【本研究成果のポイント】
- 1,非常に広帯域(0.5~80Hz)の音響振動情報(音響脈波:Acoustic Pulse Wave:APW)を記録できる音響センシングシステムを開発
- 2,前胸部から得られた APW から、非常に低い周波数帯域の心尖拍動図相当波形(Cardiac Apex Beat:CAB)と、それよりも周波数の高い心音図相当波形(Cardiac Acoustic Sound:CAS)の二つを取得。
- 3,センサーをイスに埋め込み、胸部・腹部の背面、腰部などから APW を得ることにより、座るだけで、長時間にわたる心臓および血管系の状態推定が可能に。
【概要】
広島大学大学院医系科学研究科の吉栖正生教授らを中心とする研究チームは、株式会社デルタツーリングとの共同研究により、非侵襲的に生体表面から生体脈波を採取する「確率共鳴を用いた音響センシングシステム」(4SR)を開発し、本システムにより得られる 0.5~80Hz の広帯域にわたる音響振動情報を、「音響脈波」(Acoustic Pulse Wave:APW)と命名しました。
【背景】
身体診察では、古くから聴診器を用いた聴診や、手指や手掌による触診が行われます。1970 年頃、心音や心雑音の聴診所見を客観化するため、心音図(PCG)が開発され臨床診断に活用されましたが、心エコー法の発達に伴って使われなくなりました。一方、心尖拍動(apex beat)を記録する心尖拍動図(ACG)は、記録技術が非常に困難なため、一部の専門家の研究対象に留まり、臨床診断には利用されていません。
【研究成果の内容】
4SR では、センサーを前胸部、胸部・腹部の背面、腰部などに押し当てるだけで、その部位の音響脈波(APW)が得られます。前胸部から得られた APW には、非常に低い周波数帯域の ACG 相当波形(Cardiac Apex Beat: CAB)と、それよりも周波数の高い PCG 相当波形(Cardiac Acoustic Sound:CAS)の二つが含まれています。様々な解析により、CAB と CAS を区切る境界周波数(Boundary Frequency:BF)が、心拍数によって決まることが示されました。
前胸部で得られた APW 由来の CAB(F-CAB)の一部は,心尖拍動図 ACG で得られる心尖拍動の波形に極めて類似しています。金子・藤田により集中的に行われた複数の数学的な解析により、F-CAB は大きく5種類に分けられることが明らかになりました。これにより、今後、心臓に病気のある人の心尖拍動の客観的な検討も可能になると考えられます。
さらに興味深いことに、前胸部だけではなく、胸部・腹部の背面、腰部などからも、APW と、APW 由来の CAB および CAS が取得できることが分かりました。胸腹部の背面や腰部から得られる CAB の解析は今後の検討課題です。一方、胸腹部の背面や腰部から CAS が得られるということは、心音(相当のもの)が胸腹部の背面や腰部から取得可能ということになります。センサーを胸腹部の背面や腰部に埋め込んだイスを作成した結果、座っただけでその部位の CAB および CAS の情報が得られています。
本研究成果は、2021 年 7 月 1 日に「Scientific Reports」に掲載されました。
<発表論文>
(論文タイトル)
「確率共鳴を用いた音響センシングシステムにより得られた音響脈波からの心尖拍動抽出」
(著者)
藤田悦則 1,2, 堀川正博 2 延廣良香 2, 前田慎一郎 2, 小島重行 2, 小倉由美 2,村田幸治 3, 木阪智彦 4, 垰田和史 5, 金子成彦 6, 吉栖正生 1
- 広島大学大学院医系科学研究科
- (株)デルタツーリング
- 山陽学園大学大学院看護学研究科
- 広島大学学術・社会連携室産学連携推進部
- びわこリハビリテーション専門職大学リハビリテーション学部・作業療法学科
- 早稲田大学理工学術院 国際理工学センター 創造理工学部(掲載雑誌情報)
・掲載雑誌:「Scientific Reports」
・DOI 番号:10.1038/s41598-021-92983-6
【今後の展開】
将来の発展性として、座っただけで心臓および血管系の調子をチェックできるだけではなく、長時間にわたって観察することが簡単に出来るようになります。AI を使用した分析を含めて広範な応用が期待されます。
【参考資料】
生体信号計測用センサ:4SR システム
センシング波形
詳細▶︎https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/69868
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。