細胞の中の小器官へ薬を届けることに成功!

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発表のポイント

・体を構成し、生命の最小単位である細胞、その中にある細胞小器官へ薬を届ける研究はこれまでほとんどされていませんでした。

・細胞小器官へ、人工合成した薬を届けることに初めて成功しました。

・細胞内へのドラッグデリバリーだけでなく、細胞内輸送の研究にも役立つ可能性があります。

学術研究院ヘルスシステム統合科学学域の佐藤あやの准教授の研究室(岡山大学オルガネラシステム工学研究室)は、体を構成し、生命の最小単位である細胞、その中にある細胞小器官(オルガネラ)の研究をしているグループです。また、共同研究者の大阪大学梶原研究室は、タンパク質、それも糖鎖によって修飾された糖タンパク質の合成研究をしているグループです。

今回の共同研究では、細胞の中の細胞小器官(ゴルジ体や小胞体)に特定の薬(糖タンパク質)を届けることができれば、それが足りないことによって起きる疾患の治療などに役に立つのではと考え、その基になるシステムを作り出すことに成功しました。

本研究成果は、3 月 23 日に「Chemistry A European Journal」に掲載されました。今後、この基本のシステムを応用して様々な疾患の治療に役立つ薬の研究に役立てていきたいと考えています。

 

研究者からのひとこと(佐藤准教授)

本当は、この糖タンパク質に小胞体まで行ってもらってその後どうなるかの研究をしたかったのです。が、期待通りにならなかったおかげで、ゴルジ体で止める未知の経路の発見に繋がりそうなんです!!

現状

治療に使われる薬は、体内で分解されてしまったり、治療したい部位以外で働いてしまったりすることを避けるため、目的の部位に必要な時に必要な量薬を届ける、ドラッグデリバリー(薬剤送達)の研究と実用化が進んでいます。

また、遺伝子に起因する疾患の治療を目的とした遺伝子治療が開発されています。究極的には遺伝子が疾患を起こさない形に変化・修復するような遺伝子治療が有効であると考えられますが、その際に副次的に遺伝子を傷つける可能性があるため、研究や実際の治療はとても慎重に進められています。遺伝子治療のように全てのケースに対応できるわけではありませんが、例えば、「何か」が足りないために起きるような疾患の場合、その「何か」を何らかの方法によって補充することによって、遺伝子に影響を及ぼすことなく、症状が改善することが期待されます。

研究成果の内容

体を構成し、生命の最小単位である細胞、その中には、それぞれの役割分担のために小さな区画があります。これを細胞小器官やオルガネラと呼びます。私たち、岡山大学オルガネラシステム工学研究室では、この中でも小胞体やゴルジ体など、品質管理を行っている細胞小器官の研究を行っています。大阪大学梶原研究室では、タンパク質、それも糖鎖によって修飾された糖タンパク質の合成と研究をおこなっています。今回、この二つの研究グループが共同して、ゴルジ体の中に、人工合成された糖タンパク質を送達することに初めて成功しました。(図 1)

図 1

社会的な意義

本研究成果は、細胞の中の特定のタンパク質が足りないことによって起こる疾患の治療などに役立つ可能性があります。今回は、特定細胞小器官へのドラッグデリバリーの基になるシステムを開発した段階ではありますが、今後このシステムを応用し、治療に貢献したいと考えています。

論文情報

論 文 名:Design and Synthesis of Glycosylated Cholera Toxin B Subunit as a Tracer of Glycoprotein Trafficking in Organelles of Living Cells

掲 載 紙:Chemistry A European Journal

著 者:Yuta Maki, Kazuki Kawata, Yanbo Liu, Kang-Ying Goo, Ryo Okamoto, Yasuhiro Kajihara, Ayano Satoh

D O I:https://doi.org/10.1002/chem.202201253

U R L:https://chemistry-europe.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/chem.202201253

研究資金

本研究は、科研費、水谷財団の支援を受けて実施しました。(17H01214, 21H05028, 21H04708; 210074) 

詳細▶︎http://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id978.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

細胞の中の小器官へ薬を届けることに成功!

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