概要
国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)研究所薬剤治療研究部の宮本幸上級研究員らのグループは、末梢神経の成熟過程において神経組織の形態変化を調節する中核分子であるサイトヘジン 2 が、腰や手足の痛みを感じる神経(末梢神経)をつくる過程に関与することを明らかにし、その分子が制御される仕組みを解明しました。このことは、サイトヘジン 2 の活性化を制御することによって、痛みを感じる神経システムを自在に操れることになり、痛みの根治療法の確立に向けた新しい創薬標的分子を発見したことを意味します。
この成果は、2022 年 1 月 26 日に米国細胞生物学会誌『Science Signaling』の web 上で公開され同号の表紙に選ばれました。
図 1 痛みの原因になる神経とその崩壊。
痛みを司る神経(左模式図)が、劣化や脱落する(右模式図)ことで痛みが誘発されると考えられます。
図 2 痛みを司る神経が構築される過程の分子メカニズム
プレスリリースのポイント
- ・慢性的な腰や手足の痛みの原因を明らかにする上で、痛みを感じる神経(末梢神経)がどのようにしてできるかを明らかにすることが大変重要です。
- ・サイトヘジン 2 が末梢神経系に発現し、神経構造を構築する過程において中心的な役割を果たすことを解明しました。
- ・サイトヘジン 2 が末梢神経系の痛みの治療において、新たな標的分子となる可能性があることを明らかにしました。
背景・目的
- ・慢性的な腰や手足の痛みの根本原因は不明である場合が多く、対症療法として、痛み止めの処方が主流となっています。このような末梢神経の痛みは、神経組織の破綻(図1)が慢性化するためであると考えられています。「痛みを伝える神経システムがどのように形成され、どのように維持されているのか」を解明することは、痛みの根本原因を明らかにすることに強く関連しています。
- ・末梢神経系に発現している遺伝子群をゲノムワイドに探索した結果、サイトヘジン 2が多く存在することを明らかにしました。このサイトヘジン 2 は末梢神経の成熟過程において神経組織の形態変化を調節する中核分子でした。
- ・サイトヘジン 2 はリン酸化されると活性化されますが、PTP4A1 という脱リン酸化酵素によってリン酸基がはずれ不活性化されることが分かりました。一方で、SH2B1とよばれるアダプター蛋白質によってリン酸基が保護されることで、サイトヘジン 2 の活性化が維持され末梢神経組織の形態変化が円滑に進むことが判明しました。
今後の展望・発表者のコメント
末梢神経系の構築に関わる中核分子を明らかにしたことで、神経システムの破綻が慢性化した場合も、それを再構築できる可能性が示されました。今後、これらの知見に基づいた痛みの根治療法が確立されることが強く期待されます。
発表論文情報
雑誌:Science Signaling
題名:The adaptor protein SH2B1 and the phosphatase PTP4A1 regulate the
phosphorylation of cytohesin-2 in myelinating Schwann cells in mice.
著者:Yuki Miyamoto, Tomohiro Torii, Keiichi Homma, Hiroaki Oizumi, Katsuya Ohbuchi, Kazushige Mizoguchi,Shou Takashima, and Junji Yamauchi
論文 URL:https://www.science.org/doi/10.1126/scisignal.abi5276
DOI: 10.1126/scisignal.abi5276
詳細▶︎https://www.ncchd.go.jp/press/2022/220126.html
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。