順天堂大学医学部附属練馬病院(院長:児島邦明)メンタルクリニックは、慢性疼痛研究のためのアプリ「いたみノート」アンドロイド版を開発し、2021年10月20日に公開しましたので、お知らせします(研究代表者:順天堂大学医学部附属練馬病院 メンタルクリニック 先任准教授臼井千恵)。
2018年にiPhoneアプリ「いたみノート」を公開してから、これまでに4000人を超える方に登録していただき、利用いただいておりました。その際に、Androidでの利用を希望する声も多くいただいており、今回の開発とリリースに至りました。アンドロイド版では臨床研究プラットフォーム「ResearchStack®」を利用しています。これまでiPhone版で運用を行った結果を踏まえて、ユーザーが痛みや天気、歩数の相関を理解しやすいようなグラフ画面を搭載しております。
本アプリでは、iPhone版と同様に、痛みの変化を記録し可視化することで、慢性疼痛のセルフコントロールに役立てるだけでなく、収集した情報をビッグデータ解析することで慢性疼痛の増悪因子の究明に繋げることを目指しています。慢性疼痛をお持ちの患者さんだけでなく、通院していない潜在的な慢性疼痛予備群の方々の利用も見込んでおり、慢性疼痛に対するビッグデータ研究は、慢性疼痛患者が痛みによって支障をきたしているQOL(Quality of Life:生活の質)の向上ならびに、社会的経済損失を減らすための基盤となる成果に繋がる可能性があります。
「いたみノート」の特徴
- 1,日常生活の情報(運動量、睡眠、気象など)と痛みのフェイススケールを連動させて、痛みの変化を可視化し「痛み日誌」として活用することで、重症化の予防ならびに疼痛のセルフコントロールに役立てます。
- 2,アプリユーザーに慢性疼痛、睡眠障害やうつの評価をフィードバックします。
- 3,収集情報をビッグデータ解析することで、慢性疼痛の増悪因子の究明につなげます。
画面イメージ
開発の背景
痛みは当事者以外には理解されにくい一方で、日本人は、少しの痛みであれば我慢してしまい、医療機関を受診されない方が非常に多い傾向にあります。現在、国内の慢性疼痛保有率は13.4%、約1,700万人に上ると言われており、その中でも痛みが良くならない人は77.6%との調査結果もあります。
慢性疼痛は、炎症や刺激による痛み、神経が障害されることで生じる痛み、心理・社会的な要因によって生じる痛みなど、あらゆる要因が複合的に絡み合い発症します。慢性疼痛に苦しむ方々は、その痛みのためにQOLが著しく低下し、日常生活に大きな支障をきたしています。これまで日常生活の行動(運動量、睡眠、気象など)までは観察が難しいと言われていましたが、情報技術の発達に伴い、このような問題を解決できる可能性が大いに高まりました。ビッグデータ研究的なアプローチは、様々な疫学研究が抱えている数々の科学的疑問をシンプルに究明できる可能性があります。一方で、ユーザーの地域の気象、日常生活の行動、痛み日誌を合わせて記録することで、パーソナライズされた慢性疼痛対策が可能となります。本アプリは、慢性疼痛に苦しむ方々に寄り添うアプリとして開発しました。
* プライバシーと安全性について
収集されたデータは、個人の特定に結びつく情報を一切持たないため、万が一漏洩しても個人の権利や財産の損害に結びつくことはありません。研究への参加は自由意思によるものですので、いつでも研究への参加を中止することができます。研究の協力にあたり、利害および費用の負担は一切発生しません。また、本研究は問診を中心とした疫学的観察研究であり、何らかの身体負荷がかかる介入は一切ないため安全です。
* データの扱いについて
ご協力によって得られた研究成果、および収集されたデータは、慢性疼痛の研究に役立てるため、学会発表や学術雑誌などに公表されることがあります。 また、この研究のために集めたデータを別の研究または開発に利用する場合があります(今はまだ計画・予想されていないものの、将来、非常に重要な検討が必要となるような場合)。研究から生じる知的財産権は、順天堂大学に帰属します。
* 対象について
スマートフォン上のアプリ内で同意を得た方のみを対象としています。
* アプリケーションのダウンロードについて
Google Playストアから、無料でダウンロードいただけます。
【研究の意義】
スマートフォンアプリを用いて慢性疼痛の重症化予防とセルフコントロールを行うとともに、慢性疼痛の増悪因子究明に繋げることを目的とした新しいタイプの大規模臨床です。
【特記事項】
本アプリケーションで実施する臨床研究については、すべて順天堂医学部附属練馬病院倫理委員会の審査を経て正式に承認されています。
本アプリは臨床研究におけるデータ収集用に専用開発されたものであり、それ以外の目的の使用を意図していません。研究参加によるいかなる健康被害、および機器破損に対しては補償できません。
本研究のユーザはスマートフォンユーザーに限られるため、所有ユーザー層によるバイアスがかかる可能性があります。
詳細▶︎https://www.juntendo.ac.jp/news/20211020-02.html
注)紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。