです。

学生インタビュアー:

最近は大体の疾患にガイドラインがあると思うのですが、それとは違うのでしょうか?

橋先生:

ガイドラインとは少し違います。
多くの理学療法士は「リハビリテーションの質の標準化=治療の統一」と考えます。

そのため、リハビリテーション質の標準化は、理学療法士の治療のやりがいや面白さを奪い、モチベーションを低下させるとの批判を受けるのですが、そもそも、基本や標準化されたものがないなかで、オリジナルティやカスタマイズはあり得ないと思います。

つまり、標準化された部分があるからこそ、個々の患者さんに適した治療内容をカスタマイズすることが可能となり、個々のセラピストのオリジナリティが評価されるのだと思います。

私が言っている医療の標準化とは、言わばマイルストーンのようなものであり、個々の患者さんの治療をカスタマイズするためのベースを定め、このベース部分のバラツキを小さくしていくことが標準化なのです。

そうすることで、1年目のセラピストが介入しても、5年目のセラピストが介入しても、ある一定のレベルの成果は担保できるようになると思います。

これは、我々の義務だと思います。
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差別化すればパイオニアになれる

学生インタビュアー:

最後に、先生は若手や学生から色んな相談を受けると思いますが、その方たちに対するメッセージをお願いします。

本橋先生:

半田会長の行動力で、理学療法士の職域は着実に広がり、リハビリテーション職の地位や知名度は大きく向上したと思います。

そのため、増え続ける理学療法士の就職先も現在は十分に確保されています。

しかし、就職後に、自分たちが抱いていた理想や夢、希望、目標を実現できる職種、職場に就職できたかと言われると、正直、Yesと言える人は決して多くはないのではないでしょうか。

昔は、理学療法士の資格を持っているだけで価値がありました。しかし、今は理学療法士が増えることで知名度は上がりましたが、希少価値はなくなりました。

つまり、高い給料を払って雇う必要がなくなったのです。では、自分の理学療法士としての希少価値を高めるには、どうしたらいいのでしょうか。

それは、「差別化」だと思います。

例えば、理学療法士の養成大学が増え続ける一方で、専門学校と大学の差別化はできているのでしょうか。

学生さんから「今後、専門学校は必要でしょうか?」とよく聞かれます。

可能だと思います。病院は、医師さえいれば成り立つものではありません。

この質問に対しては、「専門学校は、医療技術を身につけて、資格を習得して、臨床で働くという目的がはっきりとしています。もちろん、大学の学生さんたちも医療知識や技術を身に着けるのは当たり前ですが、専門学校と同じことしか学ばないのであれば、大学に行く必要はありますか?大学に進学したのは何を学ぶためですか?大学を出た理学療法士は、何ができるのですか?」と逆に質問します。

つまり、自分は他のセラピストとどこが違うのかを明確にできれば、大学出身とか専門学校出身とかで悩む必要もないですし、増える続ける療法士の数におびえる必要もないと思います。

私が後輩の皆さんにお伝えできるメッセージは、「理学療法士は意外と様々な分野でパイオニアになるチャンスがある」ということです。

まだまだ医療や介護の世界には、理学療法士が活躍していない領域がたくさんあります。

私が病院を退職してから歩んできた領域でも理学療法士と遭遇することはほとんどありませんでした。

パイオニアを目指す場合、経験を語ってくれる人もいませんし、お手本になる人もいないので孤独です。

しかし、自分が新しく道を切り開くというワクワク感や楽しさ、充実感があります。

自分が信じた道をたった一人でも頑張る勇気と頑張り続ける気力、あきらめない気持ちの3つがあれば、皆さんもパイオニアになれる可能性があると思います。

ぜひ、皆さんも理学療法士という職種を背負い、まだ理学療法士が進出していない分野で、新しいことに挑戦して欲しいと思います。

<バックナンバー>

第一回:外部から感じる療法士の2つの問題点

第二回:全てのリハビリサービスに「質」が問われる時代

 

   本橋隆子先生の経歴

【主な経歴】

法政大学法学部法律学科卒業

東邦薬品(株)営業職に就職。中外製薬(株)営業職に転職

北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻卒業

順天堂大学医学部附浦安病院リハビリテーション室(現在はリハビリテーション科)就職

京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学専攻 MPH授与

京都大学 博士(社会健康医学)

現在は、聖マリアンナ医科大学 予防医学教室 助教 週1回、国立病院機構本部 診療情報分析研究員として勤務
 
本橋隆子先生-医学部で教鞭をとる理学療法士(PT)- no.3

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