70歳及び75歳の医療費自己負担割合軽減は入れ歯使用の所得格差を縮小させている可能性 ~絶対的格差の指標:3割負担で13%、2割負担で8%、1割負担で5%~

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歯を喪失した人が入れ歯を装着すると、健康状態に様々な良い影響を与えることが報告されています。それでもなお、入れ歯使用の格差が世界各国で報告されています。本研究では、65 歳以上の高齢者 21,594 名のデータを解析し、日本の国民皆保険制度における自己負担割合の違いが、重度の歯の喪失が認められる高齢者の入れ歯使用の所得格差にどのような影響を及ぼすかを調査しました。その結果、重度の歯の喪失にも関わらず入れ歯を使用していない者の割合は、3割負担の群で 18.3%、2割負担の群で 13.3%、1割負担の群で 8.5%でした。入れ歯不使用に対する所得格差について、ロジスティック回帰分析及び健康格差指標を算出して評価したところ、自己負担割合が大きい群ほど格差が大きいことが明らかになりました。必要とする質の高い保健・医療サービスをすべての人々が受けられるために、歯科医療保険のカバーの程度を広げることの重要性が示されました。

本成果は、5月15日にCommunity Dentistry and Oral Epidemiology.に掲載されました。

 

図1:歯の本数が9本以下で入れ歯を使用していない者の割合(N=21,594)

■背景

歯を喪失した人が入れ歯を装着することで、死亡率、栄養状態、食事の楽しさ、認知症の発症、転倒予防に良い影響があることが報告されています。それでもなお、入れ歯使用の格差が世界各国で報告されています。また、歯科医療保険のカバーの程度が、歯科医療サービスへのアクセスなどに影響することが示されています。日本は、世界で最も効率的な医療保障を実現していると言われており、歯科治療に関しては、入れ歯を含むほとんどの歯科治療がカバーされています。本研究では、日本の現行の国民皆保険制度下において、重度の歯の喪失がある高齢者における入れ歯使用の所得格差が医療費自己負担割合ごとにどのように異なるかを明らかにすることを目的としました。

■対象と方法

JAGESにおいて2019年~2020年に収集されたデータを使用しました。65歳以上で条件を満たした21,594名のデータを解析し、目的変数を入れ歯不使用、説明変数を等価所得(三分位)としました。歯の本数が9本以下の高齢者を、3割負担(65~69歳)、2割負担(70~74歳)、1割負担(75~79歳)の3群に分け、①ロジスティック回帰分析、②絶対的格差(Slope Index of Inequality (SII))及び相対的格差(Relative Index of Inequality (RII))の指標算出を行いました。年齢、性別、教育年数、歯の本数、現病歴の影響を、統計学的な方法で取り除きました。

■結果

重度の歯の喪失にも関わらず入れ歯を使用していない者の割合は、3割負担の群で18.3%、2割負担の群で13.3%、1割負担の群で8.5%でした。ロジスティック回帰分析の結果、等価所得低位群では高位群に比べ、3割負担で1.84倍、2割負担で1.57倍、1割負担で1.53倍義歯を使用していない確率が大きいという結果になりました。また、SIIは3割負担の群で13.35%、2割負担の群で7.85%、1割負担の群で4.85%でした。RIIは3割負担の群で2.09、2割負担の群で1.80、1割負担の群で1.78でした。

■結論

日本は世界的に見ても、歯科医療費の自己負担割合が低く、歯科の受診頻度が高い国ですが、それでもなお高齢者の入れ歯使用の格差が存在し、自己負担割合が大きいほど格差が大きいことが、本研究により明らかになりました。

■本研究の意義

本研究において、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(すべての人々が、必要とする質の高い保健・医療サービスを、支払の際に経済的な困難に苦しめられることなく確保している状態)に歯科を含めることの重要性や、所得格差への影響が示されました。入れ歯使用の格差を縮小させるためには、国際的に歯科医療保険のカバーの程度を広げる政策が必要であり、本研究がそのためのエビデンスの1つとして貢献することが期待されます。

■発表論文

Hoshi M, Aida J, Cooray U, Nakazawa N, Kondo K, Osaka K: Difference of income inequalities of denture useby co-payment rates: A JAGES cross-sectional study. Community Dentistry and Oral Epidemiology. 2022 May 15.

doi: 10.1111/cdoe.12749.

■謝辞

本研究は、 JSPS 科研、厚生労働科学研究費補助金、 国立研究開発法人日本医療開発機構(AMED)長寿科学研究開発事業、国立研究開発法人国立長寿医療研究センター長寿医療研究開発費、国立研究開発法人科学技術振興機構、革新的自殺研究推進プログラム、公益財団法人笹川スポーツ財団、公益財団法人健康・体力づくり事業財団、公益財団法人ちば県民保健予防財団、公益財団法人 8020 推進財団令和元年度 8020 公募研究事業、公益財団法人明治安田厚生事業団などの助成を受けて実施しました。記して深謝します。

 

詳細▶︎https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2022/06/press20220610-03-oral.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

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