糖尿病⇔筋肉量低下の悪循環を高齢化が加速させることを発見

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本研究成果のポイント

  • ・高齢化は筋肉の低下をもたらすが、2 型糖尿病患者群でそのリスクが高くなる。
  • ・2 型糖尿病による筋肉量低下は後期高齢者(75 歳以上)でより顕著である。
     

概要

広島大学大学院先進理工系科学研究科理工学融合プログラム 鹿嶋小緒里准教授、大学院医系科学研究科 地域医療システム学 松本正俊教授、帝京大学医学部地域医療学 井上和男教授は、2 型糖尿病が筋肉量低下をもたらすことの検証を行い、年齢がその関係性を加速させる可能性を明らかにしました。この研究成果が「Scientific Reports」に掲載されました。これまで、筋肉量低下が糖尿病発症リスクにつながり、またその逆の糖尿病患者の筋肉量低下の関係という双方向の関係が示唆されていました。世界的に高齢化が進む中、本研究では特に「加齢」に着目し、日本の 6,133人の高齢者の健診データを利用して、糖尿病と筋肉量低下の関係を評価するとともに、「加齢」がその関係をさらに強めることを示唆しました。

論文掲載

本研究成果は 2021 年 7 月 26 日にネイチャー・リサーチ社の Scientific Reports(オンライン)に掲載されました。

掲載誌: Scientific Reports. 2021; 11(1): e15167.

論文タイトル : Low creatinine levels in diabetes mellitus among older

individuals: the Yuport Medical Checkup Center Study

著者名: Saori Kashima, Kazuo Inoue, Masatoshi Matsumoto

DOI: 10.1038/s41598-021-94441-9

https://doi.org/10.1038/s41598-021-94441-9

 

背景

世界的に高齢者人口は増加しており、2015 年には 12%である高齢者割合も2050 年には 22%と約 2 倍になることが予測されています。人々は高齢に伴い様々な疾病になるリスクが増加しますが、糖尿病もまたその一つであり、2019 年の糖尿病有病割合は 1.4%であるのに対し、2045 年には 20.5%となる予測がされています。糖尿病は筋肉量低下をもたらし、また筋肉量低下が糖尿病発症のリスクになるという双方向の関係が、我々の研究を含めた先行研究で報告されています。しかしながら、高齢者の糖尿病に関する研究はまだ限られており、年齢が糖尿病と筋肉低下の関係にどのように影響を及ぼすかについての知見はまだありませんでした。今後の世界的な高齢化社会到来において、これら年齢の影響の解明は糖尿病予防対策およびそのコントロールにおいても重要です。そこで、1998 年から 2006 年に「ゆうぽうと健診センター」が関東で実施した健診データを利用し、6,133 人の高齢者(65 歳以上)を対象に、各年齢群における糖尿病患者の筋肉量低下の関係を評価しました。なお、筋肉量を大規模に測定することは難しいため、代価指標として血清クレアチニン値(※1)を本研究では利用しました。

 

研究成果の内容

年齢の増加とともに、糖尿病群と非糖尿病群ともにクレアチニン値は増加しますが、糖尿病群は非糖尿病群より、男女とも低いクレアチニン値(低い筋肉量)が観測されました。また、早期高齢者(65–69 歳)、中期高齢者(70–74 歳)、後期高齢者(75歳以上)の群で、それぞれ糖尿病患者および非糖尿病患者におけるクレアチニン低値(25%tile 以下、男性:61.9μmol/l、女性:53.0 μmol/l)になる確率をみてみると、どの年齢群でも非糖尿病群と比較して糖尿病群で有意に低クレアチニン値になる確率が高いことが観測されました。またその関係性は各年齢群で異なり、特に後期高齢者でより観測されました(図 1)。

これらの結果より、加齢は糖尿病と低クレアチニン値(筋肉量低下)の関係に影響を及ぼすことが示唆されました。これまで、低筋肉量の人の糖尿病発症リスクおよび、その逆の関連性(糖尿病発症による筋肉量低下)が示唆されていました。本研究および先行研究から、年齢がさらに両方向のサイクルを加速させる概念モデルの提唱につながりました。(図 2)

 

今後の展開

本研究では、横断研究デザインのため因果関係の証明とはなりませんが、後期高齢者の糖尿病患者は筋肉量低下のリスクがより高くなることが示唆されました。筋肉量の低下はフレイル(虚弱の状態)リスク増加につながります。加齢そのものは止められませんが、筋肉量低下を防ぐ取り組みは、提唱したサイクルによる糖尿病への進展を予防し、健康寿命延伸を含めた健やかな老後(サクセスフル・エイジング)の達成にも重要です。また、体筋肉量低下以外にも糖尿病を起こす要因は多岐に渡るので、それらに着目することもこのサイクルを防ぐために欠かせません。これからも引き続き、関連したテーマの研究を進めていく予定です。

用語解説

(※1)血清クレアチニン値:

クレアチニンは筋肉由来の老廃物です。主に腎機能の指標として使われますが、筋肉量の代替指標として疫学研究等でも利用されています。

 

【参考図】

図 1 各年齢群別の糖尿病群とクレアチニン低値(=体筋肉量減少の指標)の関係(非糖尿病群が比較対照群、オッズ比が高いほどクレアチニン低値になりやすい)

 

図 2 「糖尿病・体筋肉量減少サイクルの加齢促進モデル」

 

詳細▶︎https://www.teikyo-u.ac.jp/application/files/2216/2763/5818/news_20210802.pdf

 

注)紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

糖尿病⇔筋肉量低下の悪循環を高齢化が加速させることを発見

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