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戸別リハで周辺まるごとアプローチ【長岡菜都子】

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第332回のインタビューは今年4月に「びぃどろ」を起業し、フリーランスで働いている言語聴覚士の長岡菜都子先生。びぃどろでは、”だんらんコーディネーター”として、『はなすこと』『たべること』に難しさのある方に対して出張支援のほか、現在では「スマホひとつで専門家と繋がろう」をモットーに、ビデオ通話を使ったオンライン相談室やメール相談室を開設している。

保険制度上の限界

 

―  言語聴覚士になろうと思ったキッカケを教えてください。

 

長岡 もともと小さい頃から美大を目指して絵の勉強をしていましたが、高校3年生になって進路に悩んだ時に、絵で食べていくのは厳しいなと思い諦めました。

 

それから、手に職をつけたいと何か資格を取ろうと調べていて言語聴覚士という資格を見つけました。

 

中学生の時から手話をしていたので、聾学校(聴力障害の児童・生徒のための学校)の先生とかにも興味があり、似たような仕事で面白そうと思い、国際医療福祉大学を受験しました。

 

ー 起業しようと思ったのはどうしてなんですか?

 

長岡 それは訪問看護ステーションで働いている時に、在宅のお子さんに関わる上での制度の限界を感じて、物足りなさを感じたからです。

 

医療保険にしても介護保険にしても、個人に介入する仕組みなので、周辺環境に対してアプローチしたくても自由にはできないわけです。例えばお子さんの支援学校の過ごし方を見直したいと思っても学校には訪問できません。

 

あとは、小児の訪問ではよくあるんですが、子どもさんが寝てしまっているパターン。以前、訪問したら子どもさんが寝た直後だったんです。でもちょうどその日、お子さんの足の裏に感覚刺激を入れようと布草履の材料を持っていたんですね。

 

なのでお子さんが寝ているすきに、お母さんと片足ずつ草履を作ったことがありました。終了時間ギリギリに無理やり起こして泣いてたけど履かせて(笑)、使い方を指導したんです。それも、本人のためにやっていることですが、お子さんへ訪問している以上、ずっと寝ていた本人について記録が上手く書けなくて、悩んでしまいました。

 

今現在、びぃどろで提供している保険外の訪問は、個別ではなく、”戸”別訪問という名前でやっています。建物全体、その人を取り囲む全部が変わらないと意味ない。本人だけじゃなくて、本人に関わる家庭・施設・学校を丸ごとみんな支援しますという感じでやっています。

 

私は普段は極力、本人に手を出さずに、家族や周りの人に力を借りるスタイルを徹底しています。

 

もちろん専門的な訓練で改善が見込めるなら個別対応もしますが、在宅の場合は嚥下機能を良くする事以上に、皆で食卓を囲むことが優先されることが多いんですね。だから家族が支える底力を引き出したいです。

 

私が利用者さんのプロフェッショナルになる、というよりも、利用者さんを取り巻く環境全体をプロフェッショナルに育て上げようと思っています。なので、今は本人が寝ていても気兼ねなく家族指導ができます。

 

個別リハより戸別リハ

 

ー 確かに利用者さんにとっては、長岡さんが関わっていない時間の方が圧倒的に長いですもんね。

 

長岡 訪問看護にいるときから今も担当させていただいている要介護5のおじいちゃんがいるのですが、その方は入院中に胃ろうを造設して家に帰ってきたんですが、その後もずっと「あのデイサービスのご飯が美味いんだよ」と話されていました。

 

ただ、保険制度内では、私はデイに行けないですし、そのデイにも専門家はいなかったので、食べさせるのは無理だと諦めていました。

 

しかし、私が独立することになったので、そのタイミングで、私と戸別訪問の契約をしました。契約の内容は、その方のためにデイサービスに訪問して、食事支援をするというものです。保険外なので訪問先に制限がなく、デイサービスから許可をいただければ、そちらに個人向けの訪問をすることもできるようになったんです。今は、少しずつですがご飯を食べさせてあげる取り組みを続けています。

 

デイサービスで出してもらった食事を私が見て、食べさせられるものをチョイスして、それを必要に応じて潰したりとろみをつけるなどの加工をして提供する。徐々にそれをスタッフさんにお伝えして引継ぎながら、今はスタッフさんに食事介助してもらえるようになりました。

 

量はそんなに多く食べられませんが、家に帰られたあと、ご家族に「今日の卵焼きはすごい美味しかった」と話をしているそうです。

 

たった一口だけですが、満足してくれる。そういうことができるようになりました。

 

ー 訪問で小児をみれるSTってほとんどいないですから、希少価値ですよね。

 

長岡 そうですね。私が前職を退職して独立する時に、「料金が支払えない子たちはどうするんですか?」みたいに言われたこともありました。

 

市内の重度の障害児が通う施設の食事指導のアドバイザー契約は複数いただいているので、そういった子たちが通う施設の昼ご飯には関わることができています。

 

保険外のサービスをずっと使うとなると、どうしてもお金がかかってしまうので、私以外でも対応できるように、動画などを練習や復習に活用してもらったりしています。

 

先に話したように”戸”別訪問なので、その家を皆が支えられるように、私が指導した事を全て共有出来るようにと取り組んでいます。

 

環境ごと全部良くしたら、私なんかいなくても良いんですよ。そうなって欲しいです。言語聴覚士が一人で訓練するより、どこでも子供たちの食事がみられるっていう環境を何個も作る事の方が、ずっと理想的だと考えています。私の仕事がなくなりますが(笑)

 

【目次】

第一回:戸別リハで周辺まるごとアプローチ

第二回:支援学校給食改革なくして成長なし

 

戸別リハで周辺まるごとアプローチ【長岡菜都子】

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