概要
奈良県立医科大学(理事長・学長 細井裕司 奈良県橿原市)のリハビリテーション医学講座 城戸 顕教授、眞野智生准教授、脳神経内科講座 杉江和馬教授は、MBT コンソーシアム会員(*1)の株式会社三笠(代表取締役社長 甘利茂伸、神奈川県横浜市)と共同で、特殊な編み技術を組み合わせて手指機能強化手袋を開発、5日間の装着にてパーキンソン病(*2)患者の手指筋力を改善させる可能性があることを、世界で初めて臨床研究で確認しました。研究の要旨は第 59 回日本リハビリテーション医学会(横浜)にて発表しました。
本技術は
1)奈良県立医科大学のリハビリテーション医学研究と脳神経内科学研究の蓄積による神経疾患患者の日常生活に必要な手指機能改善方法の考案
2)株式会社三笠の長年の靴下・手袋づくりで蓄積された特殊な編み技術を組み合わせて出来上がったもので、特許取得済み(特許 7045029)です。
本開発の手指機能強化手袋を5日間装着することで、パーキンソン病患者の手指筋力を改善させる可能性を確認しました。また期間中の装着期間と手指筋力の変化にも相関がありました。
更に、高年齢であっても握力は改善した一方で、罹病期間が短いほど Tip Pinch(*3:指尖つまみ力)、Palmar Pinch(*3:指腹つまみ力)、Lateral Pinch(*3:側方(鍵)つまみ力)の改善を認めました。
今後、株式会社三笠は、第3種医療機器製造販売業を取得し、医療機器としての商品化を目指します。またこの技術を応用してスポーツ関連商品への展開も図っていきます。
要点
・特殊な編み方の組合せを工夫する事により、手指に反り返る力を加えられる手袋を開発した。
・開発した手袋を装着したまま普段通りの日常生活動作を行うことで、動作時に必要な手指の筋力を改善させる事を臨床的に確認した。
研究成果
1.手指機能強化手袋の開発
今回、各指関節に力を作用させる編み方と糸を工夫して開発した手指機能強化手袋は、図1のように予め手の甲側に向いて反り返っており、装着する事により掌を開く方向に力が働きます。そして本手袋を装着すると図2のように手が反力により拡がります。
図1 手指機能強化手袋外観
図2 手指機能強化手袋装着状態
各関節に働く反力は、専用の計測器を開発して計測しました。関節反力測定器の外観を図3に示します。ばねばかりがスクリューガイドの稼働台に固定されており、スクリューを回す事でばねばかりが上下します。反力測定用手モデル(図4)は、各関節が負荷なしで曲がるように設計されており、手モデルに手袋を装着して計測器の底面裏に固定し(図5参照)、関節に通した糸をばねばかりにひっかけ、スクリューガイドを回してばねばかりを引き上げて、関節の反力を計測しました。各指の関節に働く反力を計測した結果は表1の通りです。
図3 関節反力測定器外観
図4 反力測定用手モデル
図5 関節反力の測定方法
表1 手袋から指に働く反力
2.手指強化手袋の臨床評価
この手袋をパーキンソン病患者に 5 日間装着した状態で、日常生活を過ごしていただき、臨床評価を実施しました。使用した群、使用しない群それぞれ 15 名に分け、使用前(0W)と1週間後(1W)の筋力を比較しました。その結果、使用しない群では筋力は増加しませんでしたが、使用した群において握力、Tip Pinch(*3:指尖つまみ力)、Palmar Pinch(*3:指腹つまみ力)、Lateral Pinch(*3:側方(鍵)つまみ力)が増加しましたが、特にPinch(つまみ力)の著しい増加を認めました。手指機能強化手袋を装着することで手指の筋力が増加する事が確認できました(図6)。実際に装着していた時間との関連を調べると、握力、Palmar Pinch、Lateral Pinch の増加は装着時間との関連を認め、手指機能強化手袋を装着の効果と考えられます。
図6 握力、ピンチ力の変化。ピンチ力で筋力増加を認める。
今後の展開
<研究としての今後の展開>
一般高齢者や長期入院が必要な患者へ応用し、その効果を確認していく予定です。
<商品化に関する今後の展開>
第3種医療機器製造販売業(クラス1)を取得し、医療機器として奈良県立医科大学を皮切りに全国のリハビリテーションを行う病院に供給すべく体制を整えてまいります。又、本研究と技術は、アスリートの筋力増強訓練機器としての展開も検討してまいります。
用語解説
*1:MBT コンソーシアム
MBT は Medicine-Based Town の頭文字の略称。奈良県立医科大学と連携して、医学の基礎知識を活用して産業創生・地方創生・まちづくりを通して社会貢献を目指す、約 200 社を超える会員企業からなる一般社団法人
*2:パーキンソン病
中脳の黒質ドパミン神経細胞が減少して発症する病気。10万人に100~150人が罹病、60歳以上では100人に1人の発症率と言われ、初発症状には振戦、筋強剛、動作緩慢があるが、経過とともに手指機能が悪化し、変形を来す場合もある。
*3:各 Pinch
*4:各関節名
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。