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「同じ作業療法を語っているはずなのに」 信念対立はなぜ生まれるか【京極真】

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世界観の食い違いから起こるトラブル

 京極先生は作業療法の他に「信念対立解明アプローチ」も専門としていますが、その道に進むまでの経緯を教えてください。

 

京極:新人の頃に連携で悩むことが多かったというのがあります。患者、家族、医師、看護師、精神保健福祉士、臨床心理士、栄養士、作業療法士などなど、皆さんそれぞれ「対象者のために」を目標にしているのに、なぜ連携がうまくできずに対立が起きてしまうのか。

 

作業療法士になった頃から、そういう問題で悩んできました。

 

それぞれ意見が異なるから対立するわけですが、そのひとつに作業療法をめぐる対立がありました。 当時それを僕なりに分析していくと「作業療法」という概念を起点に問題が起こっていることに気づきました。つまり、「作業療法」が立場によって異なっており、意見の対立が起こることがあったわけです。

 

そうした事態が起こる理由を理解するには、作業療法の歴史を抑えておく必要があります。作業療法の歴史を大きく振り返ると、作業パラダイムから機械論パラダイム、そして作業行動パラダイムへとシフトチェンジしており、時代ごとに常識が変化してきています。 特に日本の精神科作業療法の歴史はとても複雑で、作業療法という概念のもとにoccupational therapyと生活療法という異なる考え方の治療法が混在してきました。

 

occupational therapyは意味ある作業を基盤にしたクライエント中心のアプローチであり、ぼくらが今、作業療法士としてやっている実践です。

 

しかし、生活療法は集団管理・生活指導・レクリエーションを基本にしたものです。つまり、両者はルーツも理論体系も接点をもたず、ぜんぜん異なるものなのです。

 

けども、暗に同じようなものだと思っている人たちがいるので、様々なところでミスコミュニケーションが生じるわけです。意見が対立する背景には、単に目の前にいる人たちとの意見があわないだけでなく、歴史的なもつれもあったのです。

 

では、このような問題はどう対応したらいいのか、、、と考えたときに、作業療法の知識や技術で処理できるようなものではなくて、結果的に哲学の世界に足を踏み入れたという流れになります。

 

その理由は、哲学って意見の対立を越えて共通了解可能性にめがけて発展してきたからです。そもそも僕が探求している「信念対立」は、哲学で発展してきた方法概念です。

 

簡単に言うと、信念対立とは「世界観の食い違いから起こる確執」です。それこそ、人類の三大教師であるソクラテス、プラトン、アリストテレスも、この問題と格闘してきました。 僕は主に現象学、構造構成主義などの哲学を武器に、世界観の確執を超克する理論として信念対立解明アプローチを作っていきました。

 

ー なるほど。作業療法のパラダイムシフトについてもう少し詳しくお話しを聞かせていただけますか?

 

京極:作業療法の歴史を振り返ると、作業療法前史の道徳療法、プラグマティズム、アーツ・アンド・クラフツ運動等があって、それらを発展的に継承するかたちで作業療法の創始者たちが作業療法を創りました。

 

この初期の作業療法は、作業パラダイムと呼びます。作業パラダイムはかっちりとした理論体系があったわけではないんですが、作業を通して健康と幸福を改善したり、促進したりするという共通の原則をもっていました。 ところが、これに対して医学から「曖昧だ」とか「非科学的だ」という批判が投げかけられました。

 

これを第一の危機といいます。

 

このときに、当時の作業療法士たちが反論できたらよかったんです。けども、世界大戦とか世界大恐慌等の影響もあって十分に反論できず、結果として作業を使わない作業療法へと移行しました。 この第一の危機によって生みだされた作業を使わない作業療法を支えるのが、機械論パラダイムです。

 

これは筋骨格的、神経運動的、精神力動的な問題に取り組むものでして、疾患別の作業療法の発展につながりました。クライエントの医学的問題の解決を考えると、この発展はとてもよかったんです。

 

ところが、機械論パラダイムは医学からの批判のきっかけになった「作業を通した健康と幸福の改善・促進というアプローチ」を使わない状態を作ってしまったんですね。つまり、作業療法の中核原理である作業を失ったわけで、この領域はあまりにもバラバラになってしまい、作業療法の存在意義に疑念をもたらす事態に陥りました。

 

これが第二の危機です。作業を使わない作業療法士は、例えるなら犯人逮捕しない警察官、消火活動しない消防士、弁護活動しない弁護士、青嗣に取り組まない政治家みたいなもんです。そりゃ「存在する意味あるの?」という疑問をもたせますよね。

