何かが1つ回りだすと原動力になる
POSTインタビュアー:これまで回復期リハに取り組み続けてきた原動力は何ですか?
森田先生:そうですね。最近思うことは、誰かに関わることでその人が何かに気づいたりやる気が出たり、その結果成長していく様子をみるときに、その喜びは何物にも替えがたく、生きてきて良かったな、という気持ちになります。明日も頑張ろう、と。
人は1人では大したことはできず、人と人が影響し合い何かを成すことができると感じています。何か1つが回り出すと、それが原動力になってまた何かを動かしていくような。
人はいつも人に影響を与えます。原動力というのは、そういうものかもしれませんね。
POSTインタビュアー:まさに。ただ悲しくも病院を辞めてしまうスタッフも少なくないと思いますが?
森田先生:退職にはいろいろな理由があるので、誰も辞めないということはありえませんが、スタッフが働き続けたいと思える病院にしたい、というのは変わらない目標ですね。そのために目指しているのは、職場の風土作り。甘えではない風通しの良さがあり、個々の違いを認めた上でお互いが育み合える雰囲気のあるチームが作りたいです。
何年か働いて仕事ができるようになった中堅スタッフは、後輩のだめなところばかり見えてしまう。そのために指導はきつくなりがちですが、個々のスタッフの状態をみる力をつけてほしいです。信頼関係の上に指導があれば、チームの力は飛躍的に発揮されます。
チーム作りには時間がかかります。それぞれ考え方が違うので、ぶつかり合うこともありますが、それを超えて互いを理解し合い、やがていいチームが生まれます。セラピストは若い人が多いので、こうした中で人間関係作りのトレーニングをしていくことも重要です。
春の人事異動は重要です。チームを壊さず継続的に発展できる配置を考慮しながら、新しい風を入れる、それができれば人が育ちます。
馴れ合いにはならず、誰か一人のカラーにもならない、信頼と節度のある大人同士のチームが究極の目標です。現実にはやんちゃ坊主もたくさんいます(笑)。
最大限の化学反応を起こすことに興味がある
インタビュアー:森田さんにとって理想のチームとは?
森田先生:セラピストは、病棟、部門、というまとまりがあり、この両方がうまく機能することが重要だと思います。まずは、病棟主任と部門主任がよい人間関係を作り、相談しあえることだと思います。主任は、リハビリテーションをわかっていること、指導力を持つこと、そのために抑制力も備えていること。
今の職場の主任たちは、自我の強い個性派ぞろいです。暴れ馬という感じで、簡単には手綱を取らしてくれません(笑)。しかし、整いすぎない個性はセラピストの魅力ですね。切磋琢磨してリーダー同士も育ち合える環境を整えていきたいと思っています。
リハビリテーションは、豊かで夢があって、やっていてほんとうに幸せな仕事です。この病院、もっと変わりそう、何か展開していくんじゃない?という夢と希望を持てるようにしたいです。あれもやってみたい!これもやってみたい!という気持ちが起きて、パンパンと爆発していくような、そういう化学反応を起こせるかどうか、それが今の私の課題です。
上司は部下の成長を喜ぶことができ、部下もそれを理解する、そして良い刺激を与え合える関係を増殖させていきたいです。
インタビュアー:他に院内で工夫しているシステムはありますか?
森田先生:サブリーダー制度というのは、とても良いと思っています。1人の患者さんを担当するスタッフの中の、Dr.以外のリーダーとして、サブリーダーを置きます。サブリーダーはセラピストか看護師がなります。
2年目以上からサブリーダーになりますが、サブリーダーはかなり指導しないと育ちません。育成システムが重要です。1年目は自分の専門領域をみるので一杯一杯ですが、2年目になったら患者さんの全体像を描けるようになる、これはリハビリテーションを学んでいく上でとても重要な考え方で、サブリーダーをしながらセラピストとして成長していくというのは、理想的な形だと思います。
サブリーダーを育てるための、サポーターシステムに取り組んでいます。サポーターは、ケースごとにそれぞれのサブリーダーを指導します。主任、副主任が担当しますが、心を1つにして同じイメージを持ち、サブリーダーを指導していかなければなりません。そのために「サブリーダーとは何をする人か」ということを、主任たちと考え続けています。
段階を追って成長していくために、サポーターは、2年目は同職種、3,4年目以降は他職種がなるのがいいと感じています。
(第二回へ続く・・・)
森田秋子先生経歴
昭和59年 慈誠会徳丸病院リハビリテーション入職
平成15年 国際医療福祉大学言語聴覚学科入職平成21年 医療法人社団輝生会入職.初台リハビリリテーション病院・船橋市立リハビリテーション病院ST部門チーフ/初台リハビリテーション病院 教育研修部長/輝生会本部ST部門統括.輝生会本部法人総合企画室 高次脳機能障害支援事業担当(H25.4)
平成26年 珪山会鵜飼リハビリテーション病院 リハビリテーション部長<学位>
平成12年 リハビリテーション修士(筑波大学).修士論文タイトル「脳血管障害患者の日常生活活動能力における関連要因の検討」<原著論文>
1) 森田秋子他::半側空間無視の長期経過とMini-Mental Stateの関連について.神経心理学,2002.2) 森田秋子他:半側空間無視の長期経過―机上検査で所見が消失した患者の経過を中心に―.日本老年医学会雑誌,2005.
3) 森田秋子他:失語症患者の排泄訓練における言語聴覚士の役割.言語聴覚研究,2005.
4) 森田秋子他:半側空間無視が基本ADLに与える影響.総合リハ,2006.5) 森田秋子他:失語症症例の回復期における認知機能の改善に関する検討-認知・行動チェックリストの試験的作成と運用-.脳卒中,2011.
6) 森田秋子他:認知機能を行動から評価するための認知関連行動アセスメントの開発.総合リハビリテーション,2014
<著書>
1) 森田秋子:評価・診断.標準言語聴覚障害学 失語症学.医学書院,2009.2) 森田秋子編著:PT・OT・STのための脳損傷の回復期リハビリテーション.三輪書店,2012.
3) 森田秋子編著:在宅・施設リハビリテーションにおける言語聴覚士のための地域言語聴覚療法.三輪書店,2014
<社会活動>回復期リハビリテーション病棟協会理事/日本高次脳機能障害学会評議員/日本リハビリテーション連携科学学会理事
キーワード
♯回復期リハビリ ♯言語聴覚士
♯チーム医療 ♯リハビリテーション