作業療法士と二級建築士のダブルライセンスで地域をデザインする【久保田好正】

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第318回のインタビューは山梨県で株式会社 斬新社を経営する作業療法士の久保田さんのインタビュー。建築というと、なんとなく住宅改修にいかすといったイメージがあるかもしれません。しかし、そこにはもっと広義な意味でリハビリテーションの可能性を感じました。

 

何のためのシーティング?

 

ー 建築の学校にいこうと思ったのはどういった経緯を教えてください。

 

久保田 自分自身の発想力につまらなさを感じて、他の視点を何か勉強したいと思ったからですね。あとは、正直に話すと病院で自分がしていたリハビリに飽きてしまったということも少なからずあります。

 

新卒から十年間、お世話になった病院では色々と自由にやらせていただいていました。僕が力入れてやっていたことの一つに、車椅子に関するプロジェクトがあります。

 

入職当時は、病院で車いすに不良姿勢で乗っている方のシーティングや生活を改善する「車いす係」というプロジェクトを有志と勝手に立ち上げました。入院中の患者さんに最適な車いす環境を提供できるようになりましたが、同法人内の老健や特養に移るとそこの限られた備品を使うため、途端に不良姿勢になったり、自分で車いすをこげなくなるなどの不具合が生じていました。

 

「これはおかしいでしょ」と有志の仲間と手分けして、まずは実態調査としてグループ内の施設や病院の車椅子を調べたら、約八割が不適合な車椅子に乗っていることが分かりました。

 

「地域に貢献することを理念に上げているが、全然貢献できていない」と、辛辣な報告書を書いて、上司に提出したら、創始者である会長から「これはどういうことだ。」と呼び出されました。(笑)

 

今までの経緯を説明をしたところ、会長に「一千万出すから、何とかしてくれ。」と依頼され、新しいものに買い替えたりシステムを作っていきました。

 

社会参加との葛藤

 

辞める数年前からは、訪問リハビリの管理者をやっていたのですが、そこで医療・介護保険の限界を突きつけられました。僕が一番ショックを受けたのは、脳血管疾患後の六十代の女性の方を担当していた時のことです。

 

その方の訪問リハの目的は、以前に通っていた水墨画教室に通うことで、基本的なトレーニングで体をほぐしてから、外を歩くというメニューをやっていたんですよ。

 

ある日、リハビリ中に「そういえば、水墨画教室どうですか?ぼちぼちいいんじゃないですか?」なんて聞いてみたんですよ。

 

そしたら「やめちゃった。」と返ってきました。

 

そこから突っ込んで聞いていったら「訪問リハビリと時間が被るんだよね。」っていうことでした。本末転倒じゃないですか。凹みましたね。

 

最初の頃は、ご本人も水墨画教室を目指すとやる気になっていたんですよ。でも訪問リハビリを続けていくにつれて、コンスタントに私が会いにきて、話し相手にもなってくれるし、身体も楽になる。その経験を重ねていくうちに、訪問リハビリを受けることが、手段ではなく目的に変わってしまっていたんです。

 

社会参加を目指すべきなのは分かっています。でも、当時の僕には対する解決策が思い浮かばなかった。

 

それで、自分自身がつまらない人間だと思ってしまい、何か医療・介護ではないことを学びたいと思い、京都造形芸術大学の建築デザイン科(通信課程)を受けることにしました。

 

 

思いのほか奥が深かった「建築」の世界

 

いざ入学してみたら、建築は、思っていたよりもはるかに奥が深くて、すごく面白かったです。例えば、敷地の図面(配置図)も渡されて、実在する場所にも見学に行って「狭い敷地に大きな建物を建てなさい」っていうお題が出されて。「大きい」という言葉をどう再定義するか。「大きい=ボリュームが大きい」だけではなく、光の入り方が多様であるだとか。そこの中で過ごす暮らし方の密度であるだとか、言葉を再定義をするっていう事が求められるんです。

 

建築やアートを勉強するときは、とりあえず前の世代のスーパースターを否定するところから始まります。ピカソって古いよねとか。安藤忠雄ってなんか古いよねとか。そこから、「”建物を建てない”のが俺の建築だ!」とか、「”空間を作る”のが、俺の建築だ」、とか考えながら、それを実際、形にして表現していく。そういったことを学んでいるうちにどんどん建築の世界にのめり込んでいきました。

 

ー なるほど。言葉を再定義するっていうことですね。では、久保田さんの中で「リハビリテーション」っていう言葉をもし言い換えるとしたらなんでしょうか?

 

久保田 そうですね。一言で言うと、可能性を見つける仕事かなって思います。可能性って一概に言っても人それぞじゃないですか。右肩上がりの可能性なのか、それとも緩やかに自分らしく朽ちていく可能性なのか。

 

今はその選択肢が少ないと思っているんですよね。例えば、うちの親父は64歳で一度退職をしているのですが、65歳になって働きたいと思って就活をしても、どこも断られてしまったそうです。

 

それなら、64歳と364日の人でも、一日経ったらダメになるのか。個人を見ない年齢で区切る社会ってなんだろうと思っています。仮に、認知症で物事を一個しか覚えられなくても、誰かの役に立つことは全然出来る。そういった悩みが、今の仕事にも繋がっているのかもしれません。

 

PT・OTのDNA

 

ー 久保田さんが立ち上げた会社「斬新社」は、高齢社会を面白くするデザイン会社と銘打っていますが、新しいコンテンツを考える時に、久保田さんが考えているときの思考方法について教えていただけますか?

 

久保田 僕は、専門職の公私混同だと思っています。専門職は、現実と理想の両方を知っているので、「本当はこうありたいよね、でも現実はこうだよね」というギャップを感じるのが得意だと思っています。

 

それを、うまく自分ごとして捉えてにガチで突き詰めていく。多くは、他人ごとだから「仕方ないよね」と、ある程度のレベルで満足してしまいます。

 

しかし、本来理学療法士・作業療法士のDNAは、疑う事にありますよね。利用者さんが「歩けません」って行っても、いい意味で疑いその人の可能性を信じてる職業だと思っています。

 

住宅解剖論

 

ー 久保田さんは「住宅解剖論」というセラピスト向けのセミナーを企画していますが、これはどういったことを行うのでしょうか?

 

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