兵庫医科大学(所在地:兵庫県西宮市、学長:野口 光一) 脳神経外科学講座 主任教授 吉村紳一、臨床疫学講座 教授 森本剛らの研究グループは、2018年7月、早期に専門的治療を要する脳卒中の疑いがある患者を、救急隊員などが適切な治療施設へ直接搬送することができるように、病型予測を瞬時に行える病院前脳卒中病型判別システム「JUST Score」を開発しました。
そしてこの度、「JUST Score」について、「地域データをリアルタイムに自動化(AI化)できる機械学習モデルの開発」と「脳卒中の発症から治療までの時間短縮効果の実証」を実現させ、これらの2つの研究論文が国際的な医学誌2誌に同時に掲載されました。
【“世界初”の取り組みについて】
脳卒中の可能性を病院搬送前に予測する病院前脳卒中予測モデルについては、世界中で広く研究されている。しかし、その世界中で研究されていることは「脳卒中の診断があたっているかどうか」までで、「病院前脳卒中病型判別システムに機械学習を導入すること」と「救急現場で使用した際の病院との交渉回数や搬送時間、患者の予後を解析すること」は世界で初めての試みにあたる。
研究内容(1):「地域データをリアルタイムに自動化(AI化)できる機械学習モデルの開発」について
「JUST Score」は、脳卒中の疑いがある患者に対しては、「JUST Score」のシステムを利用しなかった時に比べ、早い段階で治療施設へ搬送できるようになった。しかし、過去の本学の研究データを元に脳卒中の予測モデルを作成する必要があり、様々な地域の特性や時代背景の変化への対応が遅れる可能性があった。そこで今回、機械学習を導入することで、「最新の地域データをリアルタイムに反映させること(AI化)が可能」となるモデル「JUST-Machine Leaning」を開発に成功した。
上記の表は、診断精度(1に近いほど正確)を表しており、これまでのJUST Scoreよりも、JUST-Machine Learningの方がより精度が高くなっていることを示しています。
研究内容(2):「脳卒中の発症から治療までの時間短縮効果の実証」について
「JUST Score」を実際に導入した救急搬送現場と、患者への影響をより適切に評価するために、まだ導入できていない広域の救急隊にも「JUST Score」を導入し、救急隊員が脳卒中を疑った患者さんの搬送結果や、搬送後の治療結果についても評価を行った。「JUST Score」の使用前後を分析した結果、救急隊が「搬送を依頼する交渉回数」が減少し、「重症脳卒中患者の治療までの時間」が短くなる効果が証明された。
今後の展望
今回の研究により、「JUST Score」の精度が高まり、「実際の臨床現場において治療を行うまでの時間短縮効果」が証明された。今後、救急隊や脳卒中疑いの患者を最初に評価する医療従事者に、より広く「JUST Score」を利用してもらうことで、脳卒中の患者さんが早期に適切な治療を受けられる可能性が高くなり、より多くの「患者の予後が改善されること」が期待できる。研究グループでは、引き続き、「JUST Score」の最適化をめざした研究を継続し、より多くの患者を救うことにつなげたい。
発表論文情報
研究内容(1):「地域データをリアルタイムに自動化(AI化)できる機械学習モデルの開発」について
掲載医学誌
「Translational Stroke Research 2021」(14th, August, 2021)電子版
論文タイトル
「Development of Machine Learning Models to Predict Probabilities and Types of Stroke at Prehospital Stage: the Japan Urgent Stroke Triage Score Using Machine Learning (JUST‑ML)」
著者
Kazutaka Uchida·Junichi Kouno·Shinichi Yoshimura·Norito Kinjo·Fumihiro Sakakibara·Hayato Araki·Takeshi Morimoto2
研究内容(2):「脳卒中の発症から治療までの時間短縮効果の実証」について
掲載医学誌
「Journal of NeuroInterventional Surgery 2021」(19th, August, 2021)電子版
論文タイトル
「Effect of region-wide use of prehospital stroke triage scale on management of patients with acute stroke」
著者
Hayato Araki, Kazutaka Uchida, Shinichi Yoshimura, Kaoru Kurisu, Nobuaki Shime, Shigeyuki Sakamoto, Shiro Aoki, Nobuhiko Ichinose, Yosuke Kajihara, Atsushi Tominaga, Hiromitsu Naka, Tatsuya Mizoue, Masayuki Sumida, Nobuyuki Hirotsune, Eiichi Nomura, Toshinori Matsushige, Junichi Kanazawa, Yukio Kato, Yukihiko Kawamoto, Kazuhiko Kuroki, Takeshi Morimoto
詳細▶︎https://www.corp.hyo-med.ac.jp/public/news_releases/topics/20210910-01.html
注)紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。