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「やりたいこと」「好きなこと」が見つからないのは不幸なのか?

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臨床経験が数年たったセラピストなら、一度や二度キャリアについて悩んだことがあるでしょう。

キャリアって何を軸に考えますか?

「給料?」「やりがい?」「人間関係?」「家からの距離?」・・・・

本連載では、国家資格キャリアコンサルタントを保有し100名以上のセラピストをクライアントに持つ筆者が、

多くのセラピストが気になる「給料アップ」や「セルフブランディング」などのキャリア形成で重要なポイントを整理しながら、キャリア迷子にならないよう思考法を身につけてもらうことを目的としています。

主観に満ちた助言の功罪

「やりたいことを仕事にしたい」

「好きなことを仕事にしたい」

 

こういった耳障りのいい言葉をよく聞きます。

 

これ、筆者がキャリア相談を受ける中でもクライアントから聞かれる内容でもあります。

 

確かに、ネットニュースやYOUTUBEを見れば、

 

「やりたいことを見つけよう!!」「好きを仕事に!!」といった内容を著名人が提唱していたり、学校の先生もこの主旨の発言をしたりしてます。

 

もちろん、そうなれば万々歳なんですが、

 

そもそも「好き」を「仕事」にすることが本質的に幸せなのか…….?

 

と、天の邪鬼な筆者は考えてしまうわけです。

 

本日はその点について考えていきます。

 

個人の経験や好みに基づくアドバイスには、いくらでも例外が見つかるものです。

 

最近では、twitterやfacebookでいかにも凄そうなセラピストの諸先輩方が情報発信をしていますが、いかにすごい成功者(っぽくみえる場合がほとんど)のアドバイスでも、あなたに合っているとは限りません。

 

「好きを仕事にしよう!」はその最たる例かもしれません。

 

キャリアコンサルタントの立場から言わせてもらうと、主観に満ちた助言の中から、あなた自身の幸せを最大化してくれるような仕事をいかに探せるのかがキャリアを歩む中では鍵になります。

 

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「好きを仕事に」は正義なのか?

はじめに、2015年ミシガン州立大学が行った「好きなことを仕事にする者は本当に幸せか?」という調査(*1)について以下に解説します。

 

数百を越える職業から聞き取り調査を行い、仕事の考え方が個人の幸福にどう影響するかを調べたものです。

 

研究チームは被験者の仕事観を2パターンに分類しました。

●連合派:「好きなことを仕事にするのが幸せだ」と考えるタイプ➡給料が安くても満足できる仕事をしたいと考える傾向が強い

●成長派:「仕事は続けるうちに好きになるものだ」と考えるタイプ➡そんなに仕事は楽しくなくてもいいけど給料はほしいと答える傾向が強い

一見すると、「連合派」が幸福度高いような印象を持ちますし、多くのセラピストをはじめ専門職を早くから志す人にとっては「連合派」を支持したくなるものです。

 

しかし、この調査の結果としては初期は確かに連合派の幸福度が高いものの、中期・長期でみた場合、幸福度・年収・キャリアなどのレベルは「成長派」のほうが高いというのです。

 

この結果に対する考察に関しては、立場により意見が異なるかもしれません。

 

ここで、結果に付随するものとして「内的動機づけ」や「外的動機づけ」という話にも少し触れておきます。

●内的動機付け:物事に興味や関心を持つことで意欲が沸き起こり、達成感や満足感、充実感を得たいという、人の内面的な要因によって動機付けられること

●外的動機付け:強制や懲罰、評価、報酬などが要因となって動機付けられること

ここで言う内的動機付けは「連合派」に近く、外的動機付けは「成長派」に近い印象を持ちます。

 

動機付けに関して有名なアンダーマイニング効果が影響しているのではないかと筆者は考えます。

 

この効果は、個人が好きなことややりがいを感じて自発的に行っていた行為に対して報酬を与えた結果、行為の目的が「やりがい」から「報酬」に変わってしまい、報酬なしではモチベーションが低下してしまう心理作用のことをいいます。

 

人には「自分の行動は自分で決めたい」と望む自己決定の欲求や「できないことをできるようになりたい」と望む有能への欲求があります。

 

しかし、仕事は病院・会社の方針や組織の中での人間関係、上司の評価を気にすることや与えられた役割をこなす部分も多分にあり、結果として報酬(給料)をもらうシステムです。

 

こうしたシステムに“適応する”中で、元々仕事に対して思い入れが強い連合派は「こんなはずではない」「今の仕事は本当に好きなんだろうか?」と疑念を抱くことが多く、満足度が下がり、結果的に「自己決定感」や「有能感」の低下を招くのかもしれません。

 

これらの結果から言えることは、「仕事やキャリアとはそういうものだ」と割り切ったほうが案外うまくのかもしれないということです。

 

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「適した職」ってどう見つけるの?

