ムキムキを目指すだけが筋トレではない。 筋トレで死亡・疾病リスクが減少 週 30~60 分を目安に

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【発表のポイント】

  • ・これまで公表された筋力トレーニング(筋トレ)注 1 と疾病・死亡との関連を検討した追跡研究を網羅的に収集し、それらの結果を統合解析した。
  • ・筋トレを実施していると、総死亡・心血管疾患、がん・糖尿病のリスクは 10〜17%低い値を示し、総死亡・心血管疾患・がんについては週 30〜60 分の範囲で最もリスクが低く、糖尿病は実施時間が長ければ長いほどリスクが低かった。
  • ・一方、筋トレの実施時間が週 130~140 分を超えると、総死亡・心血管疾患・がんに対する好影響は認められなくなり、むしろリスクは高い値を示した。
  • ・本結果は筋トレの長期的な健康効果を示す一方、やりすぎるとかえって健康効果が得られなくなってしまう可能性を示唆する重要な知見である。

 

【研究概要】

コロナ禍において自宅で簡単にできる運動として筋トレが注目されていますが、心疾患やがんなどの疾病の予防や死亡リスクの減少に関わっているのかが気になります。

東北大学大学院医学系研究科の運動学分野門間陽樹講師、早稲田大学の川上諒子講師・澤田亨教授および九州大学の本田貴紀助教の研究グループは、これまで公表されている研究結果を網羅的に収集して分析した結果、筋トレを実施すると、総死亡・心血管疾患・がん・糖尿病のリスクは 10〜17%低い値を示し、総死亡・心血管疾患・がんについては週 30〜60 分の範囲で最もリスクが低く、糖尿病は実施時間が長ければ長いほどリスクが低くなることが明らかとなりました。さらに、筋トレの実施時間が週130~140 分を超えると、総死亡・心血管疾患・がんに対する筋トレの好影響は認められなくなり、リスクは高い値を示しました。本結果は筋トレの長期的な健康効果を示す一方、やりすぎるとかえって健康効果が得られなくなってしまう可能性を示唆する重要な知見です。

本成果は、スポーツ科学・医学分野で最も権威のある British Journal of SportsMedicine 誌(電子版)に掲載予定です。

なお、本研究は、厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)JPMH20FA1006 の支援を受けて行われました。

 

【研究内容】

ここ数年、健康の維持増進や体型維持を目的に筋トレを行う人が増えています。さらに、自宅で簡単に実施できる筋トレは、このコロナ禍で益々注目されるようになってきました。筋トレにより筋肉がつくことはよく知られていますが、筋トレの実施は疾病の予防や死亡リスクの減少につながっているのでしょうか?さらに、リスク減少のためにどのくらいの筋トレを実施すればよいのでしょうか?

そこで、東北大学大学院医学系研究科運動学分野の門間陽樹(もんま はるき)講師、早稲田大学の川上諒子(かわかみ りょうこ)講師・澤田亨(さわだ すすむ)教授および九州大学の本田貴紀(ほんだ たかのり)助教の研究グループは、18 歳以上の成人を対象に筋トレと疾病および死亡との関連を長期的に検討した研究についてシステマティックレビュー注 2 を実施しました(計 1252 件)(図 1)。その後、すべての論文を精査し、信頼でき、かつ、分析可能な研究を抽出しました(計 16 件)。これらの研究結果をもとに結果を統合するメタ解析注 3 を実施し、筋トレ実施の有無および実施時間と疾病および死亡リスクの関連を検討しました。

分析対象となった疾患は、心血管疾患(計 9 件)、がん(計 7 件)、糖尿病(計 5件)、部位別のがん(=肺がん、膵臓がん、結腸がん、膀胱がん、腎臓がん、それぞれ計 2 件)、さらに、死因を問わない死亡(=総死亡、計 8 件)でした。筋トレを全く実施していない群と比較して、筋トレを実施している群の総死亡および心血管疾患、がん、糖尿病のリスクは、ウォーキングやランニングなどの有酸素性の身体活動の影響を考慮しても、10〜17%低いことが明らかになりました。さらに、筋トレの実施時間の影響を確認したところ、総死亡、心血管疾患、がんでは週 30~60 分の実施で最もリスクが低くなった一方で(約 10~20%のリスク減少)、週 130〜140 分を超えてくると筋トレの好影響は消失し、むしろリスクが高くなることが判明しました。糖尿病については、実施時間が長ければ長いほどリスクが低い結果となりました(図 2)。

