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骨粗しょう症性椎体骨折には安静臥床での保存療法が有効~診療ガイドラインにつながる新エビデンス~

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骨粗しょう症性椎体骨折(いわゆる背骨の圧迫骨折)は高齢者の脆弱性骨折のうち発生頻度が最も高く、医療現場では施設を問わず日常的に生じる疾患です。急性期治療は手術などを行わない保存療法(安静臥床など)が原則ですが、これまでその効果を示す質の高いエビデンスが不足しており、診療ガイドラインはありません。一方、本骨折に対する画像検査の研究が近年進み、骨癒合不全になることを予測できる特徴的なMRI所見が明らかになっています。

本研究では、骨粗しょう症性椎体骨折の急性期に対する安静臥床の効果を検証するため、前向きコホート研究を実施しました。初期2週間の入院安静臥床の有無による6ヶ月後の治療成績を比較したところ、予後不良MRI所見を有する症例では、安静臥床を行うと手術療法が必要となる症例を有意に減らせることが明らかになりました。また、予後不良MRI所見の有無に関わらず、安静臥床により椎体圧潰と後弯変形の進行を有意に減弱できることが分かりました。合併症の発生については、安静臥床による差は見られませんでした。以上より、本骨折の急性期における初期2週間の限定的な安静臥床は、安全で高い治療効果が得られる保存療法であると結論付けられました。

本研究成果は、本骨折治療法としての保存療法の有効性に対する新たなエビデンスであり、診療ガイドラインの策定につながることが期待されます。今後さらに、保存療法における外固定装具の有無や装着期間に関するエビデンスの創出を目指します。

研究代表者

筑波大学 医学医療系

船山 徹 講師

研究の背景

骨粗しょう症性椎体骨折注1)は、高齢者の脆弱性骨折のうち発生頻度が最も高い骨折です。その発生率は男女問わず年齢とともに指数関数的に増加し、骨粗しょう症の有病率が高い女性の発生率は、70歳代で40/1,000人年、80歳代で84/1,000人年と報告されており(Fujiwara, et al. J Bone Miner Res 2003)、高齢化率が世界一である本邦の医療現場では、施設を問わず日常的に生じる疾患です。

 

本骨折の急性期治療は安静臥床注2)をはじめとする保存療法が原則で、その後の経過に応じて手術等が行われます。しかし、エビデンスが非常に不足しているため、診療ガイドラインは作成されておらず、担当医の経験や施設の慣例に基づいたさまざまな治療法が行われているのが現状です。一方、本骨折に対する画像検査の研究が近年進み、骨癒合不全(一定期間を経ても骨折が治癒しない)になることを予測できる特徴的な予後不良MRI所見(Tsujio, et al. Spine 2011)が報告され、臨床現場で活用されています。

 

本研究グループでは、これまで、本骨折の急性期に対して初期2週間の入院安静臥床による保存療法を導入し、治療成績を報告してきました(Abe, et al. ArchOsteoporos 2018)。また2週間の限定的な安静臥床であれば、高齢者であっても廃用症候群(⻑期間の寝たきり状態によって生じる心身の機能低下等)のリスクは増加しない(Ikumi, et al. J Rural Med 2021)こと、予後不良MRI所見を有していても、初期2週間の入院安静臥床を行うと大部分の症例は保存療法が奏功する(Funayama, et al. J Orthop Sci 2022)ことを明らかにしています。しかし一般的に行われている安静を伴わない保存療法との比較はこれまで行われておらず、安静臥床の必要性は不明でした。そこで本研究では安静臥床の有無による治療効果の違いを比較する前向きコホート研究注3)を実施しました。

研究内容と成果

2018年12月から2020年12月の間に受傷後2週間以内に治療開始となった65歳以上の骨粗しょう症性椎体骨折患者を研究対象としました。二次医療圏注4)の異なる病院を2施設選定し、一方では、2週間の厳密な入院安静臥床を指示し(安静群:116例、平均80.4歳)、もう一方では、安静指示を行わず疼痛に合わせて離床を許可しました(非安静群:108例、平均81.5歳)。安静臥床中は骨折椎体の安静のため、ベッドの起き上がり角度を20度までに制限し、廃用予防を目的とした四肢の床上リハビリテーションを行いました。なお、離床後の外固定装具の種類と装着期間、および手術療法への移行基準は施設間で統一し、併用する骨粗しょう症治療薬は担当医に一任しました。

6ヶ月の観察期間中、主評価項目として手術療法への移行率、副次的評価項目として、手術移行例を除いた症例の骨癒合率、椎体圧潰注5)の進行度、後弯変形注6)の進行度および日常生活動作の推移、の4つを設定し、全症例および予後不良MRI所見の有無で安静群と非安静群を評価、比較しました(参考図)。

