3Dプリンターでデザインする新しい作業療法の世界【ファブラボ品川ディレクター|林 園子さん】

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第307回目のインタビューは、ファブラボ品川のディレクター、作業療法士の林 園子さんです。ファブラボ品川は、3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタル工作機械、はんだごてなどの各種工具を備え、地域に住む子供からお年寄り、障害を持った方からセラピストまで幅広く、ものづくりのためのスペースとして利用されています。介護施設ではなく新しい”通いの場”を創造する作業療法士の働き方を伺いました。

当たり前で片付けない

 

ー ファブスペースってここ数年で増えてきたようなイメージがあるのですが、作業療法士が所属しているところは珍しいですよね。一方で、モノづくりという”作業”には、専門職としての知識が活きる場面は多そうですね。

 

林 園子さん もともとここは、パーソナルファブリケーションスペース「at.Fab(アトファブ)」として2014年にスタートしたのですが、ファブラボ品川としてリローンチしたのは昨年になります。ファブラボは2019年3月現在、国内外合わせて1600箇所以上ありますが、作業療法士がディレクターをしているのはここ(ファブラボ品川)だけです。

 

3Dプリンターを使えば、個人でモノを生み出せる時代です。これからも機器やソフトはどんどん使いやすくなります。高齢で足腰が弱い方や、何らかの疾患を抱えた方でも、気軽にモノづくりに参加することが、デジタルファブリケーションならできます。作業療法士がいることでファブスペースが一気にユニバーサルな場所になると思っています。

 

意味のある作業を生活に取り入れてもらって、作業療法士じゃなくても作業療法的なものの見方ができる市民を増やそうと思っています。子供も障害のある方も、スタッフも皆が価値観を一緒に共有できる場づくりを目指しています。

 

 

これは、私が3Dプリンターで最初に作ったストローホルダーです。ストローを固定しないと飲めない人のために作ったものですが、簡単にモデリングできて、小さいので出力時間も15分と、短くて済みます。自助具というと、障害がある方のためのものといったイメージがありますが、ファブラボ品川では、全ての人にとって生活を便利で楽しくするものは自助具であると考えています。 

 

 

これは車椅子ブレーキの延長レバーです。片麻痺の方が車椅子のブレーキレバーを引けるようにサランラップの芯で延長していることが多いですが、それが当たり前で何の疑問も持たずに何十年も変わらないのはおかしいですよね。医療現場だからと無意識の内にデザインや尊厳がないがしろにされていることもたくさんあると思います。

 

3Dプリンターで自助具を作るプロセス自体が作業療法

 

ー 3Dプリンターで自助具を作るのにかかる費用ってどれくらいですか?

 

林 園子さん フィラメント(3Dプリンタの材料)の素材によって差がありますが、1kg 2,000円から6,000円くらいです。3Dプリンター自体も今は安くなってきていて、4万円くらいで買えます。このストローホルダーでしたら、材料代は10円しないですね。

 

ー もし病院で3Dプリンターを導入するとしても、それくらいの価格なら負担になりませんね。

林 園子さん そうですね。個人でも十分購入できる価格です。私は3Dプリンタでの製作をやってみたいなら、ご自宅に購入することをお勧めします。なぜかというと、気軽に失敗できるからです。モノづくりでも、コトづくりでも何でもそうですが、「気軽に早めに失敗する」ことが、今の時代はとても大切です。そうすることで、結果、たどり着きたいところに早く到着できます。

 

ー 病院や施設に3Dプリンターを導入するとなると、どんなメリットがあるでしょうか?

 

林 園子さん 私は自助具を作るというプロセス自体にとても価値があると思っています。ニードを把握して、それを解決するためにクライエントと共に自助具を作成する。今までは、カタチになるまでに時間をとても要していましたが、3Dプリンターを使えば早くできます。

 

それは自己を受容するプロセスになりうるし、セラピストやクライエント自身が気づいていなかったニードや価値観に気付くきっかけにもなります。作成して使ってみて、また改良して…と、やり取りを素早く繰り返すことも一つの介入方法として価値が高いと思っています。

 

また、今は3DモデルのデータがWebサイト上に多数共有されています。データが保存・共有されているということは、一から自助具をつくらなくても良いということなのです。そこから、よりそれぞれに合ったものを作ることに時間や労力を割くことができます。データでの製作と保存・共有を積み重ねていくと、世の中にはもっとパーソナライズされたよりよいものが溢れることになります。

 

自身の生活を便利にする道具を3Dデータとして共有することで、遠く離れた、似通った課題を抱えている人の生活をよりよくできるかもしれない。あらゆる人にとって、その行為が「役割」や「生きがい」につながる仕組みがつくれるとよいと思っています。

 

今は、自助具を作らないで、カタログに載っているものから選ぶのが仕事みたいになっていますが、それはすごく勿体ないことです。プロセス自体が、クライエントの新しい人生をセラピストと共にデザインしていくことにつながる。創る行為をデジタルファブリケーション を使って取り戻していきたいと思っています。

【目次】

第一回:3Dプリンターでデザインする新しい作業療法の世界

第二回:作業療法は時代の流れとともに変化する

 

林 園子さんプロフィール

一般社団法人ICTリハビリテーション研究会 代表理事/
ファブラボ品川 ディレクター/作業療法士
慶應義塾大学SFC 政策・メディア研究科 修士課程 在学予定

作業療法士として地域で暮らすクライアントのケアに従事しながら、一般社団法人ICTリハビリテーション研究会を設立。同会にて、3Dプリンタ含めたデジタル工作機械やテクノロジー機器の「医療・介護・リハビリ」現場における使い方と活用法を、共に学び作り上げる場作りを行っている。「作業療法」にフォーカスしたファブラボ品川は、その特徴的な活動により、FAB3D CONTEST2018にて「ファブ施設賞」を受賞している。2019年4月より慶應義塾大学SFC 政策・メディア研究科 にてデジタルファブリケーション と作業療法を掛け合わせた取り組みの研究予定。

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