 

この危機を乗り越えるために、新しいパラダイムを求めるムーブメントが起こりました。これは作業行動パラダイムと呼ぶのですが、現代作業療法の基礎を提供しています。このパラダイムの特徴は原点回帰です。これはライリー先生の作業行動学派が牽引し、作業療法の中核原理である作業を復活させ、作業を通した健康と幸福の改善・促進を実現するアプローチの体系化という方向性で今なお進行しています。

 

ぼく個人は、このさらに先でハイブリッド型のパラダイムへとシフトチェンジしていくと予想しています。つまり、機械論パラダイムと作業行動パラダイムを包摂し、より柔軟に実践できるパラダイムへと移行するのではないか、と考えています。

 

その具体策として、寺岡睦先生と共同でOBP2.0という新理論の開発を進めていますが、これはさらなる未来のパラダイムを先取りした超メタ理論であると位置づけています。

 

無視するか、怒るか

 

ー 今でも「作業療法とは何か?」を聞かれたら、パッと答えられる人は多くはないと思いますが、先生は既に一年目の時から作業療法をある程度理解できていたんですか?

 

京極:そんなことないです。よくわからないという感覚はずっとあったので、学生のことから作業療法の本質を研究している人たちの研究論文を読み漁っていました。

 

また、作業療法士1年目の頃から、作業科学や人間作業モデルを武器に臨床、研究に取り組んでいました。 ところが、専門性を極めようとすればするほど、争いが激しくなっていく感覚があったんですね。

 

その当時、対立をどうにかしないといけないと身が持たないなと思ってしまい、信念対立のことを研究し始めました。

 

既に、コンフリクトマネジメントやノンテクニカルスキルといった、対立を克服するために必要なアプローチはありましたが、当時のぼくはそれでは自身が悩んでいる問題の根本的な解明に繋がりにくいなと感じて、医療領域における信念対立を根こそぎ刈り取れるようなアプローチを組み上げたいと思ったんです。

 

ー 多職種連携に関する教育をPTOTSTも学生のうちから行った方がいいと思いますか?

 

京極:そう思いますね。ぼくは大学(吉備国際大学)で看護学科、理学療法学科、作業療法学科の学生に信念対立解明アプローチを教えています。

 

対立は職業性ストレスや患者さんの治療満足度、あるいは死亡率など様々なアウトカムに影響してきますから、学生時代からその対策を理解しておくことは重要だと思います。

 

ちなみに、森田さん(インタビュアー)は、医療従事者が1番多く採用する対立策って何かご存じですか?

 

ー チームカンファレンスとかですか?

 

京極:いえ。正解は回避(avoidance)なんですよ。わかりやすく言えば、見て見ぬ振りです。患者さんの処方や治療方法がちょっと変だなと思っても、対立があると多くの人は何も言わないんです。

 

しかも、回避を合理化するために「患者のため」などと言うわけです。 なぜそのようなことが起きてしまうかというと、やはり対応する方法を学んでいないからだと思います。

 

人が対立に対する対応方法を最初に学ぶ場所は家庭の中で、両親が夫婦喧嘩などのもめ事に対して、どのように対処しているかを見て学ぶのですが、だいたいは「回避する」か「怒るか」の二択です。 これを最初に学んだとして、職場で怒ることができるのは権力者とか、感情調整ができていない人とかです。

 

それ以外の多くの人は怒るという選択肢はとりにくいので、回避するという対応を暗黙のうちにとってしまうのだろうと思います。しかし、残念なことに、この二つの選択はどちらとも対立を激化させる可能性があります。 信念対立解明アプローチでは、感情調整をしっかりした上で、コミュニケーションを結び直すことを基本にしています。

 

具体的に言うと、感情調整は運動、マインドフルネス、ポジティブ反応などでして、しっかり習慣化することによって不安、怒り、抑うつ反応などを解消できる素地を作っていきます。

 

次に、コミュニケーションですが、傾聴と共感をベースにしつつ、状況や目的を確認し、共通目標を設定し、それを達成するためにどのような方法がいいのかを明らかにしていきます。治療方針に関するものであれば、エビデンスに根ざした実践を使っていくといいです。

 

 京極真先生のYouTubeチャンネルはこちら

▶︎ https://www.youtube.com/channel/UCWpvAxIhiF9jFugw2zC_0ng/join

 

【目次】

第一回:教授ユーチューバーが語る作業療法教育のこれから

第二回:「同じ作業療法を語っているはずなのに」 信念対立はなぜ生まれるか

第三回:低い認知度が引き起こす作業療法現場のジレンマ

 

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