患者背景(年齢、性別、受傷高位、骨密度、血液検査、画像所見など)および観察期間中の合併症の発生について、2群間の差は見られませんでした。また、主評価項目に関して、両群とも予後不良MRI所見がない症例では、手術療法への移行例はありませんでした。しかし予後不良MRI所見がある場合、安静群では45例中3例(6.7%)、非安静群では37例中9例(24.3%)が手術療法へ移行となり、安静群で手術療法への移行率が有意に低い結果となりました。副次的評価項目のうち椎体圧潰の進行度は、安静群で平均6.4%、非安静群で平均20.9%、後弯変形の進行度は、安静群で平均2.4度、非安静群で平均8.8度であり、予後不良MRI所見の有無に関わらず、安静群で椎体圧潰と後弯変形の進行を有意に低減できることが分かりました。なお骨癒合率と日常生活動作の推移は2群間で同等でした。

以上より、骨粗しょう症性椎体骨折の急性期における初期2週間の入院安静臥床は、骨折椎体の安定化に有利に働き、高齢者でも、合併症を増加させることなく高い治療効果が得られる保存療法であると結論付けられました。

今後の展開

本研究により、骨粗しょう症性椎体骨折における保存療法の効果に対する新たなエビデンスが得られたことから、診療ガイドラインの策定に貢献できると期待されます。今後、本骨折の保存療法における重要な要素の一つである、外固定装具の有無や装着期間に関しても、同様の手法により、エビデンスの創出を目指しています。

臨床現場では、本骨折の初期に正しい評価と適切な治療介入がないまま経過し、結果的に偽関節注7)や遅発性麻痺注8)または過度な後弯変形による姿勢保持障害といった患者に大きな負担のかかる手術が必要となる難治症例になってしまうことがいまだに後を絶ちません。本研究グループでは、本骨折の治療体系を確立し、このような難治症例を一人でも減らすことができるように今後も取り組んでいく予定です。

参考図

図本研究のフローチャート(研究デザイン:前向きコホート研究)

用語解説

注1)骨粗しょう症性椎体骨折

骨粗しょう症を起因とする脊椎の脆弱性骨折。いわゆる背骨の圧迫骨折。転倒などの軽微な外傷で発生する。第12胸椎や第1腰椎といった胸腰椎移行部に多い。

注2)安静臥床

安静を保ちながらベッド上に寝ていること。

注3)前向きコホート研究

あらかじめ定義した疾患の患者に対して、ある要因の有無による治療成績の違いを、研究開始時点から将来に向かって観察して比較する研究方法。

注4)二次医療圏

救急医療を含む一般的な入院治療が完結するように各都道府県が設定した区域。通常、複数の市区町村から構成される。

注5)椎体圧潰

椎体骨折の受傷後、さらに椎体の圧迫が進み潰れていくこと。

注6)後弯変形

椎体骨折の受傷後、脊柱が円く変形してくること。

注7)偽関節

保存療法を継続しても骨癒合が期待できない状態。実際は、受傷から9ヵ月が経過し、3ヶ月にわたり治癒進行の可視的な兆候が認められない場合を言う。

注8)遅発性麻痺

椎体骨折の受傷後、徐々に圧潰した椎体が脊柱管内に突出して脊髄や馬尾神経を圧迫し、下肢の麻痺を呈すること。

研究資金

本研究は、一般社団法人日本骨粗鬆症学会2018年度研究奨励賞により実施されました。

掲載論文

【題名】

Therapeutic Effects ofConservative Treatment with 2-WeekBedRest forOsteoporoticVertebral Fractures: A Prospective Cohort Study

(骨粗しょう症性椎体骨折に対する2週間の安静臥床による保存療法:前向きコホート研究)

【著者名】

Toru Funayama(船山徹), M.D., Ph.D., Masaki Tatsumura(辰村正紀), M.D., Ph.D., KengoFujii(藤井賢吾), M.D., Ph.D., Akira Ikumi(井汲彰), M.D., Ph.D., Shun Okuwaki(奥脇駿), M.D., Yosuke Shibao(柴尾洋介), M.D., Ph.D., Masao Koda(國府田正雄), M.D., Ph.D., Masashi Yamazaki(山崎正志), M.D., Ph.D., and Tsukuba Spine Group

【掲載誌】

Journal of Bone and Joint Surgery. American Volume

【掲載日】

2022年8月24日

【DOI】

10.2106/JBJS.22.00116

詳細▶︎https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20220829140000.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

骨粗しょう症性椎体骨折には安静臥床での保存療法が有効~診療ガイドラインにつながる新エビデンス~

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