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オフィスワーカーの腰痛悪化予報がスマートチェアで可能に 日常生活のさりげないセンシングにより日々の体調予報に道!

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【研究のポイント】

  • ・日本人の 10 人に 1 人が腰痛に悩まされており、たとえ良い姿勢を保っていても長時間座っていると腰痛が悪化する場合がある。
  • ・荷重センサーを装着したオフィスチェア(スマートチェア)により、オフィスで働いている人の日々の腰痛悪化を高い精度で予測することが可能となった。
  • ・人工知能解析技術(AI)注 1 を用いた信号処理と深層学習注 2 により、座っているときの細かい体の動きの共通パターンを発見し、パターン消失日は高い確率で腰痛悪化が起こることを見出した。

 

【研究概要】

日本人の 10 人に 1 人が腰痛に悩まされています。たとえ正しい姿勢を保っていても長時間座っていると腰痛が悪化することがあります。腰痛の発生を予測できれば、回避するためのストレッチングやエクササイズなどの行動をとることが可能です。東北大学大学院医工学研究科の健康維持増進医工学分野 永富良一教授らのグループは、オフィスで働いている 22 名に荷重センサーを装着したオフィスチェア(スマートチェア)を実際に 3 ヶ月間使用してもらい、座っているときの荷重変化の信号を AI 解析することにより、姿勢の固定化を防いでいる可能性がある細かい動きの共通パターンを発見し、そのパターンがみられないと、腰痛悪化が高確率で起こることを見出しました。本研究は、規則性に乏しい時系列生体信号から AI を用いて生理学的に意味のある事象(腰痛)の予測が可能であることを示した重要な報告です。ウェラブル機器など日常的にさりげなくセンシングできる生体信号の利用価値が飛躍的に高まることが期待されます。

本研究成果は、2021 年 9 月 14 日に Frontiers in Physiology 誌(電子版)に掲載されました。

 

【研究内容】

日本人の 10 人に 1 人が腰痛に悩まされています。たとえ正しい姿勢を保っていても長時間座っていると腰痛が悪化することがあります。もし、腰痛の発生が予測できれば、回避するためのストレッチングやエクササイズなどの行動をとれる可能性があります。

今回、科学技術振興機構(JST)の COI-STREAM 事業 COI 東北拠点「さりげないセンシングと日常人間ドックで実現する自助と共助の社会創生拠点」の研究成果の一環として、東北大学大学院医工学研究科の健康維持増進医工学分野永富良一(ながとみ りょういち)教授、佐藤啓壮(さとう けいぞう)特任講師、医学系研究科障害科学専攻運動学分野大学院生王梓蘅(ワン ツィエン)氏らのグループは、同グループが開発した荷重センサーを装着したオフィスチェア(スマートチェア)を利用して、実際にオフィスで働いている人の腰痛悪化予報が可能であることを世界で初めて報告しました。

実際にオフィスで勤務をしている計 22 名の研究に同意したオフィスワーカーから 3ヶ月にわたりデータを収集し、腰痛についてタブレット端末で一日 3 回、主観的な腰痛の程度を記録してもらいました。座っているときの荷重の変動データから、深層学習を利用して 22 名に共通な類似の信号変化を同定、さらにそれらが連結して出現する腰痛悪化と関連が強い組み合わせパターンを検出しました。感度・特異度注 3 はいずれもほぼ 70%と高い予測精度を実現し、実用化可能なレベルの成果を得ることができました。

