在宅がん患者の介護者は、時間的要因を最も負担に感じている 中等度の要介護度と55歳未満の若年介護者に重い負担感

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研究成果のポイント

  • ・在宅がん患者の介護者の主要な負担要因は時間的負担であり、中等度の要介護度(要介護2-3)および55歳未満の若年介護者で負担が高くなることが明らかになった。
  • ・患者の生活の質を向上させる在宅療養が、介護者の大きな負担になることが懸念されていたが、どのような介護要因が介護者の負担になっているかについてはこれまで検討されてこなかった。
  • ・患者の要介護度に基づいて介護サービスが提供される現在の介護保険制度では、特に若年介護者の時間的負担が大きくなっている可能性があり、患者と介護者の両者の特徴を考慮した介護サービス提供システムを構築し、介護者を社会全体で支えるしくみづくりが必要である。

 

概要

大阪大学大学院医学系研究科博士後期課程/日本学術振興会特別研究員の大槻奈緒子さん(研究当時。現:東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科・特任講師)と大阪大学キャンパスライフ健康支援センターの山本陵平准教授らの研究グループは、日本のがん患者の緩和ケアの質の評価を目的にする大規模な全国遺族調査Japan Hospice and Palliative Care Evaluation study (J-HOPE研究)において、在宅ホスピス・緩和ケアを受けて亡くなったがん患者の介護者342名の主な介護負担は時間的要因であったことを明らかにしました。介護者の時間的負担は、患者の要介護度が中程度群(要介護2-3)で最も高く(図1)、また55歳未満の若年介護者で高く、患者のみならず介護者の特徴を考慮した在宅ホスピス・緩和ケア制度が必要とされていることを示唆する結果です。

 

本研究成果は、米国科学誌「Supportive Care in Cancer」に、9月21日(火)(日本時間)に公開されました。

 

図1. 患者の要介護度と介護者の時間的負担

 

研究の背景

我が国の人口の少子高齢化は深刻な問題であり、要介護高齢者も増加の一途を辿っています。増加する要介護者を減少する労働人口で支えるための社会保障の財源は逼迫しています。そのため、医療の経済効率に優れた在宅医療が推進されています。在宅療養は患者の生活の質を向上させることが知られていますが、その一方で介護者に大きな負担がかかることが問題視されてきました。しかしながら、介護者にとって、時間的、経済的、心理的、肉体的な負担などの様々な負担要因のうち、どのような要因が最も大きな負担になっているかについてはこれまでほとんど検討されてきませんでした。

 

研究の内容

本研究グループは、2014~2018年1月に在宅ホスピス・緩和ケアを受けて亡くなったがん患者の介護者を対象にしたアンケート調査の結果を用いて、在宅がん患者の介護者にとって、時間的、経済的、心理的、肉体的な負担などの様々な負担要因のうち、どのような要因が最も大きな負担になっているかについて明らかにしました。また、在宅がん患者の介護負担は、どんな患者や介護者の特徴があると負担が大きくなるのかについても明らかにしました。その結果、在宅がん患者の介護者の主要な介護負担は時間的要因であり、患者の要介護度が中程度群(要介護2-3)で最も高く(図1)、また55歳未満の若年介護者で高いことがわかりました。

 

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

在宅がん患者の介護において、患者の要介護度が中程度(要介護2-3)、および55歳未満の若年介護者において、時間的な介護負担が高いことを本研究は明らかにしました。今の日本の介護保険制度は、要介護度が高い患者により多くの介護サービスを提供するしくみになっており、最も介護サービスのニーズが高い、働きながら日々忙しく親の介護をする子ども世代への支援が十分でない可能性を示唆する結果です。2025年には団塊の世代が後期高齢者となり、ますます介護が必要な在宅療養者が増加することが予測されます。増加する要介護者と介護を担う就労世代である若年の介護者を社会全体で支えるしくみづくりの再構築が望まれます。

 

特記事項

本研究成果は、2021年9月21日(火)(日本時間)に米国科学誌「Supportive Care in Cancer」(オンライン)に掲載されました。

 

タイトル

Care needs level in long-term care insurance system and family caregivers’ self-perceived time-dependent burden in patients with home palliative care for cancer: a cross-sectional study

著者名

Naoko Otsuki, Ryohei Yamamoto, Yukihiro Sakaguchi, Kento Masukawa, Tatsuya Morita, Yoshiyuki Kizawa, Satoru Tsuneto, Yasuo Shima, Sakiko Fukui and Mitsunori Miyashita

DOI https://doi.org/10.1007/s00520-021-06579-x

 

 

本研究は、日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団「遺族によるホスピス・緩和ケアの質の評価に関する研究」および日本学術振興会特別研究員特別奨励研究として行われました。

 

詳細▶︎https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20211006_1

 

注)紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

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