慶應義塾大学理工学部の満倉靖恵教授、同大学グローバルリサーチインスティテュートのブライアン・スマリ特任講師らの研究グループは、簡単な脳波計測だけで軽度認知障害(MCI)の可能性を示すことに成功しました。この研究成果は認知症の早期発見に役立つことが期待されます。
本研究成果は 2022 年 4 月 22 日に学術誌『BMC Psychiatry』に掲載されました。
本研究のポイント
・認知症・軽度認知障害(MCI)の脳波を計測し、それぞれに特徴があることを示唆した
・簡易な脳波計測で上記が可能となった
・簡易な脳波計測だけで健常・MCI・認知症を特定することが可能になる
研究背景
認知症の人口が現在 600 万人以上と言われ、65 歳以上の 6 人に 1 人は発症していると言われています。2040 年には 4 人に 1 人は認知症患者になるのではないかと言われ、これからさらに増えていく中で、その早期発見が望まれています。しかしまだ早期に発見するための確立された方法がありません。特に IoT ヘルスケアなどの取り組みが進む中で、簡単なデバイスで心疾患などの検知をしようとする取り組みは行われていますが、いまだ認知症の早期発見の可能性を示したウェアラブルセンサなどは存在しません。
研究内容・成果
本研究グループは簡易にいつでもどこでも計測できる脳波計を使って、120 名の被験者を対象に、健常・MCI・認知症の 3 グループに分けて脳波を計測し、計測したそれぞれのグループで脳波の周波数の特徴を明らかにすることができました。これらによって図1に示すように、健常者・MCI・認知症の脳波にはそれぞれの特徴があることを明らかにしました。この特徴を使えば、脳波を取得するだけで認知症や MCI を判定することができます。使用した脳波計も負担なく、頭に巻くタイプで(図 2)取り付けに約 15 秒、計測開始までにキャリブレーション(個々が持つ偏った値を一般化すること)として 15 秒、トータルで 30 秒程で計測が可能です。動いても瞬時でノイズを除去し、安定して計測ができるので、どこでも簡単に計測を可能にしました。これらを日常的に使うことで、家にいたまま病院にいくことなく、簡単に MCI や認知症の可能性を計測できるようになると期待されます。
図 1 (a)は脳波を周波数の帯域に分けたとき、健常者、MCI、認知症患者の各周波数帯域におけるパワーの違い、(b)と(c)は特に特徴のある周波数帯域に絞ってその違いを明らかにしています
図2 実験で用いた簡易型脳波計
ノイズをリアルタイムで除去し、スマートデバイスに脳波を送る
今後の展開
さらにより多くの人々の協力を得て有効性を示すことで、家庭でも簡単に自分の状態を知ることができると考えており、認知症の早期発見に貢献できるよう努めていく予定です。
<謝辞>
本研究の一部は文科省科学研究費助成事業 基盤研究 S (17H06151)の支援を頂いています。ここに感謝申し上げます。
<原論文情報>
Mitsukura, Y., Sumali, B., Watanabe, H. et al. Frontotemporal EEG as potential biomarker for early MCI: a case–control study. BMC Psychiatry 22, 289 (2022).
doi: https://doi.org/10.1186/s12888-022-03932-0
詳細▶︎https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2022/6/10/28-124672/
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。