本研究は、座位労働者であるオフィスワーカーの主観的な腰痛の悪化が起こるかどうかの予測を、オフィスチェアの座面直下に設置した 4 個の荷重センサーから得られる圧中心注 4 の変動に対応する時系列信号注 5 から深層学習を含む人工知能解析技術(AI)を利用して可能にしたものです。これまで、センサーを搭載した椅子を利用して慢性腰痛の危険性が高くなる姿勢や座位時間の判定は行われてきましたが、数分〜数十分の座位にともなう圧中心の変動から主観的腰痛を予測する技術はありませんでした。これは、実生活におけるさまざまな規則性に乏しい時系列信号の数理モデル注 6化するが困難であることに起因していました。しかし最新の時系列信号処理や AI 技術を適用することにより、生体由来の確率論的な信号体系から課題となる腰痛などの事象の予測が可能になりました。このことは本研究が痛みや不快感などさまざまな心因・知覚に基づく課題事象予測への拡張可能性を示すものです。また、これまでの範囲や程度を固定化して定義した指標による危険因子とは異なり、個々人の時系列信号のパターンの検出により、個別化した予報が可能であることを示した点に高い価値があります。

 

結論:

本研究によって日常生活における連続的な生体由来信号から AI 技術により腰痛などの予報が可能であることが示されたことにより、ウェラブルや生活の中でのセンサーの利用価値が大きく広がる可能性が期待されます。また姿勢の固定化を防いでいる細かい動きの発見は、今後、肩こり、頭痛、関節痛など「不定愁訴」といわれる症状の要因の解明と対処法の開発がさらに進むことが期待されます。

 

支援:

本研究は、科学技術振興機構(JST)の COI-STREAM 事業 COI 東北拠点「さりげないセンシングと日常人間ドックで実現する自助と共助の社会創生拠点」の研究成果として得られたものです。

 

【用語説明】

注1. 人工知能解析技術(AI):

人間の知識をベースに、ある問題を解決する方法をコンピュータ上で再現する技術。

注2. 深層学習(デープラーニング):

4 層以上の人工ニューラルネットワーク(神経細胞の機能をコンピュータ上でモデル化したもの)を用いた機械学習手法。

注3. 感度・特異度:

感度は、検査で陽性と出たもののうち、真に陽性である割合。特異度は、検査で陰性と出たもののうち、真に陰性である割合。感度が低いと偽陽性が多くなる(本当は腰痛がないのに、腰痛があると判定されてしまう)。特異度が低いと偽陰性が多くなる(本当は腰痛があるのに、腰痛がないと判定されてしまう)。

注4. 圧中心:

4 箇所の圧力センサーから計算された圧力の中心。ヒトの着席時の座面の重心に相当する。

注5. 時系列信号:

時間に沿って、ある一定間隔で連続して記録された信号。脳波、気温、ネットワークトラフィックなどは時系列信号となりうる。

注6. 数理モデル:

現実の現象の振る舞いを数式で単純化して表したもの。一般に、複雑な式を用いれば、より正確にモデル化できるが、計算コスト(時間や労力)も高くなるので、できるだけ単純化したモデルが用いられることが多い。

 

図 1.座位中のセンサーから得られる前後/左右への荷重の変位

座る部分の四隅に配置した圧力センサーからの情報(4色)の時系列変化。激しく動いている(上下へ変化が激しい)期間と動きが少なくじっとしている(変化が乏しい)期間があることがわかる。

 

図 2.スマートチェアによる腰痛予報

従来の方法(左)と比較した本研究成果(右)。

 

【論文題目】

Title: Low Back Pain Exacerbation Is Predictable Through Motif Identification inCenter of Pressure Time Series Recorded During Dynamic Sitting

Authors: Ziheng Wang , Keizo Sato , Saida Salima Nawrin, Namareq SalahWidatalla, Yoshitaka Kimura and Ryoichi Nagatomi

タイトル:着席中の圧中心の時系列モチーフ同定を通じて腰痛の悪化は予測可能である。

著者名:王梓蘅、佐藤啓壮、Saida Salima Nawrin、Namareq Salah Widatalla、木村芳孝、永富良一

掲載誌名:Frontiers in Physiology

DOI: 10.3389/fphys.2021.696077

 

詳細▶︎https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2021/10/press20211019-01-chair.html

 

注)紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

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