「好きを仕事に」とならんでよく聞くのが、「自分が心底やりたい、情熱を持てる仕事に」というアドバイスでしょう。

 

誰しも心の中にも仕事への熱い思いが眠っているという前提で、その情熱に火を点けてくれる適職を探すというものです。

 

素晴らしい話なのですが、適職ってそもそもどこかにあるものを自ら探索していくものなのでしょうか。

 

筆者としてもここの当たりは「YES」とも「NO」とも実は言えません。

 

これについて、ジョージタウン大学のインタビュー調査(*2)では、適職に就くことができた(と思っている)人の大半は、事前に「明確な目的」を決めていなかったといいます。

 

つまり、適職を得たのはほとんどが偶然の産物だと言えるわけです。

 

仕事で専門性が身につかなくて悩んでいるセラピスト、業務内容に不満を持つセラピストは「この仕事は自分には合っていない」と負の感情を抱くことがあるかもしれません。

 

しかし「合っている」「合っていない」の観点を客観的に言えば、あなたの適職探しには何の影響も与えないわけです。

 

逆に言えばどんな仕事だろうが、適職にはなりえます。

 

セラピストの中でも、希望した領域で働けなくとも、与えられた職務を全うしている中で「あ、これ自分に合っているかもしれないな」という経験をした人は案外多いかもしれません。

 

こうしたある種の「偶然性」について有名な理論が計画された偶発性理論です。

 

有名な理論なので、一度や二度聞いたことがあるかもしれません。少し解説します。

 

この理論は、スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授「キャリアの8割は偶然によって決定される」という前提に基づいています(*3)。

 

この理論は、

●キャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される

●偶発的なことを計画的に導くことでキャリアアップをしていくべき

という2点が要点として挙げられます。

 

この理論では、【未来ばかりに気を取られると現在が見えなくなってしまう】という意味が含まれており、変化のスピードが速い現代では、10年以上先の未来なんて誰にも予測できない。目的ばかり見ていると見逃すことも多い。想定外のチャンスを失ってしまうという発想に由来します。

 

「好きを仕事に」「やりたいことを仕事に」の前に、目の前の仕事に向き合うことが大事

こうした偶然について時々勘違いされるのですが、受け身で待っていても何も変化しません。

 

予期しない出来事をただ待つだけでなく、自ら創り出せるように積極的に行動し、偶然を意図的・計画的にステップアップの機会へと変えていくべきだというのが同理論の中心となる考え方です。

 

そして、以下のような行動指針を持つことが大事だと指摘しています。

  • 「好奇心」 ―― たえず新しい学習の機会を模索し続けること
  • 「持続性」 ―― 失敗に屈せず、努力し続けること
  • 「楽観性」 ―― 新しい機会は必ず実現する、可能になるとポジティブに考えること
  • 「柔軟性」 ―― こだわりを捨て、信念、概念、態度、行動を変えること
  • 「冒険心」 ―― 結果が不確実でも、リスクを取って行動を起こすこと

今回のまとめとして、「好きを仕事に」「やりたいことを仕事に」を追求することは決して悪いことではありません。

 

しかし、まずは現職組織で与えられた役割について、主体的に取り組んで成果を残すことが重要であり、結果的にそれが“適職”になりうる可能性もあり、偶然を引き寄せ、さらなるキャリアアップを生む可能性もあると認識しておきましょう。

 

それでないと、いたずらに“キャリア迷子”になります。

 

今、キャリアに悩んでいるセラピストは、目の前の課題、仕事をないがしろにせず、実はそこに向き合って働いていくことがまずは大切かもしれません。

 

向き合った結果、次のステップとしてキャリア相談や転職を選択するのが最適といえるでしょう。

 

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引用・参考文献

*1:Patricia Chen,Phoebe C.Ellsworth (2015)Finding a Fit or Developing It:Implicit Theories About Achieving Passion for Work

*2:Cal Newport(2016)So Good They Can’t Ignore You

*3:ジョン・D・クランボルツ、A.S.レヴィン著 花田光世ら訳 ダイヤモンド社(2005):その幸運は偶然ではないんです!

「やりたいこと」「好きなこと」が見つからないのは不幸なのか?

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