結論:

本結果は筋トレの長期的な健康効果を示している一方、やりすぎるとかえって心血管疾患やがん、死亡に対する健康効果が得られなくなってしまう可能性を示唆する重要な知見です。健康の維持増進を目的に筋トレの実施が国際的に推奨されているなか、本知見はその推奨を支持するとともに、我が国の身体活動ガイドライン注 4 においても新たに筋トレの実施を推奨する根拠となる重要なエビデンスの一つとなることが期待されます。

 

支援:

本研究は厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)JPMH20FA1006 の助成を受けて実施されました。

 

【用語説明】

注1. 筋力トレーニング(筋トレ):

レジスタンストレーニング(レジスタンス運動)、ウェイトトレーニング、自重トレーニングなど、筋肉に繰り返し負荷がかかり、筋力の向上が期待される活動すべてが含まれます。

注2. システマティックレビュー:

特定のテーマについて、明確に作られたクエスチョンに対し、系統的で明示的な方法を用いて、適切な研究を同定、選択、評価を行なうことで作成するレビューのこと。一般的なレビュー論文(叙述的レビュー)と比較すると、レビュー方法が系統的で明示的であるため、客観性・再現性が高い方法です。

注3. メタ解析:

過去に行われた複数の研究結果を統合し、より信頼性の高い結果を求める統計手法です。メタ分析、メタアナリシスとも呼ばれます。

注4. 身体活動ガイドライン:

身体活動の普及・啓発を目的とし、健康に対する身体活動の影響や実施すべき推奨値等が記載されています。国際的なガイドラインとして WHO から公表されている『身体活動・座位行動ガイドライン』(日本語訳:http://jaee.umin.jp/doc/WHO2020JPN.pdf)があります。日本のガイドラインは、厚生労働省から公表されている『健康づくりのための身体活動基準 2013』で、現在改訂作業が進行中です(https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/146872)。

 

図 1. 本研究の目的と概要

図 2. 筋トレと疾病および死亡リスクとの関連

筋力トレの実施時間毎(横軸)の相対リスク(縦軸)を示す。筋トレを全く実施していない人たちを基準(1.00)としており、実施時間毎の実際のリスクは実線で示されている(なお、破線はリスクがどの程度バラつく可能性があるかを示している)。

総死亡(左上)の場合、週 40 分で最も低い相対リスク(=リスク比)0.83 となっており、全く実施していない人と比較すると総死亡のリスクが 17%の低いことを意味する。さらに、週 140 分以降になると、相対リスクは 1.00 を超え、これは実施していない人と差はなくなる、あるいは、むしろリスクが高くなる可能性を示唆している。心血管疾患発症(右上)と総がん発症(左下)についても、同様の傾向が見られる。

一方、糖尿病発症(右下)は週 60 分まで相対リスクは急激に減少し、その後、減少は緩やかになっているものの、相対リスクは 1.00 を超えていない。したがって、糖尿病の場合は実施時間が長ければ長いだけリスクは低くいことを意味している。

 

【論文題目】

Title: Muscle-strengthening activities are associated with lower risk and mortality in major non-communicable diseases: A systematic review and meta-analysis of cohort studies

Authors: Haruki Momma, Ryoko Kawakami, Takanori Honda, Susumu S. Sawada

タイトル:筋トレ活動は主要な非感染性疾患の低い発症リスクおよび死亡率と関連する:コホート研究のシステマティックレビューおよびメタ解析

著者:門間陽樹(東北大学大学院医学系研究科運動学分野)、川上諒子(早稲田大学スポーツ科学学術院)、本田貴紀(九州大学大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野)澤田亨(早稲田大学スポーツ科学学術院)

British Journal of Sports Medicine(電子版)

DOI:10.1136/bjsports-2021-105061

 

詳細▶︎https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2022/03/press20220301-02-muscle.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

ムキムキを目指すだけが筋トレではない。 筋トレで死亡・疾病リスクが減少 週 30~60 分を目安に

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