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脳卒中後てんかんの最大のリスクが脳表シデローシスであることを解明

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国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)脳神経内科部長猪原匡史が代表を務める国内多施設共同研究(PROgnosis of Post-Stroke Epilepsy:PROPOSE)において、同科の田中智貴医長、福間一樹医師、猪原匡史部長らのグループが、脳表シデローシス(脳の表面に鉄の沈着が起こる現象)が最も脳卒中後てんかんのリスクとして重要であり、既存の脳卒中後てんかんのリスクスコアに含まれる皮質病変や脳卒中重症度といった因子に脳表シデローシスの有無を追加で投入することで脳卒中後てんかんのリスク推定に有用であることを明らかにしました。この研究成果は、米国神経学会機関誌「Annals of Neurology」(1977年創刊)オンライン版に、令和4年9月1日に掲載されました。

■背景

超高齢社会に突入したわが国で、高齢者てんかんが問題となっていますが、脳卒中後てんかんは高齢者てんかんの原因の約半数を占める重要な疾患です。これまでに年齢、脳卒中の重症度や脳卒中病変の部位(皮質領域)などの因子が脳卒中後てんかんのリスクとなると報告されていましたが、脳卒中病巣の一体何が最大のリスクとなるのかは不明でした。そこで、当研究グループは、頭部MRI画像における脳卒中病巣を詳細に検討し、脳卒中後てんかんに特徴的な所見を調査しました。

■研究手法

2014年~2018年の間に当院に脳卒中後てんかんで入院した症例と、同時期に急性期脳卒中で入院、その後に脳卒中後てんかんを発症していない症例(脳卒中発症より最低3ヶ月以上観察)を比較し、頭部MRIでの画像的特徴について比較検討を行いました。

さらに、脳梗塞群、頭蓋内脳出血群に分けて、既報告の脳卒中てんかんリスクスコア(脳梗塞:SeLECTスコア、頭蓋内脳出血:CAVEスコア)と我々が今回新たに作成したリスクスコアの有用性について検討を行うため、対象群をランダムにトレーニングデータとテストデータとして7対3に分割し、トレーニングデータにてスコアの有用性を確認の後、テストデータにてその結果の正確性について検証を行いました(図1)。

■成果

1.脳卒中後てんかんにおける脳表シデローシスのリスク

脳卒中後てんかん180症例(年齢中央値74歳、男性62.8%)とコントロール1183例(年齢中央値74歳、男性62.8%)の比較において、既報告にある皮質病変、脳卒中病巣の大きさ、出血性脳卒中、重症、早期発作歴ありに加えて、脳表シデローシスの存在が、脳卒中後てんかん群で有意に高率に見られ、最大のリスク因子であることが判明しました(48.9% vs. 5.7%, P <0.0001)。年齢、性別、背景疾患などの様々なグループで分けて検討しても、くも膜下出血群の場合を除き有意に脳卒中後てんかんに強い関連を示しました(図2)。

2.脳卒中後てんかんの新スコアモデル

既存の脳卒中後てんかんリスクスコア(脳梗塞:SeLECTモデル、頭蓋内脳出血:CAVEモデル)に、今回の研究で明らかとなった最大のリスク因子・脳表シデローシスを加えた新スコアモデル(脳梗塞:SeLECT-Sモデル、頭蓋内脳出血:CAVE-Sモデルと命名)を作成し、トレーニング群とテスト群でそれぞれ比較すると、脳梗塞と頭蓋内脳出血のいずれにおいても新スコアモデルが脳卒中後てんかんの的確な診断に有用であることが判明しました(NRI *:SeLECT-Sスコア0.63 [p=0.004]、CAVE-Sスコア 0.88 [p=0.001])(図3)。

*NRI:net reclassification improvementのこと。値が高ければ高い程、新しいスコアによる診断の精度が高いことを示す。

■本研究から得られた知見

脳表シデローシスは脳出血のリスクバイオマーカーとしては知られていましたが、本研究では、脳卒中後てんかん発症の最大のリスク因子であることを世界で初めて明らかにしました。この新知見が脳卒中の日常診療に組み込まれ、SeLECT-Sモデル、CAVE-Sモデルが日本発の脳卒中後てんかんのリスクモデルとして世界中で広く使用されていくことが期待されます。

■発表論文情報

著者:

Tomotaka Tanaka, Kazuki Fukuma, Soichiro Abe, Soichiro Matsubara, Shuhei Ikeda, Naruhiko Kamogawa, Hiroyuki Ishiyama, Satoshi Hosoki, Katsuya Kobayashi, Akihiro Shimotake, Yuriko Nakaoku, Soshiro Ogata, Kunihiro Nishimura, Masatoshi Koga, Kazunori Toyoda, Riki Matsumoto, Ryosuke Takahashi, Akio Ikeda, Masafumi Ihara

題名:

Association of cortical superficial siderosis with post-stroke epilepsy

掲載誌:

Annals of Neurology

■謝辞

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業「脳卒中後てんかんの急性期診断・予防・治療指針の策定」により支援されました。

<図表>

図1 研究のフローチャート

*PSE(post-stroke epilepsy):脳卒中後てんかんのこと

*トレーニング、テスト:患者対象をランダムに7対3の割合に分けて、トレーニング群で新たな脳卒中後てんかんリスクスコアを既存のスコアと比較した後、テスト群でその結果の正確性について検証を行った。

 

図2 各下位グループにおける脳表シデローシスの脳卒中後てんかんに関するオッズ比

 

図3 既存の脳卒中後てんかんリスクモデルと新リスクモデルの比

 

詳細▶︎https://www.ncvc.go.jp/pr/release/pr_34253/

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

脳卒中後てんかんの最大のリスクが脳表シデローシスであることを解明

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